「不知火と尾丸、
あたしは捜査官
「調査員の、誰にでしょう」
「ティモシー・リー、ジャック・ケルソー、アメリア・ワトソン。この三人に」
「リーはおりますが、他の二人は無理ですね」
「なんでだ?」
横からポルカが出てきて、ドスの利いた声で問いただした。受付係はちょっと怯んだ様子を見せたものの、なんとか声には出さずに返した。
「ケルソーは先月、サン・フランシスコ支社に転勤しました。ワトソンは去年の暮れに退職しています」
「なるほど。じゃあ、リーさんに取り次いでもらっても?」
「お待ちください」
受付係は電話機の受話器を取ると、内線番号らしい4桁をダイアルした。
「......キーズです。検事局の人が見えてまして、話を聴きたいと......わかりました」
受付係は受話器を置いて、ホールの奥を指した。
「奥の
「どうも」
建物の奥の薄暗い
ポルカが運転レバーを廻してドアを閉める時、受付係が誰かに電話をかけているらしいのがちらっと目に入った。
「どうも、検事局の方ですね?」
5階の503事務室は、
あたしは再び捜査官
「不知火捜査官と尾丸捜査官補、
「ティモシー・リーです。さっそくご用件を伺いましょう」
「あなたが損害調査を担当した労災事故について、いくつか伺いたいことがあるんです」
デスクの前の客用椅子にかけながら、事件ファイルから保険金支払い明細書のコピーを抜き出して、リーに渡した。
「単刀直入に訊きますけど、その保険のこと、どう思います?」
「どうと言われましても......よくあるタイプの労災保険ですね、としか」
「本気ですか?」
あたしの背後からポルカが口を挟んだ。
「年間保険料200ドルで保険金二万ドルですよ? しかも事故死なら倍額払いときた。個人向けの保険にしちゃ、優遇もいいところじゃないですか」
「まあ、そうかもしれませんな」
「なのに支払いを通したんですか?」
「書類に問題はありませんでしたから。映画のように外交員が保険金詐欺を企んだ、なんて形跡もありませんでしたし」
リーは自分の冗談に神経質そうな笑い声をあげた。ただ、それは素の笑い声というよりも、むしろ自然に振舞おうとして失敗してるようにあたしの目には映った。証明する手立てはないけれど。
「......そうですか。ところで、郊外再開発基金という投資信託をご存知ですか?」
リーは一瞬だけギクッとしてから答えた。
「いや、知りませんな」
「その労災事故が起きた工事の発注者です。それくらいは標準調査でご存知だと思いますけど?」
「えー......」
知っていてもおかしくないものを知らないというのは、何かしら隠し事をしたい時って相場は決まっている。
不自然な時間をかけはしたものの、リーはなんとかそれらしい理由を引っ張り出すことに成功した。
「そうでしたな。最近は担当する保険が多いものでして、忘れてました。二人抜けて、その穴埋めもありますしね」
「ふーん?」
ポルカが挑発的に鼻を鳴らしたけれど、リーはそれに乗る様子は見せなかった。
「いいでしょう。その、抜けたお二人ですけど。ケルソーさんはサン・フランシスコの方に移られたんですよね?」
「ええ、そうです。あっちは弊社最大の支社ですからね、栄転ですよ」
「ワトソンさんはいかがですか」
「さあ......」
リーさんは、今度は本物らしい困惑の色を見せて言った。
「前任の上席が彼女だったんですが、ふっといなくなってしまって。おかげで引き継ぎもありませんでしてな、大変でした」
「彼女の退職について、なにか社内で噂を聞いたりとかは?」
「特には。
「彼女の身体的特徴について、教えてもらえますか?」
これはポルカからの質問だ。リーさんはしばらく思い出すような目をしてから、ゆっくり答え始めた。
「えーっと......白人女性で......金髪、碧眼......身長は
「なるほど......ご協力ありがとうございました、リーさん」
「すみません、検事局の方ですか?」
リーの事務室を出ると、外で待っていたらしい女性が話しかけてきた。
「ええ、そうです」
「支社長秘書のエリザベス・エバリーです。ベンソン副社長から、なにか協力できることがあれば、と言付かっています」
「それでしたら副社長からもいくつかお話を伺いたいんですけど、いまお会いできますか?」
「ええどうぞ、ご案内します」
「あ、ポルカちょっと下で電話かけてくるわ」
ポルカがそう言って、
「行ってらっしゃい。じゃあ、案内をお願いします」
あたしはポルカの背中に声をかけてから、エバリーさんの後について支社長室へと向かった。