「私ね、この十か月の間ずっと怯えて暮らしてたの。そのドアを蹴破ってあいつらが入ってくる夢を、数えきれないほど見たわ」
ワトソンさんは、右手でスカートの裾をぎゅっと握ったまま、吐き出すようにそう言った。そしてふと、自嘲するような笑みを浮かべて続けた。
「白状するわね。二人が階段を上がってくる足音を聞いたとき、私は怖くて固まっちゃったの。二人とも女の人だってことは、足音で見当がついてたのにね」
「それで、最初にノックした時には応答がなかったんですか」
「恥ずかしながらね」
本当に恥ずかしいらしくフレアの問いに、ワトソンさんは伏し目がちに答えた。でもすぐに、その目をキッと上げて続けた。
「でも、こんな暮らしはもう厭なの。いつまでも猫に追い回されて怯えるネズミでいたくない。私は......私は、アメリア・ワトソンとして生きたいの!」
「......ポルカ、ちょっと」
フレアがあたしにちょいちょいと手招きして、部屋の隅の方に誘った。ワトソンさんの方には、その場で待つように手で合図をしている。
隅によると、フレアは前置きなしに切り出した。
「ポルカ、ワトソンさんを連れてきたいって思ってるでしょ?」
「う......顔に出てた?」
「結構わかりやすかったよ」
人の悪い笑みを顔に浮かべて、フレアは言った。
ごろつきに殴られて脅されたあの経験が、あたしの判断に――というか、同情心に――影響しているのは事実だ。ワトソンさんの方がよっぽどひどい目に遭っているけど、それでも彼女と自分を重ねてしまっている。
「あたしはピーターセンのところに報告に行くから。ワトソンさんを連れて行くかの判断は、ポルカに任せるよ」
そう言ってフレアは、あたしにデソートの
「......いいの?」
「好きなようにしな? 責任はあたしが取るからさ」
フレアはあたしの肩をぽんぽん叩いてドアに向かったけど、ふと振り返って付け加えた。
「ただし、あたしの自動車は大切に扱ってよね。壊したら......」
「わかってる、大切にするよ。ポルカの給料じゃ、とても弁償できないしな」
「おおい、ここは私有地、立ち入り禁止だ」
あたしはフレアの46年式デソート・デラックスを、北ウィルトン
金網門扉の正門には朽ちかかった看板がかかっていて、"キーストーン
そして比較的新しめな門衛詰所から、エンジェルス
あたしは
「尾丸捜査官補、
「捜査? ここのか?」
「いや、よその労災事故」
「ここは45年から郊外再開発基金が持ってて、週に二、三回くらいエリシアン・フィールズ
「あー......」
それは規則違反だ。少なくとも、警備員や守衛の目の前でやれることじゃない。
どうしたものか考えあぐねていると、後ろに控えていたアメリアが杖の音を立ててやって来て、最初にあたしたちに使ってたのと同じイギリス訛りで言った。
「ちょうど10時半を回った頃だが、どうかな?
「そうさな......俺のポケットの中に何ドルか湧いて出るような奇跡があれば、コーヒーと軽食をつまんで来ようって気になるかもしれねえな」
「ほら」
話の途中から意図を察したあたしは、
門衛はそれ以上何も言わずにウィルトン
「......すまないね。言い出しっぺが金を出さなくて」
「ええんよ、捜査経費として請求するから。それより、アメ......リンディはその足じゃ、柵を越えられなくない?」
「問題ないよ。私は鍵を持っているからね」
「え?」
早く言ってよ、と文句を付けようとすると、アメリアはさっきのフレアみたいな、邪悪な笑みを浮かべて続けた。
「悪いが、しばらくむこうを向いてくれるかな?」
「あっはい」
素直に表通りの方に向き直った。
背後ではアメリアが門に歩み寄る音がする。キリキリと何かを引っ掻くような音が少しして、ものの数秒で錆びた閂を抜く音が聞こえた。
「お先にどうぞ、捜査官」
「......すっげえ」
アメリアが芝居ががった仕草で、門を開けていた。その手には、開いた南京錠をぶら下げている。
「これくらいならお手の物さ。寝ながらだって開けて見せるよ」
あたしが門を抜けると、後ろ手に金網の門扉を閉じながらアメリアがそう言った。若干鼻に付く――わざとなんだろうけど――イギリス訛りながら、その口調には確固たる自信がこもっていた。