H.L. Noire   作:Marshal. K

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A Polite Invitation

 

 

「コートニー・シェルドン?」

 

 あたしがサンセット大通り(ブールバード)沿いにあるフブちゃんちを訪ねた時、フブちゃんとミオしゃはちょうど夕ご飯を終えたところらしかった。

 居間に通されたあたしは、ミオしゃが食器を片付けている間に、フブちゃんにコートニー・シェルドンを知っているかと訊いたんだ。

 

「うん、知ってるよ」

「だと思った。確認するけど、フブちゃんが左遷された事件で、最後に取り調べてたのがこいつなんだな?」

「そう......だけど、なんでそれを?」

「その時、他に誰か同席してなかった? 例えば......精神科医とか」

 

 フブちゃんの目が、かっと見開かれた。

 

「......どうして知ってるの」

「レイシーから聞いたんよ。ウォーレル局長が直々にやって来て、フォンテーン医師を同席させるように圧をかけられたって」

 

 フブちゃんは何も言わない。表情は無だ。ただ、テーブルの上で握られた指がみるみる真っ白になっていっていた。

 あたしはその様子を見ながら、手提げ鞄(ハンドバッグ)から登記簿の写しを取り出した。夕方にフレアから預かったやつだ。

 

「これは公文書館(ホール・オブ・レコード)から取ってきた、郊外再開発基金の法人登記の写し。ほんで、ここを見てほしいんよ」

 

 あたしはページを繰って出資者兼業務執行役員の一覧を出すと、フブちゃんの前に押しやった。

 この一覧に名前が載っているのは、例の録音テープの会談に参加していたメンバーとほぼ同一だ。ただし、あの席にいなかった人物が二人載っている。

 一人はロサンゼルス市長フレッチャー・ボーロン。そしてもう一人は......

 

「いるね。コートニー・シェルドン」

「しかも、フォンテーン医師と同じ日に登記されてる。んで、レイシーから聞いた話を思い出して、フブちゃんならなんか知ってるかなって思ったんよ」

「シェルドンはね、例のモルヒネ強盗の犯人だよ」

「確証はあるの?」

「......局長が入ってきて中断される直前に、司法取引を申し出てた」

 

 その時を思い出してか苦々しい顔をしつつ、フブちゃんは続けた。

 

「他にもメモ書きとか、名刺とか、共犯の遺言とか色々あったけど......とにかく、間違いないと思う」

「この出資金の出処だけど、モルヒネを売った金だと思う?」

「思うよ」

 

 即答だった。

 

「わかった......こっちはフブちゃんから貰った、例の保険を調べてたんだけど、保険金詐欺の臭いがしてきたぞ」

 

 フブちゃんに、郊再基金の保険金詐欺の話を――アメリアの話はボカして――してる間に、ミオしゃも居間に戻ってきた。

 大体の説明が終わると、ミオしゃが書き取ったメモを見ながら、要点を声に出して整理した。

 

「つまり、こう言う事? モンロ―社長は保険会社の支社長と結託して、見せかけだけの家を建ててそれに保険をかけてる。そしてそれに放火して、吊り上げられた保険金を受け取ってる、ってこと?」

「ポルカたちはそう睨んでる。ここに名前がある連中は、」

 

 あたしはテーブルの上に置いた登記簿をとんとん叩いて続けた。

 

「通常の出資者配当に加えて、予算から抜かれた分や保険金の上乗せ部分から、キックバックを受け取ってるんだと思う」

「なるほどねえ......」

 

 ミオしゃは目頭を揉みながらそう言って、椅子の背にもたれかかった。あたしは登記簿を睨みつけてるフブちゃんに向き直ると訊いた。

 

「フブちゃん、火事の方はどうなってる?」

「え? ああ、相変わらずだよ。住宅火災の度に、エリシアンのチラシでできた折り鶴(ペーパー・クレーン)が残ってる。被害者たちが同じ部屋に集められてることも度々だけど......」

「犯人は目星もついてない?」

「全然。殺人課(ホミサイド)が持って行っちゃったしね」

「そっか......」

 

 火災犯捜査のキモは、あの地獄のような現場から何か見つけ出せるかどうかにかかっている。

 フブちゃんは火災犯刑事としては新米だけど、元々殺人課にいたぐらいだから重要な証拠を見逃したりはしないはずだ。そのフブちゃんが犯人の目星も付けられないなら、殺人課の連中も無理だろうな。

 

「とにかく、ポルカは明日シェルドンに当たってみる。フブちゃんはダメだよ?」

 

 何か言おうとしたフブちゃんを遮って続ける。

 

「警戒されるだけだかんね。ちょっと考えてるやり方があるから、シェルドンはこっちに任せて」

「......わかった」

 

 フブちゃんは不承不承って表情で引き下がった。

 

「それじゃあ、ウチは手が空き次第――雑務係って結構忙しいんだよ――フォンテーンに探りを入れてみるよ。フブキと違って、ウチはフォンテーンと面識がないからね」

「白上も火災現場に目を光らせとく。何か進展があったら伝えるよ」

「頼んます」

 

 

 

 

 

「気に食わないわ......」

 

 翌朝。マリポーザ通りを北に向かうデソート・デラックス――引き続き、フレアの自動車を借りていた――の中で、アメリアがぼそりと呟いた。それに軽口で返す。

 

「まあ、イヤなやつに会いに行くわけだからな、気持ちはわかる」

「え?」

 

 アメリアはひどく動揺した声を上げた。どうやら、声に出てたとは思ってなかったらしい。

 

「違うの。いや、確かにあいつは気に食わないけど、それとは別の話で」

「別の話?」

「何か......何か見落としてる気がするの。なんでベンソンは、時価評価額まで吊り上げる必要があったのかしら......」

「そりゃ、保険金を吊り上げるため......」

「違うわ」

 

 あたしの推理を、アメリアがばっさりと切り捨てた。

 

「保険金は再調達価額を基に支払われるのよ、だから時価評価額まで吊り上げる必要はないの。むしろ同じ保険証券上に記載されるんだから、こんな風に無用な注意を惹く可能性だってあるわ」

 

 アメリアは風防ガラス(ウィンドシールド)の向こうを、見るとはなしに見ながら続けた。

 

「私も、再調達価額と時価評価額がこんなに乖離してなかったら、ダウンタウンまで行って公有地の売却記録を調べたりしなかっただろうし」

「つまり、不必要に危ない橋を渡ってるってわけか? 何のために?」

「それがわからないの。だから気に食わないのよ」

 

 シートの背に沈みこんで深々と溜め息を吐くと、アメリアは頭を振って続けた。

 

「とりあえず、この聴取は保険金詐欺の方で続けましょう。こっちの枝を追える材料が少なすぎる......」

「わかった。ところで、そろそろ着くぞ」

 

 保険のアレコレについては、付け焼刃のあたしよりも保険会社勤めだったアメリアの方が詳しいはずだ。そのアメリアがわからないことが、あたしにわかるわけがない。

 とりあえず気持ちを切り替えることにして、あたしは小豆色(マルーン・レッド)のデソートを、道沿いの駐車場に乗り入れさせた。

 

 

 

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