「さあて、それじゃあキリキリ質問に答えてもらいますよ」
ソファの上で丸まっているベンソン副社長を見下ろしながら、あたしは聴取を始めることにした。相手の背後ではアメリアが、立派なデスクの上の書類を漁りはじめている。
「まずは、郊外再開発基金について聴かせてもらいましょうか」
「ロサンゼルスの未来を創るための会社だ。君ごときが首を突っ込んでいい話じゃない」
「情報を、ベンソン副社長」
イライラ、という感じでベンソンに歩み寄って圧をかける。
「ポルカが欲しいのは、そんなパンフレットの謳い文句みたいなのじゃないってのは、わかってるでしょ?」
「住宅需要に対処するために提携した、実業家たちによる基金だ」
相変わらず薄っぺらいものしか出てこないな。
「だとしたら、ずいぶん性根の腐った実業家たちですね? 映画セット用の生木で家を建てて、それを焼いて保険金をふんだくるなんて」
「何の話だ?」
「あんたがモンロー社長との、個人的な繋がりで結んだって保険の話ですよ、ベンソン副社長。家とも呼べない代物を建てて、あんたがそれに保険をあてがっている。一体あんたにはいくら還元されるんですかね?」
「何か証拠でもあるのかね? 推論、いや妄想だけで人を侮辱するものじゃないぞ、お嬢さん」
「じゃあ、これについて説明してもらいましょうか、カーチス」
杖の重々しい音を響かせて、アメリアがこっちに戻ってきた。マニラ紙の紙ばさみと、レターサイズの書類を小脇に抱えている。
あたしはアメリアからそれらを受け取って、書類の方に目を通した。
「なになに......ランチョ・エスコンディードの火災保険か。22万1千ドル!?」
桁違いの額に、我ながら素っ頓狂な声を上げてしまったと思う。それを気にするでもなく、アメリアが後を継いで続けた。
「2月に締約されたって書いてあるけど、インクはまだ生乾きだわ。個々の火災保険だけじゃ飽き足らず、住宅地にも二重に保険をかけて実入りを増やそうって算段かしら?」
「アメリア、君ならわかると思うが、保険から手に入る金額なんぞ高くても再調達価額止まりだ」
不正の証拠を突き付けられたにも関わらず、ベンソンは妙に余裕のある声音でそう言った。
「基金の目標に比べれば、そんなもの大した額ではない」
「不正をしていることは認めるわけですか?」
「何も認めちゃいないさ。証明するのはそっちの仕事だろう?」
「どっちにしてもカーチス、あなたが賄賂を受け取っている証拠は掴んだわ」
ベンソンと同じくらいの余裕を滲ませて、アメリアが続けた。
「ポルカ、その紙ばさみの中を」
「どれどれ」
中に挟み込まれていたのは、二枚の証券だった。
――郊外再開発基金
本証書は カーチス・ロバート・ベンソン 署名が、カリフォルニア州法に基づく上記法人の発行済み株式の内、全額払込済み且つ追加出資義務の無い、額面100ドルの株式を =2000= 株保有していることを証明するものである。
社長
L. モンロー 署名
会計役
M. ブラック 署名
マーカンタイル
「ええっと、一株あたり100ドルだから4000株で......四十万!?」
「額面はね。利益配当率はどれくらいなのかしら、カーチス? GIたちに家もどきを売りつけて、彼らの信託資産から吸う蜜はさぞかし美味しいんでしょうね」
あたしは、楽し気にベンソンを挑発するアメリアを見ながら、フブちゃんがこのことを知ったらとんでもなく怒りそうだな、なんてどうでもいいことを考えていた。
「しかしわかりませんね、ベンソン副社長」
あたしはベンソンの前を行ったり来たりしながら訊いた。
「あんたは、この州の一流企業の経営役員なんですよ? 明らかに不審な保険を契約したり、登記簿に載るような賄賂を受け取ったり、そんな危ない橋を渡る必要があったんですか?」
「カーチスはロサンゼルスに流されてきたのよ、ポルカ」
アメリアがベンソンに先んじて答えた。
「本社の上級副社長で次期社長候補筆頭だったのに、島流しにされたの。彼の歳から考えて、もうこれ以上出世することはできないわ」
そこでふと顔を曇らせて、アメリアは続けた。
「そういえば会社にいた頃どれだけ探っても、あなたが何故島流しになったのか、わからなかったのよね。よければ今、理由を聞かせてもらえるかしら」
「なんてことはないさ、その、ただ......信頼する人間を間違えた。そんな感じだよ」
人間は嘘を吐く時、気になるものが近くにあると、無意識にそっちに視線を飛ばしがちだ。今回のベンソンのそれは奥の
あたしが寝室のドアにつかつかと歩み寄ると、ベンソンがわかりやすく慌てた声で言った。
「おい、そっちはただの寝室だ! 何も隠しちゃいな......」
言い終わる前に、あたしは観音開きのドアに一蹴りぶち込んだ。ちゃちい室内錠がぽんと吹っ飛んで、ドアは簡単に開いた。
「......あんた、歳は?」
ベッドの上には、女の子がいた。高級そうなシーツにくるまっているけど、その下が裸らしいのは容易に想像がついた。ワンピースは椅子の背に掛かっているし、小さな女物の下着が床に点々と落ちている。
「......十六よ」
「その顔と体つきで十六は無理だろ。本当は?」
「......来月で十三」
来月で十歳でもおかしくないけど、妥当なところだろう。
「これが左遷された理由ってわけね、ベンソン」
背後でアメリアが、氷点下の温度まで下がった声で言った。
「こんなのが表沙汰になったら、会社も大ダメージだわ。それで島流しになったのね」
「ああそうだ。だが連中は間違ってる」
ベンソンは顔に歪んだ笑みを浮かべて続けた。
「ロサンゼルスは西海岸の、いや20世紀の首都になる。サン・フランシスコではなくこの街こそがな。勝つのは連中じゃなくて、俺だ」
「いいや、あんたは刑務所送りだ。あたしがそうしてやる」
「やってみるがいいさ、小娘」
ベンソンの余裕の表情は崩れない。
実際、
あたしは再び寝室の中を向くと、女の子に言った。
「服を着て、とっとと出な」
「彼、悪くないわ。わたしに馬乗りになって、何分かふうふう言うだけだもの。痛いことはしないし、欲しいものは何でも買ってくれるし......」
「一分やる。服を着ろ」
あたしは欠片くらいだった優しさを全部かなぐり捨てて、命令口調で言った。
「たとえ全裸でも、キッカリ一分後につまみ出してやる。イヤなら自分で服を着て、自分の足で出てけ」
女の子がのろのろとシーツから出て、床の上のパンティに向かうと、あたしはベンソンに歩み寄った。女の子のお腹に、白い乾いたものがこびりついているのが目に入って、あたしの忍耐は限界寸前だった。
「ムショ送りの時を楽しみにしとけ、ベンソン。中の連中は制服組もツナギ組も、子供に手を出す奴には厳しいかんな」
全身の皮を剥いでサン・ペドロ港に突き落としたいところだけど、あたしはそう捨て台詞を吐くに留めた。一発でも手を出したら、殺すまで殴ってしまいそうだった。
「どうせ彼女は戻ってくるさ。退屈してる歳だし、何より愛があるからね」
前言を撤回して、一発ぶん殴った。