H.L. Noire   作:Marshal. K

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A Polite Invitation #5

 

 

「シェルドンは基金について、何も知らないわ」

 

 デソートの助手席に戻ってくるなり、アメリアは吐き捨てるようにそう言った。

 

「彼はフォンテーンにカモられたみたいね。甘言を弄してモルヒネ――シェルドンは言外にそれも認めたわ――を取り上げて、そのお金で郊再基金の仲間入りを果たしたって感じ」

「突破口にはならなさそうか」

「ええ、まあ」

 

 まあ、しょうがねえか。ただのカモじゃ手の出しようがない。

 とはいえ、モルヒネがフォンテーンの方に動いてるなら、そこから何か辿れるかもしれない。後で獅白に電話しておこう。

 

「それにしても......彼、本当にモルヒネ強盗の主犯なの?」

「らしいけど」

 

 アメリアは納得いかないって口調で続けた。

 

「話してみた感じだと彼、乗せられやすいタイプよ。フォンテーンにもそうだけど、私でさえ――初対面なのよ?――思った以上に簡単に話を引き出せたのよ? 私の印象で言えば、どっちかと言えば主犯に"祀り上げられた"って方がしっくりくるんだけど......」

「ポルカはシェルドンにあったことがないから何とも言えねぇけど、フブちゃん――風紀課でモルヒネ強盗を担当してた刑事なんだけど――はかなり確信を持ってたぞ」

「そう......とすると、言い出しっぺが彼自身なのかもね。そのまま周りに乗せられて、主犯の地位にきゃっ!」

 

 あたしは喋ってるアメリアの後頭部をひっつかむと、頭を下げさせた。同時にあたしもハンドルの下に頭を下げる。

 

――ドガガガガガガ!

 

 横に並んだ緑の47年式キャデラック61型ツーリングセダンから、M1短機関銃(トミーガン)の連続した銃声が響き渡った。デソートの側面に弾が当たる音が響き渡って、左側のサイド・ウィンドウが砕け散る。

 

「ひゃあああ! フレアに怒られる!」

「一番に気にするのがそこなの!?」

 

 車体にがくんと衝撃が走って、右の方に曲がりはじめた。体当たりを喰らったらしい。

 

「くそお!」

 

 上体を下げたままハンドルを操作しつつ、ブレーキを踏みこんだ。デソートは舗道にタイヤの痕を残しながら、右を向いて横滑りをして止まった。

 

「アメリア、そっちから降りろ!」

 

 助手席のドアが開いてアメリアが降りると、あたしもその後に続いた。トミーガンは相変わらず、フレアのデソートに弾をまき散らし続けている。

 手提げ鞄(ハンドバッグ)から9mmブローニング・ハイパワーを取り出してる間に、通りの向こうからサイレンが響いて、ヴェニス大通り(ブールバード)からパトカーが一台やってきた。

 

「味方かしら」

「何とも言えねえ」

 

 汚職警官(ダーティ・コップ)が応援に駆け付けた可能性もある。それを考えていると、すぐに銃声が聞こえてきた。

 

「あーいや、これはキャディの連中とやり合ってるな。少なくとも、敵じゃなさそうだ」

 

 トミーガン持ちはこっちに集中してるらしく、相変わらずデソートに集中砲火を喰らわせていた。それどころか、だんだん距離を詰めてきている。

 

「顔出すなよ、アメリア」

 

 あたしは耳の先っちょをボンネットの端から出して、聴覚で照準を付けた。相手が弾倉を交換する間に、手首から上だけを突き出して、ブローニングを三発撃った。

 

「がああああああ!!!!」

 

 汚い悲鳴が上がったのを聞いて、ボンネットから身を出して止めを刺そうとした。

 

「あ......」

 

 相手は立っていた。笑って、こっちにトミーガンを構えていた。

 一杯食わされたことに気付いたその時、あたしの左腕から激痛が這い上がってきた。

 

「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛!!!!」

 

 視界が真っ赤に染まる中で、それでもあたしはもう三発相手に撃った。再び悲鳴が上がってトミーガンの銃声が途切れたけど、それが幻聴でないことを祈るばかりだ。

 

「ポルカ! ポルカ!」

 

 アメリアが駆け寄ってくる音がする。声を出そうとするだけで、熱した釘を刺し込まれるような痛みが腕から走ったけど、なんとかそれを堪えてアメリアに答えた。

 

「だい、だいじょうぶだ、かすっただけ......」

「動かないで!」

 

 布を引き裂く音がして、左腕に何かが巻き付けられる感じがした。

 

「大丈夫ですか!」

 

 男の声がする。視界に濃紺の制服が入る。

 

「お、尾丸捜査官補。地方検......(LA......)

 

 ぼやけた視界の中で、奇跡的に巡査の顔にピントがあった。見知った顔だ。

 

「ぬああああああ!」

 

 あたしは渾身の力で、巡査の顎に掌底を喰らわせた。

 

「がっ!?」

「ちょっと、ポルカ!?」

「逃げろ、アメリア!」

 

 レオン・テイト巡査は兄のリロイ・テイト巡査ともども、汚職警官として有名だ。

 

「逃がすか!」

 

 手負いのあたしの渾身程度じゃ入りが浅かったと見えて、テイトはすぐに立ち直った。一方のアメリアは、デソートまで這って杖を取り戻さなきゃいけなかった。

 

「きゃあああ!」

 

 視界の端で、テイトがアメリアに覆いかぶさるのが見えた。片手を手錠入れに伸ばして、手錠を取り出そうといる。

 

「クソ......あたし、の......銃は......」

 

 ブローニングは倒れた時に、どこかに手放してしまったらしい。右手の届く範囲には、それらしいものはない。

 

 焦りばかりが募る一方で、痛みと失血のせいか、あたしの意識はどんどん不確かになっていった。

 

 

 

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