「シェルドンは基金について、何も知らないわ」
デソートの助手席に戻ってくるなり、アメリアは吐き捨てるようにそう言った。
「彼はフォンテーンにカモられたみたいね。甘言を弄してモルヒネ――シェルドンは言外にそれも認めたわ――を取り上げて、そのお金で郊再基金の仲間入りを果たしたって感じ」
「突破口にはならなさそうか」
「ええ、まあ」
まあ、しょうがねえか。ただのカモじゃ手の出しようがない。
とはいえ、モルヒネがフォンテーンの方に動いてるなら、そこから何か辿れるかもしれない。後で獅白に電話しておこう。
「それにしても......彼、本当にモルヒネ強盗の主犯なの?」
「らしいけど」
アメリアは納得いかないって口調で続けた。
「話してみた感じだと彼、乗せられやすいタイプよ。フォンテーンにもそうだけど、私でさえ――初対面なのよ?――思った以上に簡単に話を引き出せたのよ? 私の印象で言えば、どっちかと言えば主犯に"祀り上げられた"って方がしっくりくるんだけど......」
「ポルカはシェルドンにあったことがないから何とも言えねぇけど、フブちゃん――風紀課でモルヒネ強盗を担当してた刑事なんだけど――はかなり確信を持ってたぞ」
「そう......とすると、言い出しっぺが彼自身なのかもね。そのまま周りに乗せられて、主犯の地位にきゃっ!」
あたしは喋ってるアメリアの後頭部をひっつかむと、頭を下げさせた。同時にあたしもハンドルの下に頭を下げる。
――ドガガガガガガ!
横に並んだ緑の47年式キャデラック61型ツーリングセダンから、
「ひゃあああ! フレアに怒られる!」
「一番に気にするのがそこなの!?」
車体にがくんと衝撃が走って、右の方に曲がりはじめた。体当たりを喰らったらしい。
「くそお!」
上体を下げたままハンドルを操作しつつ、ブレーキを踏みこんだ。デソートは舗道にタイヤの痕を残しながら、右を向いて横滑りをして止まった。
「アメリア、そっちから降りろ!」
助手席のドアが開いてアメリアが降りると、あたしもその後に続いた。トミーガンは相変わらず、フレアのデソートに弾をまき散らし続けている。
「味方かしら」
「何とも言えねえ」
「あーいや、これはキャディの連中とやり合ってるな。少なくとも、敵じゃなさそうだ」
トミーガン持ちはこっちに集中してるらしく、相変わらずデソートに集中砲火を喰らわせていた。それどころか、だんだん距離を詰めてきている。
「顔出すなよ、アメリア」
あたしは耳の先っちょをボンネットの端から出して、聴覚で照準を付けた。相手が弾倉を交換する間に、手首から上だけを突き出して、ブローニングを三発撃った。
「がああああああ!!!!」
汚い悲鳴が上がったのを聞いて、ボンネットから身を出して止めを刺そうとした。
「あ......」
相手は立っていた。笑って、こっちにトミーガンを構えていた。
一杯食わされたことに気付いたその時、あたしの左腕から激痛が這い上がってきた。
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛!!!!」
視界が真っ赤に染まる中で、それでもあたしはもう三発相手に撃った。再び悲鳴が上がってトミーガンの銃声が途切れたけど、それが幻聴でないことを祈るばかりだ。
「ポルカ! ポルカ!」
アメリアが駆け寄ってくる音がする。声を出そうとするだけで、熱した釘を刺し込まれるような痛みが腕から走ったけど、なんとかそれを堪えてアメリアに答えた。
「だい、だいじょうぶだ、かすっただけ......」
「動かないで!」
布を引き裂く音がして、左腕に何かが巻き付けられる感じがした。
「大丈夫ですか!」
男の声がする。視界に濃紺の制服が入る。
「お、尾丸捜査官補。
ぼやけた視界の中で、奇跡的に巡査の顔にピントがあった。見知った顔だ。
「ぬああああああ!」
あたしは渾身の力で、巡査の顎に掌底を喰らわせた。
「がっ!?」
「ちょっと、ポルカ!?」
「逃げろ、アメリア!」
レオン・テイト巡査は兄のリロイ・テイト巡査ともども、汚職警官として有名だ。
「逃がすか!」
手負いのあたしの渾身程度じゃ入りが浅かったと見えて、テイトはすぐに立ち直った。一方のアメリアは、デソートまで這って杖を取り戻さなきゃいけなかった。
「きゃあああ!」
視界の端で、テイトがアメリアに覆いかぶさるのが見えた。片手を手錠入れに伸ばして、手錠を取り出そうといる。
「クソ......あたし、の......銃は......」
ブローニングは倒れた時に、どこかに手放してしまったらしい。右手の届く範囲には、それらしいものはない。
焦りばかりが募る一方で、痛みと失血のせいか、あたしの意識はどんどん不確かになっていった。