「はい、もしもし?」
「はい、もしもし?」
「ポルカ・オマル嬢かね?」
「ええ。そちらは?」
電話線越しでも、その特徴的な声音が誰かはすぐにわかった。それでも確認のために、相手の名前を訊く。
「リーランド・モンローだ」
「これはまた。どのようなご用件で?」
「君と会って、話をしたいと思ってね。私は君を、とても裕福にしてやれる余裕があるのだが、どうかな?」
「光栄ですね、モンローさん。120ドルより高い月給を出してくれるなら、もっと光栄です」
あたしはホールの方を振り向くと、病室からひっそりと様子を窺っていた獅白に、こっちに来るよう目で合図した。
「でも、少しばかり性急過ぎませんかね? 普通こういうのは、もっと段階を踏むもんでしょう? クラブのバーで一杯奢ってくれるところから始まり、次はどこかのフランス料理屋で
「面白いお嬢さんだ。よく口が回るものだな」
「そりゃどうも」
「今晩九時頃に、私のところへ来たまえ。サンタ・モニカ
「ええ、喜んで伺います......では失礼します、モンローさん」
受話器を置いて振り返ると、獅白はフレアも連れて来ていた。そのフレアが口を開く。
「で、不動産屋さんはなんだって?」
「ポルカを金持ちにしてくれるって。今夜九時、モンローの家で」
「絶対罠だよ」
「わかってる」
廊下を病室に戻りながら、あたしは続けた。
「バカなケモノが金に釣られてノコノコ来たところを、ハチの巣にするつもりだろうよ、それくらいわかってる」
「あるいは」
なぜか面白がってる口調で、獅白が口を挟んだ。
「一発ぶん殴って気絶させて、足をコンクリで固めてサン・ペドロに沈めるつもりかもよ?」
「どっちにしてもポルカ、あいつらはポルカを殺そうとしてるんだよ? なんでわざわざそこに......」
「モンローの家に入れるからだよ」
入院着を脱いで、綺麗に畳まれていた下着を身に着けながらあたしは続けた。
「モンローの自宅、どう考えても証拠の宝庫だ。ピーターセンがどう頑張ったって、そんなところの令状は取れやしねえだろ? ところがご丁寧にも、招待状をくれるって言うんだ」
「招待状をくれる以上、おもてなしの準備はしっかりしててくれそうだね」
「そうだな。紅茶を一杯ってわけじゃねえだろうけど」
「あたしもついて行く」
難儀しながら左腕をコートの袖に突っ込む作業を中断して、獅白の方に目をやった。石色のその瞳は、真剣そのものだ。
「ねねちゃんを引き取るって言っておまるんを煽ったのは、他でもないあたしだからね。これぐらいはいいでしょ?」
「ああ、願ってもないよ。お前がいれば、制服の応援が1ダースいるよりも心強いからな」
「もちろんだけど、あたしも行くよ」
これはフレアからだ。
「一応、捜査責任者はあたしなんでね」
「いいけど。そういえばフレア、フレアの銃の腕前ってどんな感じなん?」
「二百余年の人生を、安穏と過ごしてきたわけじゃない、とだけ言っておこうか。少なくとも、ポルカよりは上手いよ?」
「あー......」
獅白が何とも言えない目をあたしに向けてきた。やめてくれ獅白、その哀れむような視線はあたしに効く。
「一応言っとくけどな、獅白。世間一般の基準から言えば、お前とかフブちゃんの腕前が異常なだけだからな」
ポルカは普通だ。世間一般の基準で言えば。
「そうだね。でも獣人の基準ではどっちかって言うとヘ......」
「それ以上言うなぁ!」
「そこで停めて」
それからしばらくして、あたしはタクシーでアメリアの事務所に向かった。ウィルシェア
「ここでいいよ。いくら?」
「60セントです」
「お釣りはとっといて」
掴み出した
歩道に降りると、すっかり日暮れたウィルシェア
「おお、さぶ」
先週よりも冷たくなった秋の夜風に、あたしは身を震わせてコートの前をかき合わせて、通りを先に進んだ。
建物の三階に上がると、アメリアの事務所に明かりが点いていた。そのドアの前に立ってノックをしようとして、あたしは凍り付いた。
あたしは
「リンディ、いる!?」
......返事はない。
最悪の事態が頭をよぎって、あたしは銃を構えてドアを蹴り開けた。
その次の瞬間、あたしのお腹に重い衝撃が走って、あたしは廊下の向かいの壁に叩き付けられた。