「ねえ、足元が寒いんだけど」
正確には、寒いというより冷たいのだけれど。
「何か暖かい飲み物でも持って来てくれないかしら。紅茶とか?」
私が座らされてる椅子の近くには、二人の男が立ち番をしていた。そのどちらも、答えてくれる気配はない。
私、アメリア・ワトソンは今、ハリウッドの外れの丘の上に建つ、大きなお屋敷のテラスにいた。もちろん歓待されているわけではない。
上半身をぎちぎちに縛られた上で椅子の背に縛り付けられ、
「残念ながら、君に出せるような茶葉は切らしていてね」
テラスに面したガラス扉を開けて、壮年の男が出てきてそう言った。初対面ではあるものの、その顔はチラシや
「こんばんは、
「礼には及ばんよ、ミス・ワトソン。君には敬意を表さなければと思ってね。君のその愚かさに」
「せっかく命は助かったのだから、頭を低くしていればいいものを。また我々のことを嗅ぎまわり始めるとは、愚かという他なかろう?」
「ええ、そうね。でもそうするように、私は教わったんだもの。あなたのママに」
「口を慎みたまえ、お嬢さん」
「あら、ちょっと位いいじゃない。ご覧の通り、私は手も足も出ない状態で、もうじき死にゆく身なのよ? 口でくらい反撃させてほしいもの――」
モンローが目配せすると、男の片方が私の頭にトミーガンの台尻を振り下ろした。頭蓋骨からガツンと音が鳴って、目の前に火花が飛び散る。
「がっ!......くぅぅ」
「コンクリートが乾くまで、後どれくらいだ?」
「30分程でしょう」
「表面が乾き次第、サン・ペドロまで連れて行け。それまでにはメス畜生の方も来るだろう。ではな、お嬢さん」
ガラス扉の方に戻りながら、モンローは続けた。
「残り二時間程度の人生を、精々楽しむといい」
「それはどうかしら?」
これ自体は、一連の私の発言と同じでただの強がりだった。そんな強がりに反応して不審げに振り向いたモンローの目の前で、一本の細身のナイフがトミーガン持ちの喉に突き刺さったのは、なんとも奇跡的なタイミングだった。
「ごぽっ」
男が湿った音を立てて崩れ落ちるのと同時に、私の目の前を青いものがさっと横切った。血腥い臭いがつんと鼻を突く。
一秒の後にはBARを持った――もう取り落としているので持っていた、が適切かもしれない――男も押し倒され、両手両足と喉の切り傷から血を流す中、大型の
「なっ......これは一体」
「そのまま動くな、モンロー」
屋敷の横手に広がる庭園の生垣から、片手で拳銃を構えたポルカが現れてそう言った。
そのニ十分ほど前。
ハリウッドの外れの高級住宅街に、一台のキャデラックが路上駐車していた。黒い42年式61型セダンで、この界隈で見るには少々古い車種ではあるものの、磨き上げられてピカピカの車体は、この住宅街の雰囲気に自然に溶け込んでいた。
「そのキャディの前に停めて」
「へえ」
あたしの指示に従って、運転手は47年式デソート・サブアーバンのタクシーを、キャデラックの少し前の路肩に寄せて停めた。
「ありがとさん。いくら?」
「2ドルちょうどです」
「うげ......」
ちらっとぐらの方に目をやったものの、ぐらは頑なにあたしと目を合わせようとしなかった。
「......じゃあ、これで」
仕方なしにポケットを探ると、1ドル札二枚と
「毎度」
懐の寒い思いをしながら降りて、タクシーが走り去るのを見送っていると、背後から自動車のドアが開く音が聞こえてきた。
「ポルカ、その人は?」
「アメリアの知り合いだって。ぐら、こっちは不知火捜査官、あたしの上司。で、あっちのスカしたホワイトライオンはポルカの......腐れ縁の獅白刑事」
「誰がスカした、だコラ」
「がうる・ぐら。ぐらって呼んで」
「よろしく、ぐら。あたしのことはフレアでいいよ」
フレアとぐらが握手を交わしてる間に、獅白がこっちにやって来て言った。
「おまるん、良いニュースと悪いニュースがあるんだけど、どっちから聞きたい?」
「良いニュースから」
「おまるんの予想通り、招待はワナだったよ」
横手に立つ石造りの塀――リーランド・モンローの邸宅の塀だ――を指しながら、獅子は続けた。
「門から建物まで、庭中武装したごろつきでいっぱいだよ。見知った顔がいくつかあったから、たぶんミッキー・Cあたりから人を借りてるね、これは」
「わー、うれしーなー......悪い方は?」
「ワトソンさんが捕まってる」
傍目にもわかるほどピクリと、ぐらが反応するのが見えた。
「屋敷の横手のテラスで、足をコンクリで固められてるところ」
「やっぱり一網打尽計画か......まだ死んではないんだな?」
「うん」
「よし......ここは住宅街だからな、いくら一軒一軒が
「んで、
フレアの皮肉な言い方に首肯して、ぐらの方に向き直る。
「そこで、心強い助っ人の登場ってわけ。ぐら、ナイフ使いにこんなこと訊くのは何だけど、静かに一人ずつ始末していくことってできるか?」
「静かに素早く?」
ギザギザの牙のような歯を剥きだしにして獰猛な――こっわ......――笑みを浮かべながら、ぐらは続けた。
「それこそアタシの