H.L. Noire   作:Marshal. K

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A Polite Invitation #11

 

 

「こわあ......あん時刺し殺されなかったのって、ホントに運が良かったんだな」

 

 モンロー邸の、門から邸宅へと続く庭。その道中に累々と散らばる刺殺体をまたぎ越しながら、あたしはぐらとの初対面を思い出して身震いした。

 先行する鮫の獣人が、一人の刺殺にかける時間はわずかに一秒。小さな背丈と、生垣や植栽などの障害物を利用して背後から近づき、まず両手両足の腱を切断。痛みに声が上がるよりも先に喉笛を掻き切り、ゴロゴロと余計な音を立てる前に心臓を一突きしてトドメを刺す。誰も気づかない内に一人、また一人と見張りたちがあの世へ旅立って行った。

 

「風向きも、あたしたちの味方をしてるね」

 

 後ろからついてくる獅白が、小さくそう呟いた。

 

「こっちが風下だ。逆だったら、そろそろ連中も気づき始める頃だよ」

 

 庭では大勢が血を流して死んでいるし、ぐら自身も返り血で赤黒く染まっている状態だ。風向きが逆だったら、10ヤード先からでもぐらが近づいてくるのがわかっただろう。

 天祐のような風に向かって、あたしたちは殺戮の鮫を先頭に立てゆっくりと邸宅に近づいて行った。

 

 

 

 

 

「そのまま動くな、モンロー」

 

 あたしは片手で拳銃を構えて、モンローに狙いを付けながらそう言った。

 

「これは......これは一体、どういうことだ!?」

「どういうことも何も、あんたが招待してくれたでしょ? ちょっと連れを増やしたけど、一人で来いとは言わなかったよな?」

 

 モンローは口をぱくぱくさせて、ただもう目の前の状況が信じられないといった体だった。そんなモンローの前を、ぐらが悠然と横切る。バケツ1ダース分の血を頭から浴びたような彼女を見れば、庭の見張りが全滅している事実を厭でも受け容れざるを得ない。

 ぐらはまわりの状況をまるで意に介さない様子で、野戦用(KA-BAR)ナイフでアメリアを縛っているロープを切りはじめた。

 

「いい恰好ね、間抜けな探偵さん?」

「うえっ、ぐら、あんた臭い(スティンキー)わよ。私のロープを切るより先に、モンロー社長にシャワーを借りたらどう?」

「ハ、それが助けられてる人の態度? 間違えて腕切っちゃっても知らないよ」

 

 軽口をたたき合う二人を尻目に、あたしはモンローに向かって言った。

 

「あんたが誰かさんから借りた人手は、もう全滅したぞ。ここからは洗いざらい吐いてもらう時間だ」

「それはどうかしら?」

 

 この場にいる誰の物でもない女の声が割り込んできて、あたしは急遽そっちにブローニングの銃口を向けた。ガラス扉のかげから、黄色いシャネル・スタイルのレディース・スーツに身を包んだ女が現れた。

 

「......こんばんは、カッシーノさん。そんな物騒な物、白人のご婦人には似合いませんよ?」

 

 エリシアン・フィールズを訪ねた時、社長室の前にいた秘書だ。モンローが持たせたのか、私物なのか、32口径コルト・ニューポケットを構えている。

 

「お生憎様、撃ち方は知ってるのよ」

「それでも、人に向けるのは初めてでしょ? 銃口が震えてますよ。間違えて社長さんに当てちまう前に、下ろしてもらえませんかね?」

「よく口の回ること」

「下ろさないなら......あたしがあんたを撃つ」

 

 お互いの距離は5ヤード程で、いくらあたしでも外しようがない。だが、人を一度も撃ったことが無いヤツはどうかな?

 何十分にも思えた数秒の間に、カッシーノの目は開き、鼻の穴は膨らみ、息が荒くなった。拳銃を持ち直して、引き鉄に掛けた指が白くなったその瞬間に、あたしは自分のブローニングを発砲した。

 

――バァン!

 

「あぁっ!」

 

 9mmパラベラム弾がカッシーノの左肩に飛び込むと、遅れて発射された32口径コルト自動拳銃(.32ACP)弾はあさっての方角に飛んで行った。

 

「モンロー!」

 

 自分の秘書が撃たれた瞬間に、モンローは屋敷の中へと遁走した。ぐらの方からキラキラ光るものがシュッと飛んでいき、中からぎゃっと悲鳴が聞こえた。

 

「殺してない」

 

 あたしがぐらに視線を向けると、向こうが先んじて言った。

 

「太ももかどっかに当たったはず、たぶんね」

「ならいい。アメリアを任せてもいいか?」

「勿論」

「待って、ポルカ」

 

 当のアメリアから異議が出た。固まりかけでべとべとのコンクリートを足に付けたまま、血みどろのぐらに寄り掛かって立ち上がる。

 

「ちょっと、自分で立ちなよ」

「今の私は無理なのよ、杖が無いと。ポルカ、私が残したヒントはわかった?」

「見つけたけど、正直......」

「わかった、じゃあ私が直接追及するわ。これ、保険金詐欺どころの話じゃなかったのよ」

「じゃあ何なんだ?」

 

 ぐらに支えられて――その結果として左半身が血塗れになっている――屋敷へと入りながら、アメリアは静かに言った。

 

「合衆国政府に対する不動産詐欺よ。それも数億ドル単位のね」

 

 

 

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