H.L. Noire   作:Marshal. K

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A Polite Invitation #13

 

 

「KGPLから各局。先指令の487被疑車両について、検索を打ち切る。反復、検索を打ち切る。なお、ハリウッド管内各局、及びウィルシェア並びにウェスト・ロサンゼルス管内各局にあっては、該当車両と同じ車種の自動車に、特に注意されたい。被疑車両は42年式キャデラック75型、色は黒、登録番号は5-0-E(エドワード)-9-4-3。被疑者は二名で、一名は獣人女性、身長5フィート3程度、髪は黄、目は紫......」

「これでポルカもお尋ね者かあ」

 

 あたしはモンロー邸から強奪したキャデラックの車内で、ラジオから流れる警察無線に耳を傾けながら思わずそう呟いた。

 KGPLが手配をかけている黒いキャデラック75型は、他ならぬあたしが今乗っている車両だ。内装外装ともに豪華な、いかにも不動産社長の送迎用って感じのリムジンだった。ラジオは中波帯も受信できる、車載ラジオとしては高級なタイプで、おかげでこうやって警察無線を傍受できている。

 

「それにしても、こいつで門を突き破った時の連中の顔ったら......見物だったなあ」

 

 一人、けっけっけと思い出し笑いをした。

 このキャデラックはことさらどっしりと造られていて、門扉と、門の前を塞いでいた警察車両を悠々弾き飛ばして脱出することができたんだ。その時の汚職警官(ダーティー・コップ)どもの顔ときたら、傑作だった。

 

「......もう一名の被疑者は白人女性、身長5フィート程度、髪は金、目は青。着衣にあっては白のシャツ、茶のスカート、クリームのコート。なお、被疑者は武装しており危険(Armed and Dangerous)。発見に際しては......」

「......ぐらの言及がねえな」

 

 大きな白いハンドルに顎を乗せて考え込む。

 ぐらへの言及が無いってことは、モンローとカッシーノの両方が、今現在喋ることができないってことを表している。あたしとアメリアの人着手配は、ベンソンの証言を基に発出されてるんだろう。たぶんウォーレル局長あたりは、モンローがあたしとアメリアを自宅に"招いた"ことを知ってるだろうし。

 

「とすると、モンローは本当に失血で死んじまうかもしれねえな......獅白にフォンテーンの方を急がせるか」

 

 ちょうどそう呟いたところで、この自動車を駐めているモーテルの駐車場に、別のキャデラックが入ってきた。黒い42年式61型セダンには、赤色投光器(スポットライト)が装着されている。

 黒いセダンはこのリムジンの真横に停まった。あたしがドアを押し開けて車外に出ると、セダンからたったいま言及したヤツが姿を現した。

 

「おまちどうさま、頼まれてたやつだよ」

「さんきゅ、獅白」

 

 そう言って獅白が差し出したのは、カリフォルニア州のライセンス・プレート一組だ。獅白が持ってきた工具を使って、リムジンの前後のプレートを付け替える。

 

「......よし、まあこれでマシになるだろ」

「多少はね。ところで、二人は?」

「先に部屋に上げてる。このキャディ、すげえぞ。中波ラジオが付いてて、警察無線が聞き放題だ。それでポルカはこっちにいるんだけど」

「ほんと? 結構値の張る選択(オプション)装備なんだよ、あれ」

 

 獅白はひょいっとリムジンの中を覗き込んだ。ハンドルコラム下のキーシリンダー・スイッチが壊されて、配線が剥き出しになってるのに目を留めると、眉をひそめて訊いてきた。

 

「おまるんって、直結ができるような器用さあったっけ?」

「ねーよ、ポルカはぶきっちょだからな。アメリアがやったんだ、それもえらく手慣れてたぞ」

 

 あれは明らかに、何度もやったことがある手つきだった。前職は自動車泥棒だったわ、とか言われても納得しちゃうし、なんなら探偵って言われた方が嘘っぽく思えるほどだ。

 

「ふーん......ホントに探偵さんなのかな?」

「ちょっと底知れなくて、不気味だよな......で、さっきの手配なんだけど、ぐらの言及がなかったのは気づいたか?」

「うん」

 

 声音と表情を見るに、獅白もあたしと同じことを考えてたようだ。

 

「フォンテーンの方、急いでくれ」

「わかった」

 

 獅白が自分の捜査用車に戻って、駐車場から出て行くのを見送ってから、あたしも部屋に続く階段に向かった。

 

 

 

 

 

 時はしばらく進んで翌日の昼過ぎ。ウィルシェア地区の外れにある医院(クリニック)の前に、小豆色(マルーン・レッド)の46年式クライスラー・サラトガが停まった。運転席から狼の獣人女性が降り立ち、医院へと向かう。

 二階建ての個人医院に入ると、彼女は掲示に従って、受付を兼ねた秘書のデスクに向かった。デスクに着いていた秘書らしい女性が、タイプライターから顔を上げて彼女に尋ねる。

 

「すみません、本日の診療は午前中までなんですが」

「大神刑事、ロス市警(LAPD)

 

 警察官(バッジ)を見せて、ミオは続けた。

 

「フォンテーン先生に伺いたいことがあるんですけど、今お会いできますか?」

「先生は昼休憩で席を外してます。ご用件を伺っても?」

「警察の公用です。いつ頃戻られますか?」

「あと......10分程かと」

「じゃあ待ちます」

 

 彼女は来た道を戻ると、玄関ホール(ホワイエ)の反対側にあった待合室に入った。暖炉の火はすでに消されていたけれど、まだ暖かかったので、彼女は炉辺の肘掛椅子を選んで腰を下ろした。

 

A Polite Invitation -Continue to the Next Casefile-

 

 

 

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