「後は......この三軒だけか」
あたしは手帳を見ながらそう呟いた。
手帳には
あのモンロー邸襲撃の日から二日経っていた。あたしはアメリアとぐらと一緒にモーテルや
「犯人像は......痩せぎすで長身、頭がハゲてる、南部訛りがある、と」
そしてモンローの言が正しいなら、発狂している、とも。
「さてと、始めるか」
あたしは手帳を閉じると、剥き出しの配線をつなげてキャデラックのエンジンをかけた。
「まずはここだ。ラピッド
それはバーモント通りとビバリー
店内に入って行くとカウンターの向こうから、作業服を着た年配のおっさんが話しかけてきた。
「いらっしゃい」
「ここじゃ何人働いてるんですか?」
挨拶抜きにそう訊くと、おっさんはあたしに胡乱な視線を向けてきた。
「あんた、何様のつもりだ?」
「検察捜査官様だよ」
「公式なやり方がいいならそうするけど、あんた次第だよ、おっさん。背の高い
「そんなやつはいないな」
「確かか?」
あたしはカウンターに身を乗り出して、天板を指でこつこつ叩きながら続けた。
「次にここに来る必要が出たら、そん時にはいやでも公式なやり方になるけど、それでもいいんだな?」
「ああ。確かだよ」
「......わかった。ありがとさん」
「次はここか。ニュークリア
その店は7番街とウェストモアランド通りの角にある、雑居ビルの一階に入居していた。7番街に面した小さな店だった。駆除業者というより、駆除剤の販売業者って感じらしい。
「ニュークリアへようこそ。何にお困りですか?」
店内に入ると、カウンターの向こうから中年の店員が話しかけてきた。シャツにネクタイを締めて、その上から
「
「ここで働いてるのは三人だけです。私とメキシコ人が二人で、その二人はチビですよ」
「どうも」
ここもハズレだ。
7番街の路肩に駐めたキャデラックに戻ると、あたしは深々と溜め息を吐いた。残るは一軒だけ。
「頼む、ここにいてくれよ......」
外れたら、完全に八方塞がりだ。普段は大して信じてもいない神様にお祈りしながら、あたしはキャデラックを7番街の交通に乗せた。
「ここで最後だ......ウェストレイク
その店は、3番街とユニオン通りの角のガソリン・スタンドに併設されていた。コンクリ造のちょっと薄汚い建物に入ると、カウンターの向こうにいた若い作業服の男に話しかけた。
「
「その......誰かを面倒ごとに巻き込むような真似は、俺はしたくないんだけどね」
一気に心拍数が上がった。声に興奮が滲み出ないように、自分を制しながら声を出す。
「そんなら、あんたが代わりに面倒なことになるけど、それでいいんか? あ?」
コンコン、とカウンター・デスクを叩く。男は何も言わずに目をそらした。
「住所」
「ああその、彼は古い牧場に住んでるんだ。ランチョ・リンカーンってわかる?」
「ああ、わかる。シグナル・ヒルの北のところだろ?」
「そう、そこだ」
「ありがとさん」
ポルカちゃんたちがモンロー邸を襲った次の日。
私は48年式ハドソン・コモドールの捜査用車をハリウッド
助手席から降りたミオと一緒に路地を奥に入ると、すぐのところで立ち番をしていた巡査に警察官
「白上刑事と大神刑事」
「ミッチェル巡査です」
若い制服巡査は、ちょっと困惑した表情で続けた。
「
ミッチェル巡査に案内されて路地をさらに奥へ向かうと、男が一人、大の字になって路地に倒れていた。その傍らに、ホワイトライオンの獣人がかがみこんでいるのが見える。倒れている男の顔が見えた瞬間、私は思わず声を上げた。
「......コートニー」
「コートニーって、コートニー・シェルドン?」
ミオの問いかけに首肯すると、ぼたんちゃんが死体の傍らから立ち上がって言った。
「そ、コートニー・シェルドン。免許証で確認した。だからフブちゃんたちを呼んだんだけど」
「検屍官は呼んだの?」
「こっちに向かってるところ」
私は問答をしつつ、シェルドンの死に顔を覗き込んだ。落ち窪んだ目、鉤鼻気味の鼻、
「ロイ・アール、
背後から聞こえた声に振り向くと、お馴染みの高価い背広に身を包んだ
「この現場は俺が仕切る。これは明らかに風紀事案だからな」
「誰に言われてきたんです? コルミャー警部補じゃないですよね」
「俺はこいつを知ってる。モルヒネ強盗に関わってたやつだ、そうだろう?」
ロイはぼたんちゃんを無視して、私にそう言った。質問の形を取ってはいるけど、回答を求めてるわけじゃないのは明らかで、汚職刑事はすぐに言葉を継いだ。
「自分の商品で死んだ。それだけのこったろう」
「彼は
ミオが反駁すると、ぼたんちゃんがそれに乗っかってきた。
「加えて言えば、注射痕が首許にあります。首から注射する
「いいか、お前ら......」
「いいですか、部長刑事」
ロイの発言をぼたんちゃんが遮って続けた。
「モンローはもうお終いです。フォンテーンも長くないでしょう。ウォーレルも、49年まで局長を続けられるか怪しいもんです。次の局長が誰になるのか、よおっく考えて動かれた方がいいかと」
「......見込み違いだったな。お前がそんなに
「んまあ、見ての通りあたしはホワイトライオンなんでね」
口許だけでニカッと笑ったぼたんちゃんは、牙を剥きだしにする形になって却って怖い表情を浮かべた。
「恨むなら、彼をあたしに割り振ったコルミャー警部補を恨むんですね。ミッチェル巡査、部長刑事を表通りまでお送りして」
「いい、自分で帰る」
腕を取ろうとした巡査の手を振りほどいて、ロイは私たちにキツい一瞥を投げると、表通りの方へと歩き去った。そのロイと入れ替わるように、現場写真係の47年式スチュードベイカー・コマンダーが、路地に乗り入れてきた。
「じゃあフブちゃん、後はあたしとミッチェル巡査に任せて。証拠品は全部鑑識に回収させるし、マルが来るまでは、汚職警官を彼に近寄らせはしないから」
「わかった。ありがとう、ぼたんちゃん」
現場から出て捜査用車に戻ると、ミオが考え込むように言った。
「ねえフブキ、ウチはこの件でフォンテーンをつっついてみようと思うんだけど」
「いい考えだけど......危険だよ」
ハドソンのエンジンをかけて、カフエンガ大通りの交通に乗せると、私はやんわりと反対した。
「モンローが死にかけてる今、フォンテーンもかなり焦ってるはず。どんな手を出してくるかわかんないよ」
「わかってる。だからウチも気は抜かないよ」
助手席のミオにちらっと視線を投げて、私は溜息を吐いた。獲物を見定めたミオは梃子でも動かないってのは、私が一番よくわかってる。
「......わかったよ。でも、ホントに気を付けてよ? 白上は付いてけないんだからね」
「もちろん」
フォンテーンと面識がある以上、私が顔を出すわけにはいかなかった。相手がぼろを出すのを期待するなら、のっけから警戒させるのは愚策だ。
とはいえ不安は消えず、私はその日の夕方まで不安に苛まれて過ごすことになった。