H.L. Noire   作:Marshal. K

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A Different Kind of War

 

 

「後は......この三軒だけか」

 

 あたしは手帳を見ながらそう呟いた。

 手帳には職業別電話帳(イエロー・ページ)から書き写した、ウィルシェア地区の害虫駆除業者の一覧がある。そのほとんどはこの数日で線を引いて抹消していて、残るは三軒だけだ。

 あのモンロー邸襲撃の日から二日経っていた。あたしはアメリアとぐらと一緒にモーテルや木賃宿(フロップ・ハウス)を転々としながら、放火犯を追っていた。公共交通機関を使うわけにもいかないし、一網打尽にされるわけにもいかないので、二人には宿で待ってもらってるけど。

 

「犯人像は......痩せぎすで長身、頭がハゲてる、南部訛りがある、と」

 

 そしてモンローの言が正しいなら、発狂している、とも。

 

「さてと、始めるか」

 

 あたしは手帳を閉じると、剥き出しの配線をつなげてキャデラックのエンジンをかけた。

 

 

 

 

 

「まずはここだ。ラピッド駆除会社(エクスターミネーターズ)

 

 それはバーモント通りとビバリー大通り(ブールバード)の角にある業者だった。結構大きな社屋を構えていて、駐車場には専用の大型業務用(サービス)トラックが何台も駐まっている。あたしは来客用駐車スペースの一つに、キャデラックを入れた。

 店内に入って行くとカウンターの向こうから、作業服を着た年配のおっさんが話しかけてきた。

 

「いらっしゃい」

「ここじゃ何人働いてるんですか?」

 

 挨拶抜きにそう訊くと、おっさんはあたしに胡乱な視線を向けてきた。

 

「あんた、何様のつもりだ?」

「検察捜査官様だよ」

 

 手提げ鞄(ハンドバッグ)から、一瞬だけ捜査官(バッジ)を見せて続ける。

 

「公式なやり方がいいならそうするけど、あんた次第だよ、おっさん。背の高い南部男(カウボーイ)を探してるんだけど、ここで働いてない?」

「そんなやつはいないな」

「確かか?」

 

 あたしはカウンターに身を乗り出して、天板を指でこつこつ叩きながら続けた。

 

「次にここに来る必要が出たら、そん時にはいやでも公式なやり方になるけど、それでもいいんだな?」

「ああ。確かだよ」

「......わかった。ありがとさん」

 

 

 

 

 

「次はここか。ニュークリア害虫・害獣駆除会社(バグズ・アンド・ローデンツ)

 

 その店は7番街とウェストモアランド通りの角にある、雑居ビルの一階に入居していた。7番街に面した小さな店だった。駆除業者というより、駆除剤の販売業者って感じらしい。

 

「ニュークリアへようこそ。何にお困りですか?」

 

 店内に入ると、カウンターの向こうから中年の店員が話しかけてきた。シャツにネクタイを締めて、その上から前掛け(エプロン)をしてる格好は、やっぱり業者というよりは売り子って感じだ。

 

地方検事局(LADA)。背の高い、南部訛りの男を探してるんですけど、ここで働いてませんか?」

「ここで働いてるのは三人だけです。私とメキシコ人が二人で、その二人はチビですよ」

「どうも」

 

 ここもハズレだ。

 7番街の路肩に駐めたキャデラックに戻ると、あたしは深々と溜め息を吐いた。残るは一軒だけ。

 

「頼む、ここにいてくれよ......」

 

 外れたら、完全に八方塞がりだ。普段は大して信じてもいない神様にお祈りしながら、あたしはキャデラックを7番街の交通に乗せた。

 

 

 

 

 

「ここで最後だ......ウェストレイク殺鼠会社(ペスト・コントロール)

 

 その店は、3番街とユニオン通りの角のガソリン・スタンドに併設されていた。コンクリ造のちょっと薄汚い建物に入ると、カウンターの向こうにいた若い作業服の男に話しかけた。

 

地方検事局(LADA)。背の高い南部男を探してるんだけど、ここで働いてる?」

「その......誰かを面倒ごとに巻き込むような真似は、俺はしたくないんだけどね」

 

 一気に心拍数が上がった。声に興奮が滲み出ないように、自分を制しながら声を出す。

 

「そんなら、あんたが代わりに面倒なことになるけど、それでいいんか? あ?」

 

 コンコン、とカウンター・デスクを叩く。男は何も言わずに目をそらした。

 

「住所」

「ああその、彼は古い牧場に住んでるんだ。ランチョ・リンカーンってわかる?」

「ああ、わかる。シグナル・ヒルの北のところだろ?」

「そう、そこだ」

「ありがとさん」

 

 

 

 

 

 ポルカちゃんたちがモンロー邸を襲った次の日。

 私は48年式ハドソン・コモドールの捜査用車をハリウッド大通り(ブールバード)からカフエンガ大通り(ブールバード)に曲がらせると、交差点からすぐ北の路肩に寄せて停めた。そこにはすでにフォードのパトカーと、見覚えのある黒いキャデラックが駐まっている。

 助手席から降りたミオと一緒に路地を奥に入ると、すぐのところで立ち番をしていた巡査に警察官(バッジ)を呈示して名乗った。

 

「白上刑事と大神刑事」

「ミッチェル巡査です」

 

 若い制服巡査は、ちょっと困惑した表情で続けた。

 

保安風紀課(アド・ヴァイス)の刑事から、お二人を通すように言われてます。こちらです」

 

 ミッチェル巡査に案内されて路地をさらに奥へ向かうと、男が一人、大の字になって路地に倒れていた。その傍らに、ホワイトライオンの獣人がかがみこんでいるのが見える。倒れている男の顔が見えた瞬間、私は思わず声を上げた。

 

「......コートニー」

「コートニーって、コートニー・シェルドン?」

 

 ミオの問いかけに首肯すると、ぼたんちゃんが死体の傍らから立ち上がって言った。

 

「そ、コートニー・シェルドン。免許証で確認した。だからフブちゃんたちを呼んだんだけど」

「検屍官は呼んだの?」

「こっちに向かってるところ」

 

 私は問答をしつつ、シェルドンの死に顔を覗き込んだ。落ち窪んだ目、鉤鼻気味の鼻、兵隊刈り(クルーカット)の名残が残る黒い短髪。ハリウッド署の取調室であった時と、まるで変っていなかった。すでに死んでいるってことを除けば、だけど。

 

「ロイ・アール、保安風紀課(アド・ヴァイス)

 

 背後から聞こえた声に振り向くと、お馴染みの高価い背広に身を包んだ汚職刑事(ダーティー・コップ)が現場に入ってくるところだった。

 

「この現場は俺が仕切る。これは明らかに風紀事案だからな」

「誰に言われてきたんです? コルミャー警部補じゃないですよね」

「俺はこいつを知ってる。モルヒネ強盗に関わってたやつだ、そうだろう?」

 

 ロイはぼたんちゃんを無視して、私にそう言った。質問の形を取ってはいるけど、回答を求めてるわけじゃないのは明らかで、汚職刑事はすぐに言葉を継いだ。

 

「自分の商品で死んだ。それだけのこったろう」

「彼は衛生兵(コーマン)だったんですよ、部長刑事。モルヒネを二本使えば死ぬってことは、よくわかってたはずです」

 

 ミオが反駁すると、ぼたんちゃんがそれに乗っかってきた。

 

「加えて言えば、注射痕が首許にあります。首から注射する薬中(ホプヘッド)なんて、あたしは見たことないですね」

「いいか、お前ら......」

「いいですか、部長刑事」

 

 ロイの発言をぼたんちゃんが遮って続けた。

 

「モンローはもうお終いです。フォンテーンも長くないでしょう。ウォーレルも、49年まで局長を続けられるか怪しいもんです。次の局長が誰になるのか、よおっく考えて動かれた方がいいかと」

「......見込み違いだったな。お前がそんなに清廉潔白(リリー・ホワイト)なヤツだとは思わなかった」

「んまあ、見ての通りあたしはホワイトライオンなんでね」

 

 口許だけでニカッと笑ったぼたんちゃんは、牙を剥きだしにする形になって却って怖い表情を浮かべた。

 

「恨むなら、彼をあたしに割り振ったコルミャー警部補を恨むんですね。ミッチェル巡査、部長刑事を表通りまでお送りして」

「いい、自分で帰る」

 

 腕を取ろうとした巡査の手を振りほどいて、ロイは私たちにキツい一瞥を投げると、表通りの方へと歩き去った。そのロイと入れ替わるように、現場写真係の47年式スチュードベイカー・コマンダーが、路地に乗り入れてきた。

 

「じゃあフブちゃん、後はあたしとミッチェル巡査に任せて。証拠品は全部鑑識に回収させるし、マルが来るまでは、汚職警官を彼に近寄らせはしないから」

「わかった。ありがとう、ぼたんちゃん」

 

 現場から出て捜査用車に戻ると、ミオが考え込むように言った。

 

「ねえフブキ、ウチはこの件でフォンテーンをつっついてみようと思うんだけど」

「いい考えだけど......危険だよ」

 

 ハドソンのエンジンをかけて、カフエンガ大通りの交通に乗せると、私はやんわりと反対した。

 

「モンローが死にかけてる今、フォンテーンもかなり焦ってるはず。どんな手を出してくるかわかんないよ」

「わかってる。だからウチも気は抜かないよ」

 

 助手席のミオにちらっと視線を投げて、私は溜息を吐いた。獲物を見定めたミオは梃子でも動かないってのは、私が一番よくわかってる。

 

「......わかったよ。でも、ホントに気を付けてよ? 白上は付いてけないんだからね」

「もちろん」

 

 フォンテーンと面識がある以上、私が顔を出すわけにはいかなかった。相手がぼろを出すのを期待するなら、のっけから警戒させるのは愚策だ。

 とはいえ不安は消えず、私はその日の夕方まで不安に苛まれて過ごすことになった。

 

 

 

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