ロサンゼルス川の河川敷を走って行くと、1番街橋の下、放流路のところに二台の自動車が停まっているのが見えた。片方は青いリンカーン・コンチネンタル、もう片方はフォードのパトカーだ。そのそばで市警の婦人用制服に身を包んだ巡査が、背広姿の男に拳銃を向けていた。
パトカーの
「待ったラミィ、撃つな、撃つな! そいつは味方だ!」
あたしの同期でハリウッド署保安巡査の雪花ラミィは、雨に濡れた制帽の庇の下からあたしに目を向けて、拳銃はまだ下ろさずに訊いてきた。
「味方? この人は大丈夫な人なの?」
「そうだ、とりあえずは。こいつがいないと、ポルカたちはどうやっても八方塞がりだ。来てくれてありがとうございます、地方検事補」
濃紺の背広姿のピーターセン検事補は、特に気分を害した様子もなく手を下ろした。
「なに、状況が状況ゆえに構わんよ。とはいえ何と言うか......君に嵌められたような気分だがね」
「間違ってませんよ、ポルカはあんたを嵌めましたから」
「ポっちゃん!」
キャデラックの後ろに停まったハドソンから、フブちゃんが降りてこっちに走ってきた。
「フブちゃん、こっちだ。この地図を、放火犯の家で見つけたんだ」
書き込みのびっしり入った雨水渠の設計図を見せて続ける。
「この奥にいるのは間違いないと思う。ポルカとフブちゃんでこっから入ろう。こっちの出口はラミィに塞いどいてもらう。ヤツが逃げるなら、ここからしかないからな。ラミィ、獅白は?」
「アパートでねねちゃんと一緒にいるよ」
「よかった」
それを聞いて安心した。
コーエン・ギャングは契約を守る。あたしがそれで止まろうが止まるまいが、この状況なら確実に、ねねを殺すって脅しを実行しようとするはずだ。つよつよライオンがこの場にいないのはちょっぴり不安だけど――本人には絶対言わねえぞ、くそ――、ねねのことを心配する必要が無いのはいい。
「じゃあラミィ、出口の方は頼んだ。センターとジャクソンの角辺りだと思う」
「わかった......おまるん、死なないでよ」
「ポルカより獅白の心配してろよ、あいつは単独なんだから」
「そっちは言われなくてもしてますぅー。おまるんはオマケよ」
ラミィは冗談めかしてそう返すと、最後に真剣なまなざしを一瞬だけ投げて、パトカーに乗って走り去って行った。
「よし、行くぞフブちゃん。ピーターセン、ここは任せましたよ。地方検事になりたいんでしょ?」
「その場を動くな!」
フブちゃんが乗り捨てたハドソンの後ろに、47年式ビュイック・ロードマスターの警察公用車が停まり、降りてきた男たちが口々に制止の言葉を発し始めた。あの公用車を使える警官は数えるほどしかいない。
「ここがあんたの、政治手腕の見せ所ですよ。それじゃ」
追っかけ回されることはわかりきっていた。だからこいつを呼んどいたんだ。地方検事になりたいピーターセンは、ここを生きて出なけりゃいけない。危険だけど、代わりにあたしたちの存在を強力なカードとして使うこともできる。
あたしたちと違ってピーターセンは有名人だし名士だから、そう簡単に射殺して葬り去ることもできない。これがまあ、言ってしまえばあたしの保険だ。
「つまり? 彼女たちは君の部下と、そう言うわけかねピーターセン?」
ビュイック・ロードマスターの公用車から降りた男たちの内、市警の幹部用制服に身を包んだ初老の一人が、
「ええそうです、ウォーレル局長」
「君はこの件について、どこまで追及するつもりかな?」
「もちろん、行き着くところまでです」
「とことんまで追及しますよ。巻き込まれないといいですな、ウォーレル局長」
「可能だと思うかね? 言うまでもないが、雨水渠の放流路はここだけではないぞ。そして彼女らを追う警官も、後ろにいる二人だけではないのだ」
ビュイック・スーパーの捜査用車が二台、サイレン音も高々にブルックリン橋へと向かっていくのを、ピーターセンは土砂降りになった雨越しに見た。そちらの放流路へと向かうのだろう。
「彼女たちが生きて戻ってくると、本気で思っているのかね?」
「ええ、思っていますよ。彼女たちはヘタなタフ・ガイ気取りよりも、よっぽどタフでしょう」
「よろしい、ピーターセン」
ウォーレルが合図すると、後ろに控えていた二人の私服刑事が銃を下ろした。彼は腕を組み、ゆったりとピーターセンに歩み寄って言った。
「話を聴こうじゃないか。君の条件は、何かな?」