H.L. Noire   作:Marshal. K

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A Different Kind of War #8

 

 

「フブちゃん、聞こえた?」

「うん、聞こえた」

 

 放流路から入ってすぐに広がっているのは、暗くて広い暗渠だ。ここは雨水渠よりも前に造られた設備で、ロサンゼルス川の流量を調節するための物だった。今は雨水渠から流れてくる雨水を、いくつかの放流路に分流するために使われている。

 あたしたちは地図に従って、その暗渠を北に向かっていた。少し先に、サンタ・フェ放水路への通路があるはずだった。その方向から、足元の泥濘を踏む音が聞こえてきたんだ。それも複数人。

 

「ブルックリン橋の放流路から入って来やがったな」

「まあ、後ろから撃たれないだけ良しとしようよ」

 

 1番街橋の放流路はピーターセンが塞いでくれている。その南は6番街橋の放流路で、ちょっと遠すぎだ。

 

「あっちから入ってきたなら、先回りされてるかもな」

「そうなの?」

「地図だと、あっちの方にも通路がある。サンタ・フェ放水路を迂回して、サンタ=フェ・ジャクソン調圧水槽に直接行けるやつだ」

「待ち伏せ注意、か。まあそれより先に、ここに居る連中を片付けようよ」

「そうだな。この暗い中なら、ポルカたちの方が有利だろうしな」

 

 緩やかにカーブしている暗渠の向こうから、懐中電灯のものらしい明かりがちらちらと見えだした。人間でもちょっと待てば目が慣れるのに、それは悪手でしかない。

 暗渠を支えるコンクリ製の柱の一つに身を隠すと、もう一本の柱に身を隠したフブちゃんとちょっと目を見交わした。暗渠に響き渡る足音と、懐中電灯の光源というこれ以上ない的を得て、あたしとフブちゃんは射的大会を始めた。

 

「うわああああああぁぁぁ!!!」

「ぐわああああああぁぁぁ!!!」

 

 汚職警官二人が倒れて、懐中電灯の光が一気に乱れた。

 

「そこの柱に隠れろ! 早くしろ!」

「くそっ、どこから撃ってやがる!」

 

 この期に及んでまだ、懐中電灯を消すって発想には至らないらしい。しかも声まで上げてくれて、あたしたちには願ったりかなったりだった。

 向こうはM1短機関銃(トミーガン)M37速射散弾銃(イサカ)で武装してたはずなのに、拳銃しか持ってないあたしたちが一方的な蹂躙を終えるまで、そう大した時間はかからなかった。

 

「やっぱり、こいつら身内だ......」

 

 倒した四人組の一人からトミーガンを強奪するついでに、背広の内ポケットを漁ったフブちゃんがそう呟いた。その手には、背広から取り出した警察官(バッジ)がある。

 

「そりゃまあ、あんだけ追っかけられたからな。わかりきってるだろ」

「そうだけど......」

 

 フブちゃんは言い淀んで、警察官(バッジ)を死体の上に放った。実際に目の当たりにして、複雑な気分なんだろう。

 

「通用口はそこだけど、ちょっと北の方まで見て回ろう。第二波が来て、後ろから撃たれちゃたまんないからね」

 

 それでも判断力は冷静なまま健在だった。

 

 

 

 

 

「......静かだな」

 

 あの四人組以外、暗渠に回された人間はいなかったらしく、あたしとフブちゃんは引き返してサンタ・フェ放水路を辿っていた。金網のように透け透けの点検用通路(キャットウォーク)の下を、大量の雨水がごうごう音を立てて流れていて、ちょっとびくびくしてたのは秘密だ。

 とにかく、あの四人以外は調圧水槽側に先回りしてるはずなんだけど、それにしては先の方が静かだった。

 

「水槽の方で守りを固めてるのかもね......ん?」

 

 フブちゃんが鼻をうごめかした。

 

「どした?」

「いや、なんか......何かが焼ける臭いがしたような」

「どれどれ」

 

 くんくん鼻を動かしても、湿った雨水とカビの臭いくらいしかしなかった。

 

「気のせいじゃ」

「うぎゃああああああぁぁぁ!」

 

 突然放水路の先から悲鳴が響き渡って、あたしとフブちゃんは顔を見合わせた。

 

「あああ! あああぁぁぁ......」

 

 苦し気な断末魔が反響して、放水路に消えてゆく。そんなに遠くはない。

 通路を進んで、サンタ=フェ・ジャクソン調圧水槽への入り口に立った時、あたしとフブちゃんはその場で絶句した。

 

「ぁ......ぁぁ......」

 

 地面の上で人型の物が二つ、呻き声をあげていた。どちらも黒く焦げた服の残骸をまとい、その下の皮膚と肉は灰色になっている。対照的に真っ白な歯が覗く口と思しき穴から、呻き声とともにどす黒い、煤交じりの血が流れだしていた。辺りにはガソリンが燃えた臭いとバーベキューで肉を焼いた時の匂い、それに髪の毛を焦がしちゃった時の臭いが入り混じって立ち込めていた。

 

「うげ......えええぇぇぇ」

 

 あたしはその場で胃酸を反吐した。フブちゃんでさえ、呆然と立ち尽くしてしまっていた。

 

「これ......火炎放射器、か......」

 

 絞り出すような声でそう言ったのはフブちゃんだ。あたしはまだえずいていて、まともに声も出せなかった。

 

「......ポっちゃん、大丈夫そう?」

「げほっ......ああ、だい、大丈夫」

「よかった。進むよ、先に」

 

 あたしはただ頷いて返して、イサカを持ち直した。

 

 

 

 

 

「ああああああ! 冷てぇ!!!」

 

 その2分後、あたしは喉が潰れんばかりに叫んでいた。

 サンタ=フェ・ジャクソン調圧水槽にはすでに水が入りだしていて、反対側に渡ろうとしたあたしとフブちゃんは腰まで水に浸かっていた。

 

「ポっちゃん、うるさい」

「フブちゃんはいいよなあ、ストッキング穿いててさ!」

「ストッキングぐらいでマシになるわけないでしょ! 白上だってパンツの中までびしょびしょだよお!」

 

 トミーガンとイサカっていう物騒極まりない得物を抱えた状態で、なんとも呑気というか、気の抜ける会話を交わしながら、あたしたちは反対側の点検用通路(キャットウォーク)に上がる梯子にたどり着いた。

 散弾銃(ショットガン)持ちのあたしが先行して上る。水をたっぷり吸い込んだロング・スカートはなかなかに重く足に絡みついて、梯子を登るのにかなり苦労した。

 

「よし! やっと到ちゃ......」

 

 なんとか通路に上がって周りに目を走らせた瞬間、ばかでかいライフルを携えた男と目が合った。あたしが、右肩に負い紐(スリング)で背負っていたイサカを構え直すのと、男が下に向けていた銃口をこっちに向けるのは、ほぼ同時だった。

 

 

 

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