H.L. Noire   作:Marshal. K

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このお話は、ししポルコンビがシリーズ本編では所属しなかった殺人課にもし配属されていたら、というある種のIF作品です。事件は原作LAノワールには登場しないもので、E戸川某のさる短編を翻案したものとなります。


ししポル殺人課IF編
Crime and Punishment ~Alternative~


 

 

「次、オマルとシシロ。強盗殺人だ。現場は南ラ・ファイエット公園街(パーク・アベニュー)440番地」

 

 先に通告を受けたフブちゃんとミオしゃが会議室から出て行くのを、ぼーっと見るとはなしに見ていると、演壇に立つ殺人課長のジェームズ・ドネリー警部があたしと相勤の名前を呼んだ。

 

「被疑者はウィルシェア署で勾留されている。だが、窃盗は認めたものの強盗殺人は否定しているそうだ。行って様子を見て来い」

 

 あたしは眠気覚ましに啜っていた激マズ警察コーヒーを飲み干すと、先に席を立った獅白の後について会議室を出た。

 階段を下りて駐車場に向かう途中で、獅白が考えを整理するように話しかけてきた。

 

「被疑者をウィルシェア署で勾留してるってことは、現着した巡査か誰かが引っ張ったってことだよね?」

「たぶんな。そのまま吐かせられてたら、そいつもポルカたちみたいに昇任できたんだろうけどな」

 

 時には、殺人事件の犯人を現着した巡査がスピード逮捕してしまうことがある。そういう場合には署の司法係が捜査を進めるけれど、署長の裁量によっては逮捕した巡査が取り調べやその後の手続きを担うことがあって、綺麗にまとめた上げた暁には刑事や巡査部長への昇任が待っていることが多い。

 他ならぬあたしたちもそういう形で刑事に昇任したから、自白を録れずに殺人課(あたしたち)の介入を招いたその巡査の心持ちは痛いほどにわかった。

 

「ま、強殺で捕まった人はだいたい殺人を否定するけどね」

「そりゃ重罪窃盗の方が、第一級殺人よりはマシだからな」

 

 それを落とせるかどうかが昇任の鍵なんだよな、たぶん。

 

 

 

 

 

 ラ・ファイエット公園街(パーク・アベニュー)は、ウェストレイクのラ・ファイエット公園の6番街に面した正門から、北にビバリー大通り(ブールバード)まで伸びている片側三車線の大通りだ。通勤ラッシュが終わった今では大したことないけど、早朝や夕方には多数の自動車と歩行者が行きかう交通の大動脈の一つだ。

 

「獅白、たぶんここだ。440番地」

 

 助手席から歩道の地番を見ていたあたしは、捜査用車のハンドルを握る獅白にそう言った。獅白は方向指示器を操作して、緑の47年式シボレー・フリートラインを路肩に寄せた。

 普通、犯罪現場にはパトカーや検屍局の寝台自動車や、現場写真係の公用車なんかが駐まってものものしい雰囲気になってることが多い。でも、今日の現場は昨日のうちに検屍官や鑑識が作業を済ませてしまってるから、そう言った諸々の自動車は影も形もなかった。

 アパートメントらしい大きな建物の玄関前で、巡査が一人で立ち番をしているだけだった。

 

「尾丸と獅白、殺人課(ホミサイド)

「ケラー巡査、ウィルシェア(ディビジョン)です」

「初動を執ったのは?」

「自分と、相勤のユキハナ巡査です」

 

 ポン、と獅白が一つ手を打った。

 

「あ、そっか。それでラミちゃん、昨日帰ってこなかったんだ」

「一晩中被疑者に当たってたわけだよな? あいつの機嫌、今とんでもないことになってそうだな......」

 

 あたしが大げさにぶるっと肩を震わせると、獅白は小さく笑ってからケラー巡査に訊いた。

 

「現場を案内してもらっていい?」

「どうぞ」

 

 ケラー巡査は玄関ドアを開けてあたしたちを中に招じ入れると、すぐ左手のドアから中に入った。

 

「こちらが現場です。女主人(おかみ)の居間だそうです」

 

 居心地が良さそうなその部屋は、今は充満した血の臭いで台無しだった。

 入ってすぐのところと奥の暖炉のそばに、白いテープが人型に貼ってあって、そこに死体があったことを示している。

 部屋には高価そうなソファがいくつか置かれていたけど、その一つが粉々になっていた。

 

「被害者は?」

「ここの女主人(おかみ)のエレノア・ポーター夫人と、女中(メイド)のアンナ・フランキーです。この手前の方にメイドがうつ伏せに、奥の方に女主人が仰向けに倒れていました」

「なるほど。証拠品は?」

 

 現場には黄色い鑑識標識がいくつか残されていたけど、その対象となる物品は――血痕とかを除いて――残っていなかった。

 

「ピンカー技師が回収して、ウィルシェア署に持ち帰りました。あっちの鑑識課で見せてくれると思います」

「わかった。逮捕したって被疑者について聴かせてくれる?」

「あ、おまるん、あたし現場見て回っとくね」

「おっけー」

 

 ケラー巡査が話し始める前に、獅白がそう言ってふらっと離れていった。あいつのことだから、どうせ離れても聞き耳を立ててるだろうけど。

 

「被疑者はエドワード・クラレンス、この下宿の止宿人です」

「ここ、アパートメントじゃなくて下宿なの?」

「そうです」

 

 建物が下宿にしては大きかったから、てっきりアパートメントだと思っていた。

 そんなあたしの感心はよそに、ケラー巡査が説明を続けている。

 

「夕方になって勤め先の歯科医院――そこで助手をしてるそうですが――から帰宅して、死体を発見して電話で通報した、と当人は言ってました」

「逮捕した理由は?」

「手続き通り、身体捜検を行おうとしました」

 

 "第一発見者を疑え"は、犯罪捜査の初歩の一つだ。だから通常、第一発見者の人にも着衣と持ち物の検査を申し出ることになる。

 もちろん任意だけど、大抵の人は嫌がる。自分が嫌疑を受けるのが愉快だ、なんて人は普通いないからな。それでも、容疑者名簿から外すためだと言われれば、後ろめたい事のない人なら渋々ながら協力してくれるもんだ。

 

「拒否されたんだな?」

「それも頑なに。その上、ユキハナ巡査を突き飛ばして逃げようとしました」

 

 獅白はその時、少し離れたところにある血痕を眺めていたけど、ピクリと反応して動きが止まったのがはた目にもよくわかった。

 

「それで?」

「それが、ユキハナ巡査がクラレンスを投げ飛ばしたんですよ」

 

 ケラー巡査は愉快そうに笑いながら続けた。

 

「エルフの武術かなんなのか知りませんけど、とにかくクラレンスはそこのソファに激突して、ひとまず司法妨害でお縄になったんです」

 

 立派なソファの一つが粉砕されていた理由はそれらしい。現場の汚染という観点から見れば、レイからお小言を言われただろうな、という予想はついた。

 

「手錠を打ったうえで改めて捜検を施したんですが、やっこさん、現金で二万五千ドルも持ってたうえに、六万ドル分くらいの手形類も持ってたんですよ」

「二万五千の現金に六万の手形!?」

 

 あたしは思わず、大声で叫んでしまった。強盗殺人と聞いてはいたものの、そんなとんでもない額だとは思ってなかったんだ。

 

「ええそうです。歯科医助手じゃちょっとありえない額でしょう? 問い質したところ、仕送りの金だとか、サンタ・アニタで一発当てたとか、説明があやふやでして。その上証券類については全然説明できないありさまでしてね。それで強盗殺人で逮捕して、ユキハナ巡査が勾引して行ったんです」

「なるほどね......ありがとう、ケラー巡査。立ち番に戻っていいよ」

了解です(イエス・マーム)

 

 巡査が居間から立ち去ると、獅白があたしのところにやって来て言った。

 

「話を聴く限りだと、その止宿人さんが現状一番怪しそうだね」

「そうだな。クソの山の隣で澄まし顔をしてる犬と同じくらいにはな」

「とはいえ、疑問も残るね。第一発見者のフリをして警察を欺こうってくらいには頭が回るのに、身体検査されることまでは気が付かなかったって、そんなことあるかな?」

「獅白、頭は回るのに詰めの甘い犯罪者を、ポルカたちは今まで何人投獄したっけ?」

「身体中の指を使っても足りないね」

 

 獅白はさっと手を振って続けた。

 

「愚問だった、忘れて」

「誰だって、人を殺せば多少は動転するもんだしな。じゃ、次はウィルシェア署に行ってみるか」

「そうだね。道順はどうする?」

 

 あたしはちょっと考えて答えた。

 

「救急病院、鑑識課(テクニカル・サービス)、ラミィ、取調室」

「おっけー」

 

 

 

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