H.L. Noire   作:Marshal. K

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Crime and Punishment #3 ~Alternative~

 

 

 あたしたちがウィルシェア警察署一階の警邏課控室に入ると、巡査たち共用のデスクの一つに、見覚えのある婦人巡査がつっぷしていた。透き通るような空色の髪からは、エルフ特有の長い耳が一対、つんと突き出している。

 獅白は気配を消してその背後に歩み寄ると、背後から彼女に抱きついた。

 

「ラーミちゃん!」

「のわぁ!」

 

 清楚と言う概念から遠いところにある――というか警察署って場所自体、清楚とは言い難いところではあるけど――悲鳴を上げて、雪花ラミィは振り返った。

 

「ししろぉん!」

 

 そして相手が誰か認識するなり、涙声を上げてそのまま獅白に抱きついてしまった。

 

「おーよしよしよし、よく頑張ったねえ、ラミちゃん」

「そんなことないよぉ、ししろんが来る前に、ラミィ一人で落としたかったのにぃ......」

 

 目の前で二人仲睦まじくされて、急に疎外感を覚えたあたしは、わざとらしい咳払いをしていちゃいちゃを遮った。

 

「あーお二人さん、一応ここにはポルカとか、他の巡査たちもいるんだけど......」

「あ、おまるん。おはよ」

「なんであたし相手にはフツーに喋るんだよ!」

 

 まったく日常と変わらない朝の挨拶を投げられて、あたしが思いっきりつっこむと、それだけで獅白は笑い袋と化してしまった。お腹をおさえてふらふらしている相勤はとりあえず置いておいて、被疑者のことをラミィに訊く。

 

「んで、クラレンスだけど。コロシは相変わらず否認してんの?」

「うん。お金と株券を金庫から盗ったことは、引致して早々に認めたんだけど」

 

 警察署の雰囲気というのは、独特で威圧的だ。あたしたちは職場であり、日常の風景だから全然気にしないけど、制服姿の巡査連中や、上着を脱いで腋の下の拳銃を露出させている刑事連中がうろうろしているこの庁舎に入ると、あっさり観念して喋り出すヤツは少なくない。

 

「そーいう連中って、いっぺん喋り出したら何もかも認めちまうことの方が多いよな。なのに、コロシは頑なに認めてない、と」

「ちょっと変だなって思ったけど。でも、重罪窃盗は第一級殺人よりマシだし」

「ポルカもそれは思ったけど。でもな、そんな判断をぱっとできるのは、あたしたちお巡りか、法曹関係の人間くらいだぞ。それも刑事法の連中な」

「それはそうだけど......だとしたら、クラレンスさんは本当に殺してないってこと?」

「そこまではわからん。とりあえず、ポルカと獅白で話を聴いてみる。ラミィも同席してくれ」

 

 あたしは、空いているデスクの椅子に掛けてひいひい言いながら息を整えようとしている相勤の方を見やって、付け足して言った。

 

「あのげらいおんの笑いが治まったら、な」

 

 

 

 

 

「おはようございます、クラレンスさん」

 

 取調室2に入るなり、獅白は何の感情もない怜悧な声で、テーブルの向こうにかけている男に声をかけた。知らなければ、ついさっきまで大爆笑かましていた女だとは誰も思わないような口ぶりだ。

 獅白がクラレンスの向かいの椅子に陣取ったので、あたしはクラレンスの背後に回り込み、壁に寄り掛かってその後ろ姿を眺めた。中肉中背で、髪は薄めの金髪だった。上着は着ていなくて、明るい青のウェストコートとスボン、白いシャツ姿だ。

 観察している間に、獅白がクラレンスと話し出した。

 

「殺人課の獅白刑事です。あっちは相勤の尾丸刑事。さっそくですが、あなたにはエレノア・ポーター夫人に対する強盗と、ポーター夫人並びにアンナ・フランキーに対する第一級殺人の疑いがかかっています。それについて、なにか言いたいことはありますか?」

「そっちのお巡りさんに何回も言ってる。俺はやってない。誓って本当だ」

 

 憔悴しきった声で、クラレンスはそう言った。たぶん、昨日の夕方に捕まってから一睡もしてないんだろう。

 それはラミィの方も同じはずだけど、ラミィはさっきまで控室で居眠りしてたから、今は多少マシな顔つきで、獅白の斜め後ろの壁に腕を組んで寄り掛かっている。

 

「じゃあ、順を追って話を聴きましょうか。お勤め先は歯医者さんでしたよね?」

「そうだ。ハリウッドのはずれにある、カーマイン先生のところで働いてる」

「では、昨日の夕方にそこを出てからの話をお願いします」

「ああ......昨日は四時に退勤したんだ。それ以降の予約が無い日だったから、カーマイン先生が早く店じまいすることにしたんだ。それで、タイピストの女の子を映画に誘ったんだけど、断られたんで、一旦家に帰ったんだ」

「歩いてですか?」

「路面電車でだよ。医院はサンタ・モニカ大通り(ブールバード)とセント・アンドリューズ通りの角にあるから、ウェスタン通りの角まで歩いて行って、そこからダウンタウン行きの路面電車に乗ったんだ」

「どこで降りました?」

「ビバリー大通り(ブールバード)とフーバー通りの角だよ。健康のためにちょっと歩こうと思って」

 

 獅白はそれをメモに取って、質問を続けた。

 

「それで歩いて家に帰ったと。帰り着いたとき、なにかおかしなことはありませんでしたか?」

「あったよ。呼鈴を鳴らしたけど、誰も出て来なかったんだ」

 

 獅白がクラレンスの方をじっと見つめた。クラレンスは背後から見ててもわかるほどもじもじしたけれど、話を続けた。

 

「普段はアンナが開けてくれるんだ。アンナがいない時には、女主人(おかみ)さんが開けてくれる。でも、昨日は三回も呼鈴を鳴らしたのに、誰も出て来なかったんだ」

「それから?」

「自分の鍵で中に入ったんだ。俺は夜遅くに帰ってくることもあったから、玄関の鍵を貰ってて。それで中に入ったんだ。そうしたら、足が見えたんだ」

「足?」

「そう」

 

 大きく息を吸ってから、その情景を思い出してか震える声でクラレンスは言った。

 

女主人(おかみ)の部屋の戸口から、足が突き出してたんだ。アンナの足だった」

 

 

 

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