H.L. Noire   作:Marshal. K

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Crime and Punishment #5 ~Alternative~

 

 

「獅白、どう見るよ」

 

 取調室2を出て玄関に向かう道すがら、あたしは獅白にそう訊いた。

 

「本当のことを話してると思ったけどね」

「ポルカもそう思った。すっかり怯えちまってまあ......あれが演技ならアカデミー賞(オスカー)ものだよ。とはいえ、クラレンスじゃないとしたら、誰だ?」

「まずは、ポーター夫人の交友関係から洗ってみよう。さっきクラレンスが言ってた隠し金庫のことを知ってる人たちは、除外していいかもしれないけど」

「そうだな。それこそ知ってるなら、金庫の中を空にしていくはず......」

 

 ふと、あることを思いついて、あたしは途中で黙り込んだ。それに気付いた獅白が立ち止まる。

 

「どしたの、おまるん?」

「いや、一個思いついたことがあって......」

 

 あたしが自分のアイデアを口に出そうとした途端、廊下の角の向こうから穏やかならぬ声が上がって中断させられた。

 

「ありゃなんだ?」

「わかんない。見に行ってみようか」

 

 騒動の現場は玄関から入ってすぐの、警務主任のデスクだった。紺の粗いツイードの上着を着た若い男が一人、デスクの主のホプキンズ警部補に対して、何事か怒鳴っている。

 

「だから言ってるでしょう! 何かの間違いに決まってるって。とにかく、本人に会わせてください!」

「だから、規則上ダメだって言ってるだろうが。あんたは弁護士じゃないし、クラレンスの親族じゃないし、彼から立会人に指名されたわけでもない。ご立派な法学士の学位があるなら、それくらい知ってるだろう」

 

 聞き捨てならない名前が聞こえて、あたしと獅白は目を見合わせた。獅白がそっちに歩み寄って行き、咳払いをして二人の注意を惹く。

 

「どうしたんですか、警部補?」

「ああ、ちょうどよかった」

 

 ホプキンズのその声は、明らかに"これで厄介払いができる"って口調だった。

 

「シムズさん、こちらの二人が担当の刑事だ。話は彼女らにするといい」

 

 そう言うだけ言うと、さっさと当直事務室の奥に引っ込んでしまった。まったく、イヤなやつだ。

 獅白が肩をすくめ、デスクの前に取り残された男に声をかける。

 

「失礼ですけど、あなたは?」

「僕はシムズです。ロッド・シムズ。あなたたちが逮捕した、エドワード・クラレンスの友人です。あなたがたの名前と所属は?」

「獅白刑事と尾丸刑事、殺人課(ホミサイド)

「エディの事件の担当だって話は本当ですか?」

「ええ、本当ですよ。実のところ、あなたからも話を伺おうと思ってたんで、ちょうどよかったですね」

 

 それから獅白はデスクに手をつくと、当直事務室の奥に声をかけた。

 

「警部補! 取調室1って空いてますか?」

「いいや、塞がってる」

「わかりました。じゃあ、後で雪花巡査がここに来ると思うんで、上の殺人課の部屋に来るよう伝えてもらえますか」

「ああ、わかったわかった」

 

 やる気のなさそうな返しだったけれど、いやなやつで通っているホプキンズ警部補のことだ。返事をしてくれただけマシと思うしかないだろうな。

 

「行こうおまるん、ここの殺人課に部屋を貸してもらおう。こちらへどうぞ、シムズさん。廊下の真ん中で立ち話もなんですから」

 

 あたしたちは二階に上がると、奥まったところにある殺人課のオフィスに入った。

 オフィスは大して広くなかった。デスクは六台しかなく、一台を除いてすべて空いていた。奥には警部補の部屋があって、ドアと磨り硝子で仕切られていたけど、そっちもどうやら誰もいないらしい。

 唯一部屋に残っていた刑事は、濃い鼻髭を蓄えた中年男で、薄汚れた陶製のパイプでチェリー・タバコを吹かしまくり、部屋の中に甘ったるい煙をロンドンの霧のように垂れ込めさせながら、旧式のコロナ・スミスのタイプライターで書類仕事をしていた。黄色っぽいシャツは、元々その色なのか煙草の脂でそうなったのかわからなかった。

 彼はあたしたちをちらっと見るなり、一目で同業者だと見抜いてすぐに自分の仕事に戻ったので、あたしたちも遠慮せずに室内に入った。獅白が空いているデスクの一つに腰かけたので、あたしはそこと向かい合わせになっているデスクから椅子を持って来て、シムズを座らせた。自分はその背後に、デスクの天板の上にお尻をのっけて座る。

 

「それではシムズさん。改めてあなたのお名前と、住所とご職業を伺います」

「ちょっと待ってください」

 

 早々に、いきり立ったようにシムズが反駁した。

 

「これは公式な聴取じゃないんですよね。それなら私は、そんなあれこれを話さなくてもいいはずです」

「ええ、公式な聴取じゃありません」

 

 獅白は、一切口調を変えずに答えた。

 

「ただ、ここであなたから聞いたことを、後々公式な調書として使う可能性もあります。その時、もう一度署に来てもらって公式な聴取を行うか、それとも調書の形式にまとめて、あなたのお宅に署名をもらいに伺うだけで済ませるか。違いはそこです。あたしはどっちでも構いませんよ?」

「......まあ、いいでしょう」

 

 シムズは足を組み替えて、渋々って口調で話し始めた。

 

「名前はロッド・シムズ。住所は南フラワー通り603番地の5号室です。ダウンタウンのタッターソル先生の事務所で、法務助手(パラリーガル)をしています」

 

 

 

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