「フブキ、なにか収穫あった?」
捜査用車にフブキが戻ってくると、ウチはさっそく聞いてみた。
「うん。昨日のロサンゼルス・ヘラルドによると、エリザベス・ショートは真っ二つにされて死んだんじゃなくて、死んだ後に両断されたみたいだって」
「フブキ?」
ジト目で相勤をにらむと、フブキは
「冗談冗談、バラードは電話をかけてたよ。相手はガイ・マカフィーだと思う。マーク・ビショップ相手に何か仕掛けるみたいだね」
「それで?」
「住所も教えてくれたよ、大声で。ウィルソンズホテル803号室だって」
「なるほどね。じゃあ急いだほうがいいかもしれ......」
無線機がキューンとハウリング音を鳴らして、ウチを遮った。
「KGPLから各局。ウェストレイクパークで進行中の415事案が入電中。ウェストレイクパーク近い局、
「ウィルソンズホテルって確か......」
フブキが顔を顰めてそう言いながら、送話器を取り上げた。
「2キング11です。KGPL、
「2K11、ウェストレイクパークで進行中の415事案。場所、西7番街1220番地、ウィルソンズ・アパートメント・ホテル803号室。西7番1220、ウィルソンズホテル803。
「2K11了解。
「KGPL了解、以上KGPL」
「向こうはずいぶんいいフットワークしてるね」
送話器を置いてサイレンのスイッチを入れながら、フブキが苦々しくコメントした。
一斉に路肩の方に寄っていく自動車を避けて、ウチはビュイックを
「みたいだね。急がないと、あのマカフィー元警部の手下ならビショップさんの居場所を吐かせるために、奥さんの脚をへし折ったりとかしかねないな」
フブキは同意の声を上げようとしたみたいだけど、ウチが路面電車を避けて大回りで7番街に右折すると、唸り声のようなものを発してから押し黙った。
ウィルソンズ・アパートメント・ホテルは7番街とガーランド通りの角にあって、ガーランド通り側に玄関があった。
ウチが玄関前の路肩にビュイックを急停車させると、フブキは悲鳴のようなブレーキ音が消えないうちにぱっと自動車から飛び降りた。ウチも手早くエンジンを切って後に続く。
両側に灌木の植えられたアプローチを走り抜けて玄関にたどり着くと、フブキは玄関ドアに体当たりして中に転がり込んだ。
「お巡りさん?」
葡萄色のお仕着せに身を包んだ
「止めようとしたんですが、押し通られてしまって。803号室は
「どうも!」
「なんとか間に合ったみたいだね」
直通スイッチを押しながら言うフブキの方に目をやって返事をする。
「そうだね。でも今まさに隣の
消防規則で非常階段もあるだろうし、と付け加えたところで
短い廊下の奥にドアが二つあった。"803"と書かれたプレートのある方に駆け寄って、その勢いのまま体当たりしてドアを破った。
「手を挙げろ、警察だ!」
「怪我したくなけりゃ引っ込んでな、お嬢さん」
手前の一人がそう言うと、後の一人が背広の下から
「止まって、その場で手を挙げろ!」
「女に手を上げるのは気が進まねえが......畜生相手ならいいか!」
そう言うなり手前の一人が殴りかかってきた。なかなかいい右ストレートだ、人間の基準でいけば。残念ながらウチは獣人で、こっちの基準から言えば遅いことこの上ない。
ぱっと軸足を払って床に転がすと、あとの処置はフブキに任せて棍棒男にタックルをかけた。
「うぉっ」
相方が突然ひっくり返ったことにまだ戸惑っていた棍棒男を押し倒す。立ち直る前にこめかみに裏拳を叩きこんで制圧すると、フブキの方に声をかける。
「フブキ、そっちは......わぁっ!?」
振り向いた途端に目の前に薄ピンクのナニカが迫ってきて、どうリアクションを取る暇もなくウチに激突した。ウチはそのナニカ――ぶつかった瞬間に匂いでフブキだとわかったけど――といっしょに
「うぐっ」
サイドボードは粉々になったけど、ウチはフブキと壁の間に挟み込まれて肺の空気が絞り出される。息を吸おうともがいていると、急に胸が軽くなった。上のフブキがどいたんだ。
なんとか息をついて立ちあがったところで、フブキが自分でどいたわけじゃないことに気が付いた。
「あぐっ!?」
ちょうど最初にこけさせた右ストレート男が、フブキの胸ぐらをつかんで壁に叩き付けたところだった。
「フブキ! この......」
「うぐ......こんにゃろめ!」
前後不覚で壁にもたれかかって、殴られるのを待っていた、ように見えたフブキがぱっと床を蹴って両足で右ストレート男を突き飛ばした。
男はそのまま扉の開いていた脇の部屋に吹っ飛ばされた。向こうから、別の家具が粉砕されて中身が散らばるような音が響く。
「フブキ! 大丈夫!?」
ウチは尻もちをついて床にもたれかかっているフブキに駆け寄って聞いた。
「痛ったあ......大丈夫、ちょっとたんこぶができるかもしれないけど。ミオこそ大丈夫?」
「ウチも大丈夫」
「よかった......あいつ、ミオに伸されたふりして白上の油断を誘ってたんだよ」
だからおんなじ手で仕返ししてやったんだ、と言って、にへらと笑った。
ほったらかしにしていた棍棒男に手錠をかける。隣の部屋――たぶんビショップ夫妻の寝室だ――から、今度は本当に気を失ったらしい右ストレート男を引きずって、フブキが戻ってきた。男の両手は後ろにまわされている。
ごろつき二人を
「大丈夫ですか? お怪我は?」
「いえ! な、ないわ」
ビショップ夫人はぱっと立ち上がって言った。
「ごめんなさい、まだ動転していて......」
「大丈夫ですよ奥さん、それが普通です。ちょっと座りましょうか」
ウチは振り向くと、サイドボードの残骸から帽子を拾って木くずを払い落としているフブキに言った。
「フブキ、
「りょーかい、任された」