H.L. Noire   作:Marshal. K

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The Fallen Idol #10

 

 

 ほとんど本能的と言っていいくらいすぐに、ウチはフブキの体を抱き寄せた。そのまま覆いかぶさるようにして、自分の体も助手席の背もたれの陰に隠す。

 幸か不幸かガラスを突き破って車内に飛び込んできたのは最初の一発だけで、ゴールドバーグとその相方の撃った他の弾はガンガン音を立てて車体に当たった。

 バスンと何かが破裂する音がして、車体が傾く。一発タイヤに当たったらしい。

 

「フブキ! フブキ、大丈夫!?」

「だい......じょぶ......かすっただけ......」

 

 食いしばった歯の間から息を漏らしつつ、とぎれとぎれにフブキが答えた。ウチの下敷きになっている身体をぷるぷると小刻みに震わせている。

 体をひねってフブキの上半身側に目をやると、赤い部分がすぐに目に入った。右の二の腕。怪我したところを左手でぎゅっと押さえていて、指の隙間から真っ赤な血が滲みだしてぽたぽた垂れている。薄ピンクの上衣(チュニック)の袖がどんどん赤く染まっていく。

 ウチは足をドアハンドルに引っ掛けて運転席側のドアを開くと、上体を下げたままずるずると車外に出た。

 車外から手を伸ばして、フブキを運転席の下の床に転がすと、うっとかぐっとかいう感じの、押し殺した悲鳴が上がった。ごめん、フブキ。ちょっと手荒だけど我慢して。

 フブキの上衣(チュニック)の左袖を引き裂いて手早く簡易包帯を作ると、それをフブキに押し付けながら言う。

 

「フブキ、これ巻いて、包帯代わりにして」

「わかっ、た......ミオは......?」

 

 どうするの? と聞かれる前に答える。

 

「ウチなら大丈夫。二人くらい、なんとかなるよ」

 

 反論する暇を与えずにドアを閉めると、ほとんど同時に黒いビュイック・セダネットがタイヤを軋らせながらフランシスコ通りから曲がってきた。二人追加だ。

 それがどうした。こちとら一人でドイツ兵一個分隊を――実は半分くらいは偶然近くに着弾した榴弾のお蔭だけど――片付けた恐怖のオオカミ軍曹だぞ。

 M1911A1陸軍制式拳銃(コルト・アーミー)安全子(セーフティ)を弾いて、間髪入れずにセダネットの方に向けて三発撃つ。最初の一発が、雑につけた狙い通り前輪に命中してパンクさせた。

 スピンした41年式ビュイックが歩道脇のレンガ壁に突っ込むのを確認すると、ウチはぱっとジャンプして捜査用車の屋根に飛び乗った。

 虚を突かれたようなゴールドバーグの顔を眺めてちょっと満足する。獣人と戦いなれてないな。

 普通の人間はジャンプ一つで自動車の上に飛び乗ったりできない。明らかに捜査用車の陰から撃ってくると思っていたらしい二人がこちらに狙いを移す前に、ウチは四発撃ちこんだ。

 最初の一発がゴールドバーグの脳味噌を半分くらい吹き飛ばして、三発目と四発目が相方の左肩とお腹に飛び込んだ。

 

「どりゃあああ!」

 

 ウチはもう一度ジャンプした。そろそろセダネットに乗ってきた連中が立ち直る頃だから、こんなお立ち台にいつまでもいちゃまずい。

 よろけた紺色の背広がウチに銃口を向けようとするけど、遅すぎる。銃口が上がりきるよりも先に、ウチの膝が相方の顔面にめり込んだ。そのまま後頭部をリンカーンのボンネットに強打する。膝越しに卵の殻が割れるような感触が伝わってきた。

 

 姿勢を下げたまま走って、捜査用車のエンジン部の陰に走り込んだ。通りの反対側から、おしゃかになったセダネットから降りた二人組がガンガン撃ってくる。

 フブキは捜査用車の中でおとなしくしてるみたいだ。といっても、この自動車はトーチカ並みに頑丈なわけじゃないから、早く片づけてしまわないといけない。

 アーミーの弾倉(マガジン)を交換する一連の動作の間に、ボンネットの上から耳の端っこをちょろっと出して相手の位置を確認した。

 銃撃戦をするときの獣人側の利点、視覚の代わりに聴覚や嗅覚で相手を補足できること。射撃が止んだタイミングでボンネットの上から銃を突き出すと、続けて三発撃った。ギャーッと悲鳴が上がって、一人が倒れ込む音がした。

 よし、これであと一人。そう思った。

 次の瞬間、捜査用車の運転席ドアが開いた。

 

「うぁっ!」

 

 フブキが悲鳴を上げる。

 

「フブキ!」

 

 ウチは慌ててボンネットの上に飛び乗った。

 しまった、一人に集中してる間にもう一人が足音を殺して忍び寄ってきていたんだ。もう一人がガンガン撃ってきたのは、ウチにそれを聞き取られまいとするためだったみたいだ。

 男はすでにフブキの首に腕を巻き付けて、民生品のコルト・ガバメントをフブキの頭に向けている。45口径自動コルト拳銃(ACP)弾が頭に当たった場合どうなるかについては、さっきゴールドバーグが実演してくれた。

 フブキはぐったりして男のされるままになっている。頭につきつけられている銃を警戒してだろうか。右腕の傷口にはさっきの簡易包帯が縛ってあって、ウチは場違いながらも小さな安堵を感じた。

 

「フブキを放せ!」

「そっちこそ、銃を捨てろ! 相棒の頭を吹っ飛ばされたくないだろ!」

 

 引き鉄はすでに半分ほど引かれている。体当たりしても間に合わなさそうだ。仕方ない。

 銃口を男から逸らして下に向ける。男から目は離さずにボンネットの上に置くために身体を屈めた時、

 

 通りの向こうから甲高いエンジン音が轟いた。男とウチが同時にそっちを見る。6番街の東からパトカーが一台、猛然とこちらに走ってきた。ぐんぐん加速して、ブレーキを踏む気配はない。

 

「ちょっ!?」

 

 ウチは思わず声を上げると、男は銃口をフブキの頭から外した。パトカーの方に向けて発砲しようとして、

 

「痛てぇ!」

 

 ぐったりしていたフブキが急に足をあげると、ブーツの踵で男の足の甲を踏んづけた。身体をひねって男をパトカーの進路上に放り出すと、ぱっとウチの方に飛んできた。

 

「フブキ!」

 

 捜査用車のボンネットの上で相勤の体を抱きとめると、ほとんど同時に白黒の車体が目の前を猛スピードで行き過ぎた。肉が金属に当たって弾き飛ばされる、鈍い音がした。

 

 

 

 

 

「1アダム18からKGPL」

「1アダム18、どうぞ(ゴー・アヘッド)

「1A18、998N(ノーラ)事案が発生。場所、6番とフランシスコの角。状況は終了しましたが、死者、負傷者が出ましたので、救急車の派遣を願います。また、刑事部に本件を通報の上、検屍官の臨場を願います」

「KGPL了解。1A18、刑事部への通報は誰宛に行いますか」

「1A18、大神刑事から交通課長、でお願いします」

「KGPL了解。1アダム18宛、救急車と検屍官は現場前進中です。交通課長にはオオカミ刑事名義で電話通報を行います。以上KGPL」

 

 

 

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