H.L. Noire   作:Marshal. K

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A Slip of the Tongue ~Interval~

 

 

「失礼します、オマル刑事」

 

 あたしが大部屋でとっても七面倒な報告書をさらさらと、具体的には10分で1単語くらいのペースでスムーズに書き進めていると、女性の声がした。

 ほとんど八つ当たりに近い唸り声をあげながら目をあげると、取り澄ました顔の書記が言った。

 

「レアリー警部が執務室でお待ちです。シシロ刑事と一緒に出頭なさってください」

 

 

 

 

 

「うー、あったまいってえ......」

「どしたのおまるん、低気圧?」

「いや、話の下手な参考人」

 

 署長室への道すがら、大部分が白い捜査報告書のことを考えて頭を痛めていると、獅白に心配されてしまった。

 

「あいつ、話すのがヘタクソなくせに尺ばっかり長いんだもん。調書は長くなるし報告書書くのは一苦労だし、もう散々だよ」

「なるほどね。あたしはそこに同席してないから手伝ってあげたくても無理だなあ」

「いいからお前は溜まってる報告書を早いとこ警部に出せよ」

「えー、だってあれ出したら新しいの押し付けられちゃうんじゃん、やだよ」

「出してなくっても、たぶん今から押し付けられるぞ」

「なにそれ、被捕食者の防衛本能的なカン?」

「おい! ポルカを捕って食おうとするな!」

 

 ケタケタ笑う相勤を半ば蹴飛ばすようにして署長室に入れ、あたしも後から続く。

 レアリー警部がニヤニヤ笑いを浮かべて言った。

 

「やあお二人さん、元気が有り余ってるようだな。なので一件任せようと思う。徒歩巡査が盗難手配中の緑のカイザー・フレイザーを発見したと報告してきた、西2番街6番地だ」

 

 未決箱から書類を一束抜き取って続ける。

 

「行って、確認してこい。出る前に盗難車手配書(ホット・シート)の確認を怠るなよ。お手を煩わせて申し訳ないね、シシロ刑事」

 

 報告書は本件と一緒に出してくれるとありがたいな、という署長の圧に獅白は黙って頷きを返しただけだった。

 

 

 

 

 

「どうした獅白、なんか殊勝って感じじゃん?」

 

 捜査用車を駐車場から出して1番街を西に走らせながら、獅白に率直な質問をぶつけてみた。

 

「そお?」

「普段のお前なら圧かけられてもはぐらかして終わりにするじゃん。声に出さないにしても頷き返すなんて、なんか獅白ぼたんらしからぬというか」

「んー、まあね。レアリー警部怒らすと面倒そうなんよね。割と情緒不安定で、いつ怒るかよくわかんないし」

 

 それは同感だった。

 よその課の連中が何と言おうと、交通課が暇ということはない。むしろ忙しい。その課長に加えて市警最大の中央警察署の署長を兼任するのは、たぶんゴールトン・レアリーという人にとっては重責なんだろう。

 その多大なストレス故か、レアリー警部はとても感情の起伏が激しい人物だった。

 

「書類書くのは面倒だけど、あの人のお説教に付き合うのはもっと面倒なんだ。長くなるし」

「じゃあ普段からちゃんと提出しとけよ」

「いや、ある程度書いてはいるんだよ。出しに行かないだけで」

「出せよ! 相勤のポルカが警部から厭味言われてんの!」

「あ、おまるんそこ右ね」

 

 ビュードライ通りから2番街に曲がる。

 歩道の番地表示を確認して、6番地の路肩に捜査用車の47年式ビュイックを停めた。

 

「ここだね」

「みたいだな。まずは自動車があるか確認を取って......」

 

 ビュイックから降りようとするとほぼ同時に、緑色の自動車が目的の家の横手から砂利を巻き上げながら街道に出てきた。緑のカイザー・フレイザー、登録番号も手配書と同じ。

 

「あれだおまるん!」

「わかってる!」

 

 慌ててドアを閉めて、エンジンをかけ直す。カイザー・フレイザーがアスファルトを擦って急加速するのを見て、こちらも負けじとアクセルを踏み込んだ。

 加速で一旦シートに押し付けられた獅白が、体を起こしてサイレンを鳴らしつつ送話器を取る。

 

「至急至急、2キング44からKGPL」

「至急至急、2キング44どうぞ(ゴー・アヘッド)

「2K44、487被疑車両による148事案発生、応援の派遣を願います。被疑車両、カイザー=フレイザー・マンハッタン。登録番号、4-G(ジョージ)-8-5-6-7。色は緑。現在、西2番街6番地より西に向かって逃走中」

「KGPL了解。KGPLから各局、2K44が148事案を通報。場所......」

 

「クッソ、早い、なかなか追いつけねえ」

「おまるん、そのままあっちの左後ろにつけて」

「おいちょっと獅白! 一体何やって......」

 

 ビバリー大通り(ブールバード)に出てインターナショナルD型のトラックをギリギリで躱すと、獅白がレギュレーターハンドルを回して窓を開け、拳銃を構えて身を乗り出した。

 

「ええい、どうなっても知らないからな!」

 

 反対車線を走ってきた路面電車をなんとか避けて、カイザー・フレイザーの左後ろにつける。

 

――パァン!

 

 獅白が一発発砲した。その一発が左後輪をパンクさせて、カイザー・フレイザーをよろめかせる。

 

「これでよし。当てちゃえおまるん」

「それならもうちょっと待って......ここだぁー!」

 

 一気にハンドルを切ってビュイックのフェンダーをカイザー・フレイザーのフェンダーにぶつけて、前方を走るトラックを避けられなくする。

 カイザー・フレイザーは急制動をかけたけど、停まり切れずに害虫駆除業者のサービストラックに追突した。ボンネットが吹っ飛んで、冷却液が漏れたのか白い湯気が一気に立ち上る。

 

「OKOK、わかったよ! 確かに何マイルかスピード違反したかもだけどさ」

「何マイルかどころじゃねえよ!」

 

 ビュイックから飛び降りると、運転席で両手を挙げている運転手を引きずり下ろした。

 なにかアホなことを喚いていて、あまりにトンチンカンなので殴りたくなる衝動と必死に戦わなきゃいけなかった。

 

「あんた、名前は」

「クリフ・ハリソン。そういうあんたらは誰なんだよ」

「あたしは尾丸、こいつは獅白。ロス市警(LAPD)の刑事だよ」

「嘘だあ、だって市警の獣人の女刑事は狐と狼だってパパが......」

「昇進したばっかなんだよ。今度パパに教えてやりな」

 

 "刑事"と刻印された警察官(バッジ)を掲げて獅白が言う。

 

「クリフ・ハリソン。重自動車窃盗と無謀運転で逮捕します」

 

 

 

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