「クリフ・ハリソン。重自動車窃盗と無謀運転で逮捕します」
「は、なんだって? これは僕が買った自動車だぞ!」
ハリソンが声を荒らげると、まるで信じていない目つきのおまるんが聞いた。
「それ、証明できんの?」
「領収書があるよ、ほら!」
ハリソンが財布を出して中身を引っ掻き回してから、折りたたまれた紙片を取り出しておまるんに渡した。肩越しに覗き込む。
――クームズ自動車商会
ロサンゼルス市西5番街528番地
領収書
メーカー:カイザー・フレイザー
車種 :マンハッタン
価格 :2400ドル*1
ラジオ代:49ドル95セント
ライト代:1ドル
合計 :2450ドル95セント
西2番街6番地
クリフ・ハリソン 署名
1947年1月11日――
「これはクームズ自動車商会ってとこで買ったんだな?」
おまるんが領収書を返しながら質問した。
「そうだよ」
「権利書は?」
「同じところでもらったよ。
あたしはカイザー・フレイザーに身体を突っ込んで、
「あったあった、これだおまるん」
ピンク色の書類を広げておまるんに渡す。
――1947年カリフォルニア州自動車登録済権利証
所有者:クリフ・ハリソン
住所 :ロサンゼルス市西2番街6番地
登録番号:4G 85 67
車名 :カイザー・フレイザー・マンハッタン
年式 :1947
種別:自家用――
裏面の権利移転の部はまっさらだった。もっとも、中古車ディーラーを通して取引すればこれは普通だ。
(偽造かな)
(たぶんね、それも一流の)
おまるんと囁き合った後、今度はあたしがハリソンに質問する。
「ハリソンさん、何か前歴はありますか」
「ない、ないよそんなの!」
急に愛想のいい笑みを浮かべて言った。愛想が良いを通り越して卑屈の域に入ってるけど。
おまるんも当然不審に思ったらしく、あきれたように溜め息を吐いて言った。
「あのね、ハリソンさん。そこに
「前歴はないし、自動車を盗んだわけでもないって!」
「じゃあ何で逃げたんだよ。サイレンと赤灯で警察だってのはわかったでしょ? すぐ停まればよかったのに」
「それはその......、今
「いくつもってんの」
「一本だけ......」
「二、三本は持ってんでしょ?」
「......はい」
ハリソンさんはすっかりしょげ返ってしまった。
身長5フィートちょっとのおまるん相手にしょんぼりしている6フィート2, 3インチの男性という図は、傍から見ると結構滑稽だ。本人には屈辱的だろうけど。
「そのくらいならほっといてあげる。ポルカたちも余計な書類仕事増やしたくないし。で、クームズ商会であんたに自動車売ったのは誰?」
「リチャード・クームズ、オーナーだよ」
「じゃあさっきの書類書いたのもそいつ?」
「もちろんだよ。記録のために写しも取ってあるはずだよ」
おまるんが書き込みを終えて手帳を閉じるのを待って、あたしはハリソンさんに向かって言った。
「じゃああたしたちは捜査を進めるから。それまであんたは中央署にいてもらうよ」
「ちょっと待てよ! このクソ自動車を買っただけで僕を逮捕するって言うの!?」
「あんたが自動車泥棒に関わり合いがなければ、すぐ釈放してやるよ。あたしがあんたの立場なら、これ以上余計なことを言わないように気をつけるけどね」
路肩にパトカーが駐まって、巡査が一人駆け寄ってきた。おまるんが指示を与える。
「とりあえず、こいつを重自動車窃盗で勾留して。えっと?」
「ウォーウィック巡査です」
「ウォーウィック巡査。あと所持品は証拠品として保管しといて」
「了解しました」
ウォーウィック巡査が手錠をかけて、ハリソンさんをパトカーの方へ引き立てていく。
「パパに言いつけてやる! 僕のパパが誰か知ってるか!? お前たちなんか――」
巡査が後部ドアを乱暴に閉めて、それ以上は聞こえなかった。
「本当のことを言ってるように見えたけどね」
クームズ自動車商会に向かって2番街を東に走っていく道すがら、運転席のおまるんに言ってみる。
「そうだな。でも生まれつき息を吸うように嘘を吐く連中もいるんだ」
おまるんは前を向いたまま、にこりともせずに返した。
「政治家って連中だよ。で、たぶんあいつはその息子だ」
クームズ自動車商会は5番街とフランシスコ通りの角にある、高級中古車ディーラーだった。
工員たちが自動車を整備したり磨いたりしている横を通り抜けて、事務所らしい奥の建物を目指して歩く。
「ああ、そこでお待ちになってお嬢さん方! とってもいいビュイック・センチュリーがございますよ!」
黒塗りのリンカーン・コンチネンタルの横から男が一人出てきて、売り文句を並べながらこちらにやってきた。
おまるんがハンドバッグから警察官
「尾丸刑事、
「ええそうです。リチャード・クームズになんなりとお申し付けください」
二本指で陽気な敬礼をして続ける。
「それで、パトカーをお求めですかな、お嬢さん方? フフッ」
自分の冗談に自分で笑っているクームズさんに早くもイライラしているらしいおまるんに代わって、あたしが質問した。
「クームズさん、あたしたちは自動車泥棒について捜査してまして。クリフ・ハリソンという男性がこちらで自動車を買ったと供述してるんです」
「そりゃあ、人によっちゃあうちの商品は盗品だろうって言う人もいますけどね」
またひとしきり笑ってから、どんどん顔の険しくなるおまるんを見やって付け加える。
「冗談だよ、お嬢さん」
「面白いですね、クームズさん。本当に」
おまるんの声は内容と裏腹にとてつもなくうんざりした感じだったけど、クームズさんは大して気にする様子もなく続けた。
「ハリソンなら覚えてるよ。緑のツートンのカイザー・フレイザー、だったかな」
「記録は取ってますか」
「事務所にあるよ。ついといで」
そう言うとハリソンさんは大股で飛び石の上を歩くような、とてもひょうきんな歩き方で事務所の方に向かった。戸口でこちらを振り返って一言、
「これも冗談だよ、お嬢さん方」
「獅白、任せていいか」
おまるんが絞り出すような声で言った。
「あたしが尋問すると、途中であのじいさんの頭を吹っ飛ばしちゃいそうだ」
「いいよ、任してもろて。明日のお昼はおまるん持ちね」
「安いもんだ」
奢りを快諾するあたり、おまるんはこの社長さんに随分参ってるらしい。まあ、あたしも尋問が終わる頃には軽い頭痛に見舞われてるかもしれないけどね。
そう思いつつ、あたしは一人で社長の後について――歩き方は真似せずに――事務所に入った。