「どういうこと?」
「あなたがクームズに売ったカイザー・フレイザーが盗難車だってことです。残念ですが儲けは0セントですね」
「なんでよ、小難しい書類仕事も全部正確にやったわよ」
動物さんにはわからないでしょうけど、と余計な一言を付け加えるあたり、ジーンに関するベラスコの人物評は正確そうだ。
ちょっと態度を変えて当たってみよう。
「それならあたしもこのまま帰るけど、ちょっとは考えてみなよ。あんたが不用心に盗難車の一つを売ってくれたお蔭で、こっちはもうじき泥棒連中を一網打尽にできそうなんだ。連中があんたをほっといてくれるって思うなら、あたしたちはさっさと引き上げるけど」
ジーンの顔色が一気に悪くなる――それがわかるくらいの頭はあるらしい――のを見ながら続ける。
「それが嫌なら、あたしに何か寄越すんだね」
「私は......私は言われた通りのことをやってるだけなのよ。自動車を一台運ぶごとに、連中は五十くれるの」
そこで自慢げな笑みを浮かべて、
「それを売ったら二千の儲けになったわ」
「儲けはゼロだっつってんだろ」
外のパトカーから戻ってきたおまるんが口をはさんだ。
「それに連中につかまったら、頭から喰われちまうだろうな。あんたの人生だからポルカの知ったこっちゃないけど、そんな終わり方でいいの?」
「あのね、女の暮らしは常に物入りなのよ。そんな男勝りな仕事をしてたら、そんなことも忘れちゃうのかしら」
後半部分を付け足すと、奥の店員から失笑が漏れた。それがあたしたちに対するものなのか、ジーン・アーチャーに向けたものなのかは今一つ判断が付かなかったけど。
皮肉は無視することにして、質問を続ける。
「どれくらいベラスコと運び屋をやってるの?」
「知らないわ、ジェイムズ・ベラスコなんてやつ」
「ジェイムズ・ベラスコ?」
おまるんの方を向いて言う。
「あたしフルネームで言ったっけ?」
「いや、ベラスコだけだな」
「それはその、そうだったかしら? いや、あなたが言ったと思うけど......とにかく、知らないわ」
「あんた、自分で思ってるほど切れ者じゃないって、そろそろ気づいた方がいいよ」
へどもどするアーチャーにおまるんが若干憐みを込めた視線を向けて言った。
「あんたの権利書とベラスコの権利書の住所が同じだったんだよ。今ベラスコはポルカたちが収監してる」
「わかった、知ってるわよあいつのことは。権利書は本物だけど、住所はいつも空き地なの。ビジロウはこの権利書のこととか、仲間の口の堅さとかをいっつも自慢してるわ」
「それに売り物を横流ししないこととかも、か?」
「ええそうね」
おまるんが横から挟んだ皮肉――さっきのお返しのつもりかな――に、アーチャーは聞こえるように舌打ちをしてから返した。
いい具合に焦れてイライラしてきてるなと思いつつ、次の質問に移る。
「その自動車はどこで拾うの」
「待ってよ、覚えちゃいないわよ。これでいい? もう行っていいでしょ?」
段々嘘の吐き方が雑になってきた。
「おまるん、記者の知り合いとかいる?」
「インクィジターの文化部に一人いるけど」
「じゃあ電話して、そいつを呼んでくれる? 彼女の写真を撮って、記事にしてもらおう。明日の朝にはUPI配信でアメリカ中があんたのことを知ることになる。逃げ場なしってことだね」
「わかったわかったわよ、インダストリアル通り58番地よ! 郵便で命令が来て、ビジロウから自動車を受け取るの。大きな倉庫で、人相の悪い連中でいつもいっぱいだわ。これでいいでしょ?」
「ええ構いませんよ。ちょうどお迎えの自動車が参りましたので」
おまるんが芝居ががったへりくだり方をして言った。ちょうど
「悪い事は言わないから、犯罪から足を洗いなよ」
おまるんが手錠をかける間、あたしはアーチャーに向かって言った。
「あんたより利口でずる賢いやつがこの界隈にはわんさといるんだから。このままだと、そのうちあんたと
「さてと、お次はどうする。ビジロウってやつのアジトに乗り込んでみるか?」
店員から受け取った小切手を証拠品保管袋に入れながら、おまるんが言った。
「いや、先に印刷会社を当たってみよう。首領のタマ取るなら、武器は多い方がいいでしょ」
「そうだな。件のライトヴォルってのがどんなヤツかも見ときたいし。ただ、」
おまるんは路肩に駐めたパトカーの方に手を振った。
「先にあれを返しに行かないとな。巡査連中の機嫌を損ねると、後々どんなしっぺ返しを食らうかわかんないし」
「わかってるよ。だってあたしたち、先日までその巡査だったじゃんか」
二人でニヤッと笑って、中央署へ戻すためにパトカーに乗り込んだ。
マーキー印刷会社はサンペドロ通りがアリソ通りに合流するT字路にあった。印刷工場が併設された大きな建物で、サンペドロとアラメダに挟まれた1ブロックを丸ごと占めている。
「なにか御用ですか、お嬢さん方」
事務所に入ると、カウンターデスクの後ろで仕事をしていた年配の男性が立ち上がって言った。
おまるんが警察官
「中央警察署の交通刑事です。責任者はどなたですか」
「私です、ゴールトン・ライトヴォル。いったい何事です」
「州の自動車権利証を刷ってるのはおたくですよね?」
「ええ、州政府の委託で権利書を納めてます。もう何年もやってますよ」
若干誇らしげだ。
「最近こちらの道具や設備が盗難に遭った、なんてことはありませんか」
顔を曇らせたライトヴォルさんにおまるんが続ける。
「いまポルカたちが扱ってる盗難車に本物みたいな書類が付いてるんですよ」
「......いいや、ないなあ」
奇妙な沈黙の後で、ライトヴォルが言った。
「偽造じゃないのかね? この街にも腕のいい偽造屋がそれなりにいると聞くけどね」
「そうですか。他に2, 3質問してもいいですか?」
「ええ、どうぞ」
おまるんが手帳を取り出すのを見て、あたしは工場の方を一通り見てこようとその場を離れた。