H.L. Noire   作:Marshal. K

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A Slip of the Tongue #6 ~Interval~

 

 

「いくつか質問をいいですか、ライトヴォルさん。目下ポルカたちは二件の自動車泥棒について捜査してます。こういった窃盗集団について、なにかご存知で......」

「知らないね!」

 

 食い気味、かつ大声の否定だ。いま工場の方に回って言った獅白にまで聞こえたんじゃないか。

 

「なんで私がそんなのと関わり合いがなきゃいけないんだ?」

「被疑者たちが、ここで刷られた正規の権利書を持ってたからです、ライトヴォルさん。その事実だけでも、治安判事に頼めばここを10日間営業停止にして、上から下まで捜索する令状を出してくれますよ」

「怒鳴らないでくれよ、刑事さん!」

 

 ライトヴォルが怖がっているような仕草で言った。あたしは怒鳴ってたつもりは全然ない――言い方はとても刺々しかったかもしれない――んだけど。

 

「本当のところ、何年か前からそういう問題はあったんだ。いくつかの中古車ディーラーが、白紙の権利書を犯罪者連中に売ってるんだよ」

 

 まあそれはそれで嘘ではないんだろう。次。

 

「クリフ・ハリソンとかジェイムズ・ベラスコって名前に、覚えはありますか」

「いや、ないな」

「ハリソンはクームズのところで自動車を買ったんです。彼の権利書は偽造でしたが高品質でした」

 

 ライトヴォルをジトッとした目で見つめて、

 

「あなたが知らないなら従業員ですかね。誰か問題のある従業員はいますか?」

「いや、それはない。従業員はみんな厳重に審査してあるんだ、政府から仕事を受けるためにね」

 

 ライトヴォルがふと、思いついた顔をして付け加えた。

 

「なあ、そのクームズって名前には覚えがある。前に権利書の横流しに関わったやつじゃなかったかな」

「それなら出荷台帳を見せてもらえますか、ライトヴォルさん。クームズの展示場の台帳と照合したいんですが」

「それはちょっと難しいな。そういう記録をあなた方に渡していいかわからないんだ」

 

 州政府との契約やら規則やらで、とぼそぼそ言い訳するけど、これくらいの抵抗度ならさっきの方法でいけそうだ。

 

「見せてくださいよ、ライトヴォルさん。ポルカたちは令状を取りにわざわざ裁判所まで行きたくないし、あなただって営業停止は嫌でしょ?」

「......わかった」

 

 鼻から盛大に息を吹き出しながら、ライトヴォルが言った。

 

「念押ししとくが、これは特別だからな。これだ」

 

 ライトヴォルが奥の書類整理棚(キャビネット)から帳簿を一冊抜き取ると、あたしの目の前のカウンターにどさりと置いた。

 "マーキー印刷会社"と箔押しされた表紙を開いて、台帳のページをめくっていく。クームズの名前もちらちら見たけど、それより気になるのは......

 

「商売上手みたいですね、ライトヴォルさん。このビジロウさんって人は2日に一回は来てるじゃないですか」

「ああ、彼はその、自分の仕事場にあまり、あー、在庫を置きたがらない人でね。つまり、足りなくなるごとにちょっとずつ買い足しに来るんだ」

「なるほど。ご協力ありがとうございました、ライトヴォルさん。なにか進展があったらお知らせしますよ」

 

 台帳を閉じていかにも安堵した顔のライトヴォルに返すと、事務所の玄関で獅白が暇そうに煙草を吹かしているのを見て、そちらに向かった。

 

 

 

 

 

「例のビジロウってやつの名前、台帳にあったんだ」

 

 ビュイックに乗り込むと、途中から話を聞いてたらしい獅白が言った。

 

「ああ、ご丁寧に住所も書いてくれてたよ。インダストリアル通り58番地って」

「アーチャーが言ってたのと同じじゃん。それならさっきのおっちゃん、もう引っ張っちゃってよかったんじゃない?」

「そうも思ったけど、おっさんが言うように台帳を勝手に見るのが規則とかに反してたら、地方検事(DA)はいい顔しないと思ってさ」

「なるほどね。じゃ、悪党のアジトに乗り込みますか」

 

 明らかに捕食者の顔になった獅白に被捕食者のあたしは――認めたくないけど――内心で怯えつつ、勇敢にも話題を変えた。

 

「ところで獅白、おまえ禁煙するって言ってなかったっけ?」

「あー、うーんとね、ラミちゃんにバレなきゃ問題ないよ」

「煙草の匂いって、獣人じゃなくても結構わかると思うけどな......」

「大丈夫大丈夫、バレたらおまるんが聴取を長引かせたせいにするから」

「ちょっと!?」

 

 

 

 

 

「こっちが60番地だから......ここだおまるん」

 

 あたしたちは捜査用車を目的地のお隣の、インダストリアル通り60番地の路肩に駐めた。

 歩道から58番地の建物を見上げて獅白が言う。

 

「自動車修理工場、か」

「まあ無難な偽装だな。自動車がたくさん出入りしたり、中に置いてあっても誰も怪しまない」

「この大きさで、アーチャーが倉庫の中のごろつきについて誇張して言ったんじゃないなら、応援を呼んだ方が良さそうだね」

 

 きょろきょろと獅白が通りを見回すけど、残念ながらこの辺りには警察用非常電話函(ゲームウェル)がない。

 

「アラメダとの角のガソリンスタンドに公衆電話があったぞ」

「じゃ、ちょっとあたしひとっ走りしてくるわ」

 

 獅白が応援を呼びに駆けていくと、あたしはビュイックに寄り掛かってあたりの工場や倉庫をしげしげと眺めはじめた。

 少しして、人相の悪い厳つい感じの男が二人、煙草を咥えてアジトから外に出てきた。あたしは一瞬その二人を視界に入れたけど、それよりも向かいの煉瓦造りの倉庫に興味があるふりを続ける。

 

"やれやれ、中は禁煙だなんて普通の自動車工場みてえなことを抜かしやがって。俺たちがそれで自動車の塗装を台無しにするとでも思ってんのかね"

"馬鹿、この中にはえらい量のガソリンとかそんなのが置いてあるんだぞ。火の扱いをしくじったら俺たちゃ跡形も残らず吹っ飛んじまうだろうよ"

"工員にハジキなんか持たせといて何をいまさら"

 

 ぼそぼそと剣呑な話をしているのをフェネックの耳を使って盗み聞きする。人が少ないうえに自動車の騒音もある(加えてあたしは帽子で耳を隠している)ので、こっちには聞こえてないと思ってるんだろう。バッチリ聞こえちゃってるけど。

 

"確かにな。ビジロウの旦那が......おい、あれ見ろ"

 

 二人の方に目をやると、一人があたしが寄り掛かってるビュイックを指さして、もう一人と一緒に凝視していた。慌てて自動車に目をやる。いったい何を見て......あ。

 

「しまった、赤灯!」

「ポリ公だァー!」

 

 一人が叫びながら工場に入っていき、もう一人が腰に手を伸ばす。こっちの銃はシャツとズボン姿の向こうと違って、外套(コート)の下に隠してある。先に抜くのは間に合わない、と判断したあたしはすばやく後退するとビュイックの後ろに飛び込んだ。

 

ガン! ガン! ギン! と捜査用車に連続して弾が当たる。

 

「あっぶねー! あやうく狩られるところだった!」

 

 リアフェンダーの陰から耳の先をちょっと出して相手の場所を確かめると、腰から抜いた警察標準輪胴拳銃(リボルバー)をフェンダーの後ろから突き出し、角度をつけて3発撃つ。ギャーッと悲鳴が聞こえて、ドサリと倒れるような音がした。

 今度は目も出して確認する。よし、おっけい。

 ビュイックの陰から出ると、角に誰か隠れてないか注意しながらジリジリ倉庫に近づいていく。

 

「......なんだろこの感じ。ピリピリして、違和感というか嫌な予感が......」

 

 ハッと気が付いて、あたしは慌てて今倒した男の方を向いた。上体を持ち上げて、こちらに向かって銃を構えている。

 

 引き鉄はすでにほとんど引き絞られている。

 

 あたしが獣人なのを考慮しても、こっちが銃を向けて引き鉄を引き始めるころには弾が到着してしまう。

 

 すぐに回避動作をとっても、準備動作中に弾が発射されてしまう。

 

 

 

......あれ、これあたし詰んだ......?

 

 

 

 血走った目がこっちの表情を読み取ってか、ニヤリと笑った。

 

 

 

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