H.L. Noire   作:Marshal. K

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A Slip of the Tongue #7 ~Interval~

 

 

「交換台です。ご用件をどうぞ」

「警察です。KGPLに繋いでください」

「お繋ぎします」

 

 あたしはアラメダ通りとインダストリアル通りの角にあるガソリンスタンドの電話ボックスにいた。

 交換手がダイアルを廻す音を聞きながら首を延ばしておまるんの様子を見ようとするけど、電話ボックスがスタンドの建物の影にあるもんだから全く見えない。

 

「受令台です。名前と識別番号(バッジ・ナンバー)を」

「シシロ、識別番号(バッジ・ナンバー)1485W(ウィリアム)

「用件をどうぞ」

「応援を要請します。場所、インダストリアル通り58番地。自動車窃盗集団の拠点であり、重武装の被疑者による抵抗が予想されます。可能であれば、中央署警務主任の臨場を求めます」

「了解しました。対処識別符号は何としますか」

「2でお願いしま......」

 

 言い終わる前にバンバンバンと、連続した銃声が響いた。通りのあちこちからキャーッと悲鳴が上がる。

 あたしの背中がスゥっと寒くなった。音の高さから45口径だとわかったからだ。おまるんの銃じゃない。

 

発砲!(Shots Fired!) 至急応援を求めます!」

「了解しました、対処識別符号3(コード・スリー)で呼び出しを行います。他に用件がありますか?」

「ありません!」

 

 言うなり受話器を掛け金(フック)に叩き付けると、あたしは電話ボックスから駆け出した。

 ほぼ同時にさっきよりも若干高めの銃声が3発響いた。聞きなれた38口径警察標準輪胴拳銃(リボルバー)のものだ。とすると、おまるんは反撃ができるくらいには無事なのか、それともたまたま巡査が通りかかって、斃れたおまるんを援護しているのか。

 アラメダ通りを斜めにわたってインダストリアル通りを見やると、おまるんが銃を構えたまま工場脇の路地のほうにじりじりと近づいていくのが見えた。見たところ怪我はしてないみたい。よかった。

 

 ほうっと一つ溜め息を吐いたあたしは腰から銃を抜いておまるんと合流しようとして、

 歩道に倒れている男がゆっくりと上体を起こすのを見て再び凍り付いた。手には自動拳銃が握られている。おまるんの方は路地の角を注視していて気付く様子はない。

 

 あたしはその場で銃を構えると、男の頭を照星と照門の延長線上に置いた。

 街灯の間隔から距離を300フィート程と見積もって、銃口を少し持ち上げる。

 

 間に合え、と念じて引き鉄を引き絞った。

 

 

 

 

 

「ほらほらおまるん、立ち上がんないとスカートが汚れちゃうよ」

 

 歩道にぺたんと座り込んでいるおまるんに、後から声をかける。

 

「ししろぉ」

 

 なんとも気の抜けた、若干情けなくすらある声を聞いて、ようやくあたしの最後の不安の塊が無くなる。

 ごろつきの弾がカスって吹っ飛んでいたおまるんの帽子を拾い上げて、ぼすっと頭にかぶせてやった。

 

「んぉ、ありがと」

 

そう言うとおまるんはなんとか立ち上がって、スカートをぱたぱたはたいた。

 

「なんでまた先にドンパチ始めちゃったの。警察官(バッジ)でもチラつかせた?」

「そんなヘマするかよ。あれあれ」

 

 消沈気味のおまるんの指す先を目で追って、風防(ウィンド・シールド)ガラスの砕け散ったビュイックを見る。

 

「ああ、赤色投光器(スポットライト)

「こっち向きに駐めちゃったからな。隣の56番地に駐めるべきだった」

 

 あたしたちはビュイックの顔が58番地の方を向くように駐めていた。するとこっちからは赤灯が丸見えになっていたんだ。真昼間だし、警戒怠りない悪党ならすぐに気づいちゃっただろう。

 

「それより問題は、一人がポリ公だって叫びながら中に入っちゃったことだ。こんだけ派手にドンパチやって一人も出てこないってことは......」

「立てこもるつもりだろうね。どうするおまるん、応援待つ?」

 

 風に乗って響いてくる、パトカーのサイレンの二重奏を聞きながらおまるんに聞いた。

 

「その方がいいだろうな。果敢に突っ込んで行ってもいいけど、あたし今こんなドジ踏んだばっかだし......」

 

 おっと、ポルカヘラってやがる。というか、ヘラりかけてるというか。これはあんまりよくないな。

 少し考えたあたしは一計を案じて、

 

「じゃああたしは先に行っとくから。おまるんは応援が来たらそいつらを案内してきて」

「え? おいちょっと、獅白!?」

 

 おまるんの声を無視して飛び上がって工場の屋根のふちに手をかけると、懸垂で身体を引っ張り上げてそのまま相勤の視界から姿を消した。

 

 

 

 

 

「くそ、なんなんだあいつ......」

 

 獅白が消えた屋根のふちを見上げて、ため息交じりに呟く。

 銃口を向けられるのはこれが初めてじゃなかった。なんなら市警に入ってから割と頻繁に撃ち合いをしてさえいる。それでもここまで鮮烈に、「自分が死ぬ」と感じたのは久しぶりだった。

 

......そうだ、正直に認めよう。あたしは今、とってもびびっている。なんなら二度と銃撃戦の場に出られないんじゃないかってくらい震え上がっている。

 このままじゃ、このアホほど治安の悪い天使の街で警察官を続けるなんて、無理もいいところだ。

 獅白はたぶん、それを見抜いたんだろう。鋭いやつめ。

 

「まだ到着しそうにないなあ......仕方ねえ」

 

 一向に近づいてくる気配のないサイレンを聞きつつ、大きく溜め息を吐いた。

 路地に入って、ゆっくりと一番近い戸口に近づいていく。ごろつきの一人が飛び込んだまま、開けっ放しだ。

 壁にピッタリと背を付けて、戸口の中に向かって叫ぶ。

 

ロス市警(LAPD)だ! 武器を置いて投降しろ!」

「警察だあ!? 警察犬だろうがこの畜生め!」

 

 めちゃくちゃ失礼な返事と一緒に大量の銃弾が、あたしが背を付けてる壁に着弾した。さらに戸口の真向かいにある隣の建物の壁に、散弾(ペレット)の痕がボコっと開く。

 

「ヒッ」

 

 怯えが一瞬、再び首をもたげて我ながら情けない声が漏れた。

 叫びだしそうな恐怖心に無理矢理蓋をして、耳の端っこを戸口からちょっと出す。ちょうど正面くらいにショットガン持ちがいるな。

 相手が薬包を詰め替えているのを聞き取って、拳銃を角度をつけて突き出し、引き鉄を......

 

――ガキン!

「いってえ!」

 

 向こうの誰かが撃った弾があたしの銃に当たって、こっちが撃つ前に銃を倉庫の中に弾き飛ばした。

 慌てて手を引っ込める。衝撃でじんじん痺れてるけど、弾が当たってはなさそうだ。ラッキー。

 とはいえこれであたしは丸腰だ。詰みじゃん。5分ぶり二回目。

 手をこまねいていると、中からギャーッと悲鳴が響いた。

 

「もう一人いるぞ!」

「事務所の上だ!」

 

 獅白だ。全員が振り返って獅白の方を撃ちだすのを確認して、倉庫の中に躍り込んだ。走りながらリボルバーを拾い上げる。

 

「もう一人も入ってきたぞ!」

「ばかばかばか、あぶねえ!」

 

 気が付いたのがM1短機関銃(トミーガン)持ちでものすごい数の銃弾に襲われたけど、なんとか戸口の正面にあった監督詰所に転がり込んだ。

 窓ガラスがものすごい音を立てて砕け散る。

 

「うげ、銃身に着弾してる。この銃もう使えないじゃん」

 

 暴発しかねないリボルバーを拳銃入れ(ホルスター)にしまうと、獅白が撃ち倒したごろつきから古めかしいM12散弾銃(ウィンチェスター)を没収して、詰所の戸口に向かって構える。

 

「そんなところに逃げ込みやがって、袋の鼠だぞ!」

「フェネックだっての!」

 

 不用意に戸口に近づいてきたトミーガン持ちの前にパッと躍り出ると、一瞬虚を突かれたらしい相手に一発ぶち込む。鹿撃ち弾(バックショット)の大部分が相手の顔といい胴体といい身体中に着弾して、はるか後ろに吹き飛ばした。

 そのまま走って整備中の自動車の陰に駆け込む。

 

「ふーっ、ふーっ、落ち着けあたしの心臓」

 

 あんな体験の後で相手の銃口の前に躍り出るのは、正直とんでもない勇気が必要だった。まだ心臓がバクバクいってやがる。

 

「ふー、よしおっけい」

 

 深呼吸して無理矢理落ち着くと、ぱっと自動車の上に飛び上がった。獅白にいるほうにコルト45口径を連発していた男に高いところから飛びかかると、ウィンチェスターの台尻をこめかみに叩き付ける。

 

「ちょっと借りるわ!」

 

 ぶっ倒れたごろつきからコルトを略奪すると、すばやく3, 4発撃つ。

 事務所の下からM1ライフル(ガーランド)でこっちを狙撃していたごろつきが悲鳴を上げてひっくり返った。

 

「おっけいおまるん、下はそれで全部だよ」

「本当だろうな」

 

 耳の中でまだ銃声がガンガン鳴り響いてるけど、とりあえず獅白を信頼して身を起こした。

 一応物陰に注意しながら、棚屋のように持ち上げられてる事務所の階段を駆け上る。

 

「よっと」

 

 踊り場で獅白が合流した。

 

「お前、どこから入ってあんなところにいたんだ?」

「上に屋上メンテナンス用の点検口があってさ、鍵がちゃちかったからこじ開けた」

「どうやって?」

「さあね~?」

 

 ニヤつく獅白に盛大な溜め息を返す。

 

「蹴破ったってことにしといてやる。それはともかく、その......あんがとな」

「え~、なんのことなんのこと~? しっかり言ってくれないとわかんないなあ~?」

「あーうっせえ!」

 

 ぎゃあぎゃあ言い合いながら――ぎゃあぎゃあ言ってたのは主にあたしだけど――事務所の入り口についた。

 獅白がノブをがちゃがちゃ回す。

 

「鍵かかってんね」

「どいてな」

 

 あたしはウィンチェスターをドアに向けると一発ぶっ放した。バァンと轟音が工場に響き渡って、錠部分がドアの破片共々吹き飛ばされて開いた。

 

「わかったわかったよ、撃たないでくれ!」

 

 事務所の中にいた水色のシャツの男が両手を挙げて言った。ウィンチェスターを向たままそいつに言い放つ。

 

「そのまま後ろを向け!」

 

 獅白が歩み寄って手錠をかけると、半ば突き飛ばすようにして油っぽいソファに座らせた。

 奥にあるデスクの端に腰かけて水色シャツに話しかける。

 

「ポルカたちは盗難車と権利書を追っかけてたんだけど、そしたらここにたどり着いたんだよね。ビジロウ、あんたがボスだとは思ってないけど、知ってることは洗いざらい吐いてもらうから」

 

 

 

 

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