「マーキー印刷のことは知ってるよな」
あたしはデスクの上から白紙の権利書がいっぱい入った箱を取った。側面に書かれている"マーキー印刷会社"の文字を見せつけるようにして抱える。
「これを、あそこの誰から手に入れたんだ?」
「ここじゃ車検切れの自動車を修理して、公道に戻れるようにしてやってるんだ。抹消されてることもあるからお客のために登録済権利証が必要で、マーキーからそれを買ってるんだ。なにも違法じゃない」
「本気で言ってんの? そこで死んでるごろつきたちの仲間入りしたいのか?」
「今更ごろつきの死体が一つくらい増えても書類の量は変わんないからな」
「オーケーオーケー、言うよ。ライトヴォルだ、マーキーの経営者の。あいつが俺のボスなんだよ。ここにいる連中も、みんなあいつが雇ったんだ」
そう言って、ポケットから紙切れを取り出した。
配送伝票だ。マーキー印刷会社の屋号がスタンプしてあって、ライトヴォルのサインもある。
「ライトヴォルは政府から色んな契約をもらってるよな。なんでその裏でこんなことしてたんだ?」
「さあな」
「当ててあげる。借金でしょ?」
獅白がそう言って、別の紙切れをもって歩いてきた。
その青っぽい紙片を受け取る。
「サンタアニタ競馬場。ハズレ馬券か」
「負けがかさんでるんでしょ? あいつ」
「ああそうだよ、あいつは200万以上借金があるんだとさ」
ビジロウが大きく溜め息を吐いて言った。
「
「なるほど。ビジロウ、お前はとりあえずこれでいいよ」
事務所に入ってきた巡査――そういえば応援呼んでたんだった――に合図して、勾留手続きをするように言いつけると、ビジロウの方に目をやって言った。
「喋るべきことはしっかり喋ること。そうすりゃ、
あとはこれで店じまいだ。おまるんがビュイックをマーキー印刷会社の駐車場に入れる。
捜査用車を降りて二人で並んで事務所へと入っていく。
「ゴールトン・ライトヴォル、逮捕します」
入るなりおまるんが声を張って言った。
ライトヴォルは一瞬びくっとしたけど、すぐに怒った顔を繕って言い返した。
「またあんたらか。こんな嫌がらせはもううんざりなんだがな」
「件の自動車窃盗団の拠点を見つけたんだよ。白紙の権利書と、あんたがサインした配送伝票もセットでそこにあった。言い訳は?」
「それは......俺は色んな書類や伝票にサインするからな。連中がどっかからくすねたものに俺のサインがあったからって、逮捕することはできないはずだ」
弁護士が何て言うか見ものだぞ、というライトヴォルに、あたしはカウンターの上からハズレ馬券を拾い上げて言う。
「借金のことは忘れたの?」
ぐっと黙り込んだライトヴォルに畳みかける。
「
「その、俺に問題があるのは知ってるよ。なあ、お嬢さん、あんたらが必要としてることはなんだって提供する。名前とか何とか。ただ、借金のことは記録に残してほしくな......」
「ポルカたちは今、あんたに黙ってほしいんだけどねライトヴォル。あんた、取引できる立場だと思ってんの?」
なんとか我が身を守ろうとするライトヴォルに、おまるんが鞭のように言葉をぶつける。
再び黙り込んだライトヴォルを上から下まで眺めてから、おまるんが言い渡した。
「ゴールトン・ライトヴォル、重自動車窃盗の共同謀議とカリフォルニア州に対する詐欺で逮捕します。ほらとっとと手挙げて、後ろを向く」
「"
その日の夕方、
「......ああ、これだ。"交通課の刑事は重武装の悪漢たちに立ち向かい、銃撃戦の後には1ダース以上もの死体が運び出されたが、市警側は怪我人一人出さなかった"!」
嬉しそうに新聞で獅白の肩を叩いて続ける。
「滅茶苦茶いい仕事だ、お二人さん。さて、私はここでこいつを最後まで読んでしまおう。報告書を書きに戻るんだな。明日の朝までに、私のデスクの上に置いておくこと。いいね、シシロ刑事」
「
獅白が苦笑いしながら答える。
「......あそこ、1ダース以上もいたっけ」
「いなかったな」
捜査用車に乗り込むと、二人で声を殺して笑った。
「ポルカが3人、おまえも3人。だからちょうど半ダースってわけだ」
「まあインクィジターだしね。誇張して書き立てるのは常、と」
「写真付きで載っちゃうとは思ってなかったけどね。APもUPIも配信するだろうから、明日からポルカたちは有名人だぞ」
そう言って笑いかけると、獅白はほんの一瞬だけ何かを憂うような、心配そうな顔つきになったけど、すぐにニヤニヤ顔に戻って言った。
「そうだね。もしかしておまるん、例のインクィジターの知り合いに何か漏らして、待っててもらったんじゃないの?」
「ちげーよ! 文屋に電話するような時間もなかったしな。それよりおまえ、ちゃんと報告書書けよ? せっかく警部がいい気分になってんだから、今のうちに借金全部返しとけ」
「えー、めんどくさいなあ。ねえおまるん、晩御飯あたし持ちでいいから代わりに......」
「ヤダ」
「つれないなあ......」
夕暮れのサンペドロ通りを署に向かって、ビュイックの捜査用車が走っていく。
1番街で帰宅ラッシュの渋滞にはまって身動きが取れなくなるまで、あと3分。
A Slip of the Tongue -Case Closed-