H.L. Noire   作:Marshal. K

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The Red Lipstick Murder #3

 

 

 バンバ・クラブはスペイン風を模した店構えをしていた。テラコッタっぽい丸い屋根瓦に淡い黄土色の漆喰。ミオがナッシュを乗り入れた駐車場には、椰子の木が何本か植えられている。

 もっとも、裏に回ったら大したことはなさそうだ。屋根瓦は明らかに、通りに面した部分にしか葺かれていない。

 

「どうもお嬢さん方、何を注文されますか?」

 

 店に入ると、右手のバーカウンターから若いバーテンが声をかけてきた。

 

「オオカミとシラカミ、それとギャロウェイ。ロス市警(LAPD)です」

 

 ミオが警察官(バッジ)と証票をカウンターの上に置いて続ける。

 

「昨晩もここで働いてましたか」

「ええ。何をお聞きになりたいんですか、お巡りさん?」

「まずはお名前から」

「ギャレット・メイソン」

「メイソンさん、あなたはいつも夜のシフトに入ってるんですか」

「私は臨時雇いなんです。派遣会社に勤めてまして、街中の飲み屋(バー)でシフトに入るんですよ」

 

 私はミオの後ろでメモを取っていたけど、ラスティは緑っぽい安物の葉巻を吹かしながらそこらをうろついている。

 

「昨晩ここに来た女性を覚えてますか?」

 

 ミオが質問を続ける。

 

「身長5フィート7インチ、体重110ポンドくらいで、金髪で、40代の......」

「セリーン・ヘンリーのことですかね?」

「......」

「ええ」

 

 ミオが一瞬答えに窮したのを見て、私が横合いから口を挟んだ。とりあえず、その人だということにして話を聞いた方が良さそうだ。

 

「彼女の事を教えてもらいたいんですが」

「私じゃなくてオーナーのマッコールさんに話を聞いた方が良さそうですね。大抵は彼が自分で担当しますから」

「じゃあそうします」

 

 ミオが調子を取り戻して言った。

 

「彼はどこに?」

「奥の席にいます。ハイビスカスを胸に刺してるんで――」

 

 バーテンは可笑しそうに笑って続けた。

 

「――すぐわかると思いますよ。他に何か?」

「ライを三本指(トリプル)でくれ」

 

 ラスティがバーテンに注文――三本指(トリプル)だって?――してから、私たちに向かって言った。

 

「俺はここで一杯ひっかけてるから、オーナーにはお前たちで話を聞いてきな」

 

 

 

 

 

 店の一番奥にあるテーブル席に、白い背広の胸にハイビスカスの花を刺した壮年の男性がこちらに向かって座っていた。あれがマッコールさんだろう。確かにわかりやすい。

 

「オーナーのマッコールさんですか?」

「ああ、そうだが?」

 

 マッコールさんが怪訝そうな顔でこちらを見た。

 

「オオカミとシラカミ、ロス市警(LAPD)です。セリーン・ヘンリーさんの殺害事件を捜査してるんですが、彼女のことをご存知ですか?」

「セリーンが?......なんてことだ。ああ、確かに知っているよ」

 

 マッコールさんが手で促したのに答えて、ミオが向かいの椅子に腰かける。

 私はその斜め後ろに立ったままメモを帳を開いた。

 

「彼女と私とジェイコブ――彼女の旦那だが――は付き合いが長くてね」

「彼女は昨晩ここに来たんですよね?」

「ああ。彼女は常連でね、可愛らしい女性だよ......いや、だった、と言うべきなのかな」

「誰かと一緒でしたか、昨晩は」

「いいや一人だった、初めは。もうすでに随分ひっかけてるようだったが」

「初めは。つまり途中からは連れができたんですね?」

「そのようだった。男性客の何人かが彼女と彼女の話に夢中になっていて、一人は特にぞっこんだったみたいだ」

「その人を知ってますか?」

「いや、あまり見ない顔でね」

「二人で一緒に帰ったんですか?」

「ああ。11時ごろだったと思う。そうだ、彼の自動車の登録番号を控えてるよ」

 

 私は横から口を挟んだ。

 

「見せてもらえますか」

「もちろん」

 

 二つ折りにされた紙を受け取って広げる。クラブの注文票で、"2B 8899"とだけ書かれていた。

 メモを取って、注文票をオーナーに返しながら言った。

 

「ありがとうございます。大きな手掛かりになりそうです」

「質問を続けていいですか」

 

 マッコールさんが注文票を畳んでポケットにしまうと、ミオが聴取を再開した。

 

「ヘンリーさんは指輪をしていたようで、それが外されてしまっているんですが、左手の中指なんです。つまり結婚指輪じゃない。その指輪について、なにか知ってますか」

「セリーンはいつも赤いガーネットの指輪をしてたよ。特大サイズのやつでね。とっても目立つんだ、彼女自身みたいに」

「昔から持ってたんですか?」

「ああ。彼女が飛んでた時から」

「飛んでた時?」

 

 しまった、つい疑問をそのまま口に出しちゃった。

 テンポを崩されたミオが一瞬身じろぎをする。

 

「ああ、彼女はパイロットだったんだ」

「そうですか。ごめんミオ、続けて」

「......その指輪ですが、旦那さんが買ったものですか?」

 

 咳払いをしてからミオが質問に戻る。

 

「いや、それは......ジェイコブの、あー、前のやつが買ったんだ」

「彼女と付き合いが長かったと、そう言ってましたね」

「あ?......ああ」

「あなたじゃないんですか?」

 

 マッコールさんは黙った。落ち着かない様子で辺りを見回して、なんとか言い逃れを考えているように見えたけど、結局観念したように溜め息を吐いて話しだした。

 

「......わかった、そうだよ私が買ったんだ、数年前に。その頃彼女に惚れててね。たぶん、前からずっとそうだったんだろうが。彼女の前の男は指輪のことなんか知りもしないだろうよ」

「なるほど。最後に旦那さんのことを伺ってもいいですか。彼とも長い付き合いだと言ってましたね?」

「ああもちろん。彼は海兵隊にいたんだ。セリーンとは帰休中に出会った。で、戦争が終わってすぐに結婚したんだ。それ以来、彼の忍耐の日々が始まったわけだが」

「彼が、自分の奥さんを殺したと思いますか?」

「......いや、いやいや、違うと思うよ」

「じゃあ違うとしましょう」

 

 再び私は横合いから口を挟んだ。相手が挙動不審な時、問い詰めるのはミオの役目だけど煽って怒らせるのは主に白上の役目だ。そう決めたわけじゃないんだけど、なんかいつのまにかそんな風になっていた。

 

「その場合、あなたは彼女を殺人犯と一緒に送り出したことになりますけど。さて、今どんな気持ちですか?」

「そう急くなよ。私はジェイコブを呼ぼうとしたんだ。電話して、いつもみたいに迎えに来てくれと頼んだ。でも断られたんだ」

 

 マッコールさんは首を振ると、私の方に向けていた体をミオの方に戻して話をつづけた。

 

「彼女はよく酔いつぶれて迎えが必要になるもんだから、そのたびにジェイコブは激怒してたんだよ。11時半ごろにもう一回かけたんだが、もう誰も出なかったんだ」

 

 私がメモを取り終わるまでの間、ミオはじっとマッコールさんの目を見つめていた。

 メモ帳を閉じると、席を立ちながらマッコールさんにおいとまを告げた。

 

「ご協力ありがとうございました、マッコールさん。最後にもう一ついいですか? セリーンの住所をご存知ならウチたちに教えてほしいんですけど」

「北ユニオン通り142番地だ」

 

 マッコールさんはそう答えると、俯いて悲痛な声で言った。

 

「思えば住所を知っているんだから、タクシーを呼んで彼女を送らせることもできたんだ。あの時そうしていればセリーンは......」

 

 

 

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