H.L. Noire   作:Marshal. K

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2021/12/03追記:サブタイ間違ってました、すんません!


The Red Lipstick Murder #4

 

「ギャロウェイ刑事、そろそろ行きますよ」

「なんだよ、そう急かすな。ようやくエンジンがかかってきたところなんだ」

 

 消沈したマッコールさんにかける言葉もなく、ウチたちはバーカウンターのところまで戻ってきた。バーテンは給仕のためか持ち場を離れている。

 

「ミオ、白上さっきのナンバー調べてくるから、ラスティのことお願いね」

「おいちょっとフブキ!?」

 

 なんとフブキはウチに呑兵衛を押し付けると、すたすた公衆電話コーナーまで歩いて行ってしまった。

 しかたなくウチはスツールに浅く腰かけると、バーボンをちびちび――といってももう半分近く無くなっていたけど――やっている指導役に声をかけた。

 

「ギャロウェイ刑事、フブキが戻ってくるまでに終わらせてくれませんか。できればイグザミナーやデイリーニューズよりも先に被害者の身元を突き止めたいんですけど」

「突き止めたんじゃないのか。オーナーに話を聞いてきたんだろ?」

「まだ候補ってだけです。いま解剖台に乗っているのは実はセリーン・ヘンリーじゃなくて、さっきのバーテン――メイソンさん――が勘違いしたってだけかもしれませんからね」

「やれやれ、わかったよ」

 

 ギャロウェイ刑事は大きなため息を吐いてそう言うと、残りのウイスキーを一気に飲み干した。目をつぶって衝撃に耐えると、満足そうに息を漏らした。

 

「ふぅ......じゃあ俺は自動車で待ってるからな」

 

 そういってスツールを下りたところにちょうどフブキが戻ってきた。

 

「照会が混んでてKGPL経由になるって......終わりました?」

「ああ、おかげさまでな。で、次は?」

「推定、被害者の自宅です」

 

 念のためにギャロウェイ刑事を先に立てて店から出た。

 

「オーナーによると、昨日真夜中前に電話したときには誰も出なかったらしいですけど」

「それはそれは」

 

 

 

 

 

 現場にほど近いユニオン通りにあるその家は、バンバ・クラブ以上にひどいスペイン様式のまがいものだった。

 平屋建てで屋根瓦はすっかり日焼けして白っぽくなってしまっている。壁の漆喰はあちこち剥がれているし、色が落ちてピンクっぽくなった窓枠はかえってドギツさを増していた。全体からお金の無さがにじみ出ている。

 フブキがドアを叩いたけど、いつまでたっても応答はない。

 

「ヘンリーさん、いらっしゃいますか?」

 

 声をかけても応答どころか、家の中からは物音一つしなかった。

 ギャロウェイ刑事は窓から家の中を覗いていたけど、裏口を見てくると言って、横手へと歩き去った。

 

「お仕事に行ってるのかな」

「それはないんじゃないかな」

 

 独り言みたいなものだったけど、フブキに即否定された。

 

「ねえミオ、白上が昨晩帰ってこなかったとして、翌日平気で出勤できる?」

「ちょっとまって、なんでウチとフブキが同棲してる前提なの!?」

「いいから、とにかくその前提で出勤できる?」

「......できないかなあ」

「だよね。まあ心当たりを探し回ってるのかもしれないけど。それと、解剖台に乗ってるのがセリーン・ヘンリー以外の誰かなら、彼女がドアを開けてるはずだしね」

「じゃあ午後とかに出直して――」

 

 そう言い差したところで裏からバァンと激しい音が響いた。ドアを蹴破ったような、そんな感じの音だ。

 慌てて窓から中に目を戻すと、ギャロウェイ刑事が勝手口から台所(キッチン)に入っていくのが見えた。拳銃を構えている。

 そのまま台所(キッチン)内を見回してから、拳銃をしまって玄関の方に歩いてきた。

 

空き巣(ノビ)の先客があったようだ。裏の窓がこじ開けられていた」

 

 玄関から入ってすぐの居間(リビング)はひどく荒らされていた。入り口の足元にはLPレコードのジャケットと新聞が散乱している。

 この分だと、他の部屋のもそんな感じだろう。

 

「捜索を手伝え。広さは大したこと無いが、いかんせんこの散らかりようじゃあ......」

「じゃあウチはここをやります」

「白上は台所(キッチン)から始めますか」

 

 

 

 

 

 二十分後、ウチは手ぶらで話し合いに参加していた。居間(リビング)と、居間に隣接した食事室(ダイニング・ルーム)には大したものはなかったんだ。

 ウチのせいじゃない、にしてもなんていうか気まずい......

 

「寝室にティファニーの指輪入れがあった。空だったから、持ち去られた指輪を入れてたものだろう。それと昔の写真もあったぞ。アメリア・イアハートみたいな恰好をして――」

 

 ギャロウェイ刑事はさも可笑しそうに笑って続けた。

 

「――飛行機の操縦席(コックピット)に座ってるやつだ。確かにドデカい指輪をつけてたよ」

「冷蔵庫にメモが貼ってありました」

 

 今度はフブキがメモ用紙を一枚、テーブルの真ん中に置いた。

 

――酔いが醒めたら連絡してくれ。ハントリー通り1050番地の2号室にいる。

  電話はミシガン局(MI)の2221番だ。

  ジェイコブ――

 

「住所と電話番号は控えたので、これは後で冷蔵庫に戻しておきます」

「そのほうがよさそうだな。あとで盗犯課と鑑識課に通報して、ここのごちゃごちゃは任せちまおう」

「ミオは?」

「こっちはなんにもなし。強いて言えば、奥さんの靴のサイズは婦人用の9(26センチ)みたいです」

「9か。平均より大きめ、かな?」

「フブキ、無理して拾ってくれなくていいから......」

「まあ家じゅうこんなんじゃな。旦那が何か知ってることに期待しようや。俺は旦那がホシだと睨んでるがね」

 

 なんか、ギャロウェイ刑事にまでフォローされてる気がする。気まずい。マジで気まずい。

 

「ん?」

 

 フブキが耳を動かして声を上げた。

 ウチにも聞こえた。隣の家に自動車が入ってくる音がしたんだ。

 

「お隣さんが帰ってきたみたいですね」

「ウチが話を聞いてきます!」

 

 勢いよく立ち上がってそう言うと、ギャロウェイ刑事が若干気圧されたように身を引いた。

 

「お、おう。じゃあ任せた」

「じゃあ白上はKGPLに電話して、盗犯課と鑑識課を呼んできます。ついでに照会の件が来てないか確かめときたいので」

 

 フブキがギャロウェイ刑事にそう言っているのを背後に聞きながら、ウチは勝手口から裏庭に出た。

 

 

 

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