「交換台です。ご用件をどうぞ」
「警察です。KGPLに繋いでください」
「お繋ぎします」
交換手がKGPLを呼び出す間、耳の向きをちょっと調整して居間から聞こえるミオとラスティの会話をこっそり聞いた。
"お前、なんでこの
"すみません。でもあれだけ言うもんですから、てっきり反撃を予想してたものと......"
「受令台です」
ミオのぬけぬけとした物言いを聞きながら笑いをかみ殺していたら、右耳に婦人指令員の声が入ってきて現実に引き戻された。
「シラカミ。
「用件をどうぞ」
「
「了解しました、中央署から
「あります。白上宛ての伝言は届いていませんか?」
いいかげん
「少々お待ちください......三件あります。読み上げますか?」
三件。それはちょっと予想外だ。その中に照会結果があるといいんだけど。
「お願いします」
「一件目はDMVからです。登録番号、2-
「了解。次をお願いします」
「......二件目はカラザース検屍官からです。今朝発見された撲殺体の剖検が終わったので連絡が欲しいとのことです。今、検屍官に繋ぎますか?」
「お願いします」
「少々お待ちください」
交換手電話機のダイアル音とその後に続く呼出信号の音を聞きながら、私は少し考え事をした。
証拠はどう見てもジェイコブを実行犯だと言ってない。となると、このアロンツォ・メンデズなる人物ががぜん怪しくなってくる。といって、メンデズ氏が件の"
とにかくここが終わったら次はメンデズだな、と思ったところでマルが受話器を持ち上げる音がした。
「カラザースだ」
「白上です」
「ああ刑事、先ほど剖検が終わったところだ。まず頭部のいくつかの挫創だが、金属製の鈍器によるものだ。最も近いものはソケットレンチ・ハンドルだった」
「じゃあ凶器はソケットレンチ......」
「違う」
私の発言をマルは短く遮った。
「鈍器による挫創は驚いたことに致命傷ではなかった。死因は失血、及び肋骨骨折と踏みつけによる外傷から来るショックと見られる」
失血死、及びショック死か。つまりソケットレンチで散々殴って血を失わせておいてから、踏み付けてとどめを刺した。残虐だ。犯人は人でなしだ。
「わかった。他に何か?」
「その......性的暴行の痕跡もあった」
金属的な電話越しの声なのに、マルの声には何とも言えないばつの悪さがはっきりと表れていて、深刻な話をしているというのに笑いだしそうになっちゃった。
彼のこんな声が聞けるのは婦人警官の特権だろう。この方での専門家、マルコム・カラザース検屍官が男性の警官相手にこういう声で性的暴行の話をするとは思えない。
そんな他愛無いことを考えている間にも、マルがきまり悪い声で報告を続けていた。
「肛門の粘膜組織には
挫滅創ということは、痣になっていたということだ。つまり性的暴行は生前に行われたことになる。犯人人でなし説にもう一票。
しかも精液の痕跡がない上に1/8インチ程度なら、戯れにソケットレンチの柄を突っ込んだとか、そんな感じの可能性もある。
「わかりました。ありがとうございます、マル」
「ああ......」
マルは最後まで居心地悪そうな声で受話器を置いた。
「受令台、まだ聞いてますか?」
「聞いてます」
指令員の声にも若干面白がっているような気配があった、気がする。私の気のせいかもしれないけど。
「三件目をお願いします」
「......三件目はドネリー警部からです。全ての被疑者を中央署に勾引するように、直ちに尋問の準備を行う、とのことです」
「了解しました」
「伝言は以上です。他にご用件は?」
「ありません。ありがとうございました」
「長電話だったな?」
居間に戻るとラスティが憮然として言った。一方ミオの方はすました顔をして立っている。どうやら今のラスティは被疑者から殴られたうえに新人刑事に言いくるめられて面白くないようだ。
笑い出したい衝動を何とかこらえて、ミオばりのすまし顔で報告する。
「警部から、被疑者は全員中央署に勾引せよって伝言です」
「そうか。でもそれだけにあんな時間がかかるわけないだろ」
「それとDMVから照会結果が。バンバ・クラブからセリーンを連れ帰った男の住所がわかりました」
「なるほどな。ようしジェイコブ、お前を中央署に移送する」
玄関から看守係の巡査が入ってくると、ラスティはジェイコブに向き直って言った。
「お前の調べは他の被疑者を全員しょっ引いてから始めることにする。せいぜい留置場での滞在を楽しむんだな」