「シシロ。
「用件をどうぞ」
あたしは捜査用車のすぐ横にある
「"デューイ・ブラザーズ"に該当するお店はありますか? 自動車販売店か、整備店と思料されます」
「少々お待ちください」
受話器の向こうで帳簿をめくる音が響く。ひょいっとおまるんの方に目をやると、手帳をうっちゃって目を閉じていた。まだ眠いんかな。
「......デューイ
R&Iが該当するお店を見つけたらしく、受話器を持ち上げて喋りはじめた。
「住所はフィグエロア通り629番地です」
「了解。それと、この電話を外線に繋げますか?」
「受令台からでしたら」
「わかりました」
「......受令台です」
「シシロ、交通課。
「お繋ぎします」
交換手電話機のダイアル音に続いて、呼出信号の断続的なビープ音が響いた。
「......はい、もしもし?」
電話に出たのは女性の声だった。ジョンさんではなさそうだ。
「
「いま学校にいますけど......その、お巡りさん? うちの子に何かあったんですか?」
「......お子さんはおいくつなんですか?」
言いようのないむかつきが胸に広がるのを我慢しながら、あたしはなんとか質問を絞り出した。
「16になったばかりです」
「人違いのようです、奥さん。ご心配をおかけしました」
相手が受話器を置くのを待ってから、ふーっと大きなため息をついた。まいったな、そっちはちょっと......想定外だった。
「......シシロ刑事?」
受話器の向こうから受令台指令員の声が聞こえてきた。小さく咳払いをして聞き返す。
「なんですか」
「あなた宛ての伝言が一件あります。読み上げますか?」
「お願いします」
「......4ドアのパッカード、登録番号
「了解。そのヴァルテツさんを勾引できますか?」
「彼はすでに中央署にいます。彼はその、本人の言を借りれば"
偉ぶった言い回しをするやつだ。もっとも、総領事は確か大使とか公使と同格扱いだったはず。それなら、普段はアルゼンチンの王様だか大統領だか並の扱いを受けてるんだろう。尊大になるのもうなずけないではない。
「了解。レアリー警部に伝言願います、手が空き次第帰庁します、と」
「了解しました、警部に通報します。他に用件は?」
「以上です。ありがとうございました」
「16?」
捜査用車に戻っておまるんに照会電話の顛末を知らせると、おまるんはオウム返しに聞き返してきた。
「そ。今、学校に行ってるんだって。お母さんには余計な心配をかけちゃったな」
「そうじゃなくてな」
おまるんが例の手帳を取り出して、まるで汚物か何かを取り扱うかのように二本指でつまんだ。
「この手帳に書いてある名前は全部男のもんだ。しかもなんか気色の悪いコメントまでついてる。まあ確かに男色は刑法犯といっても、
おまるんは最後まで言いきれなかった。ぶるっと体を震わせて、耳をぺたんと垂らして黙り込んだ。冗談抜きで気分が悪そうだ。
「大丈夫? 路肩に寄せようか?」
「いや......いや、大丈夫。でも悪い、またちょっと眠るわ。デューイに着いたら......」
「起こすよ」
「頼む」
おまるんは帽子を顔の上に載せて、一見眠っているような体勢を取った。その実眠っちゃいないことはあたしにも丸わかりだったけど。帽子の下でおまるんが何を考えているのかは推測するしかない。
けど、一つ確かなことがある。この小児同性愛のクズ総領事は、まさに総領事という地位があるからこの件で処罰されることは絶対にない。
小児性愛かつ同性愛なんて、
「おまるん、一つ言っとくけど」
返事をしないおまるんに一方的に言葉を投げる。
「この総領事がどんな野郎でも、そいつの自動車を盗っていいって法は無いからね。あたしたちは自分の仕事をする、それだけだよ」
「......わかってるよ」
帽子の下から、おまるんが唸るように返した。
「さもなきゃ、あたしたち警官はみんな失職だからな」