H.L. Noire   作:Marshal. K

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The Consul's Car #4 ~Interval~

 

 

「んああ、おっしゃらないで」

 

 獅白と二人でデューイ兄弟(ブラザーズ)パッカード販売店(ディーラーシップ)の展示場に入ると、店舗のドアを押し開けて出てきた恰幅のいい男が言った。

 

「新型の4ドア・モデルが通り過ぎるたびに目を奪われて、ついに我慢できなくなったのでしょう? ええ、勿論ここでご試乗になれますし、近くでじっくり見ていただくこともできますよ! どうぞご自由に!」

 

 正直言って、今のあたしはひどく気が滅入っている。そこにこの突き抜けんばかりに陽気なおっちゃんと来た。頭が万力か何かで締め上げられてるみたいに痛んでいる。

 あいつだ、前に盗難車と偽造登録済証を追っかけてた時に会った、ひょうきんな中古車ディーラーを彷彿とさせるんだ。自動車屋ってのはみんなこんな風に、いっそ不気味なまでに陽気なのか?

 あたしの様子を眺めてにやにや笑いを浮かべていた獅白を睨みつけると、警察官(バッジ)を出して満面の笑みを浮かべているおっちゃんの顔面に突き付けた。

 

ロス市警(LAPD)。オーナーは誰ですか?」

「私です。経営者のウィリアム・デューイに何なりとお申し付けください!」

 

 おっちゃんは宮廷道化師のように大げさにお辞儀をした。なんか聞いたことあるセリフだな。

 

「ポルカたちはアルゼンチン総領事館のパッカードが盗まれた件について捜査してるんです、デューイさん」

 

 デューイの表情を注意深く見守りながら続ける。

 

「最近コンビネーション・レンチを紛失したりしませんでした?」

「さて、わかりませんね刑事さん」

 

 左手を店舗とは別の建物――たぶん作業場だ――の方に振って続けた。

 

「私どもの道具はあっちに纏めておくことにしてるんで、どうぞご覧になってください」

 

 

 

 

 

「おまるんあったぞ、コンビネーション・レンチだ」

 

 営業時間中だからなのか元々そうなのか、散らかり気味の作業場を探し回ると、コンビネーション・レンチがかけられたコルク・ボードを獅白が見つけた。

 

「工員ごとに色分けしてんのか......獅白、現場のレンチのテープって赤だったよな?」

「確かね」

「とするとこいつのか。ガブリエル・デル・ガド......手帳に名前があったな」

 

 喉にせり上がってくる何かを無視して続ける。

 

「確か......"天使のような顔立ち、だけど短気"」

「おまるん、あんまり無理すんなよ?」

 

 獅白の方に目をやると、明らかに心配している目つきをしていた。

 

「大丈夫、自分の仕事してるだけだよ。でも......」

「でも?」

「ありがとな、心配してくれて」

「ん......」

 

 珍しいな、普段ならポルカがこんな素直な態度を取ったら茶化してくるもんなのに。なんだかんだ獅白も結構参ってるのかもしれない。

 

「さて、どうやら取引先の自動車を盗んだらしいこの大天使について、デューイから何か引き出しに行くか」

「いいけど、大丈夫なのおまるん? ああいうタイプ苦手なんじゃ......」

「クームズ爺さんほどひょうきんじゃなさそうだから大丈夫だろ」

 

 

 

 

 

「やあ、どうもお嬢さん方、どうでしたかな、収穫はありましたか? その、よろしければ市警の収入範囲に見合うお車を見繕って差し上げますよ! このターコイズの46年式ツードアなどいかがでしょう? 中古ですが新品同然で......」

 

 前言撤回。この機関銃みたいな売り口上(セールストーク)は、充分あたしの頭を爆発させる威力がある。

 口上を無理矢理遮って言った。

 

「よろしければ! いくつか質問をしたいんですが」

 

 相手の返事を待たずに質問をぶつける。

 

「パッカードは確かに高級な自動車ですよね。それでもこんな場所は、高位外交官が好むような場所じゃないと思うんですけど」

 

 いかにも俗っぽい展示場を顎でしゃくってから続けた。

 

「ヴァルテツとはどう知り合ったんです?」

「ヴァルテツのことは知りませんな。自動車は総領事館が買ったもんです。思うに、彼は一目見るだけでいい自動車がわかるような目を持ってるんじゃないかな」

「そうですか。ポルカにも一目であんたが不誠実だってわかりましたよ」

 

 腰に手を当てて、挑むような視線を向ける。

 

「刑事だからそういう目がある......ってわけじゃなく、ヴァルテツの手帳にあんたの名前と連絡先がありましてね。クリフォード局(CL)の2200番ってご自宅ですか?」

「わかった......酒場(バー)でヴァルテツに会ったよ。ちょっとした契約を結んで、ヴァルテツは総領事館の金で自動車を手に入れた。こういう取引は裏で何度かしていてね、よくあることなんだ」

 

 言い訳がましく言ったけど、その態度はひどくおどおどしていた。よくあることにしたって、れっきとした横領の片棒を担いだ意識はあるらしい。

 多少は安心させてやるか。

 

「ポルカたちは交通課なんで、横領に興味はありません。総領事館の金はそもそも市警の管轄外ですし」

 

 明らかにほっとした様子のデューイに質問を続ける。

 

「それより昨晩、件のパッカードから部品取りをするのに使われたのは、おたくの工具でした。現場でメキシコ人が数人目撃されています。ポルカたちにとっちゃこっちの方がずっと興味深いんですけど、あなたはいかがです?」

「そういう窃盗にはこっちもたくさん遭ってる。この店舗でな。あの罰当たりな盗人どもは、ちょっと目を離しただけで盗れるものは手当たり次第に盗って行っちまうんだ」

「つまり、その工具も盗品だと?」

「ああ」

「手あたり次第って言う割には、作業場から無くなってたレンチは一本だけでしたけど?」

 

 ちゃんと数えたわけじゃない。でも作業場に散らかってたレンチの本数からして、なにか無くなってるとしたら現場にあったレンチ一本だけみたいだ。

 

「現場にあったレンチには"デューイ・ブラザーズ備品"ってちゃんと書いてありますからね、治安判事から楽勝で捜索令状を取れますよ。大規模なガサ入れを受けて、連邦当局の注意を引きたくはないんでしょ? 具体的には移民帰化局(INS)あたりとか」

「ああそうだよ、うちはたくさん不法就労のやつを雇ってるさ。復員(GI)を雇うより安上がりなんだ、連中ほど生意気じゃないしな。欠点は、手癖が悪い事だ」

「じゃあその手癖が悪いやつについて伺います。デル・ガドってやつはどこに?」

 

 デューイはぐるっと目を回して言った。

 

「さあてね。ここじゃないのは確かだが」

「住所は?」

「ヒル通り103番地の3号室、だったと思う。デル・ガドがやったんだな?」

「彼のレンチが現場に」

「じゃあやつに伝えてくれ。次に顔を合わせたら、そのケツをあの世まで蹴り飛ばしてやるってな!」

「覚えてたらね。ご協力ありがとうございました、デューイさん」

「そりゃどうも。まったく、クソガキ一人のせいでとんだ疑いをかけられた。私は実直な自動車売りだというのに......」

 

 ポルカは呆れた視線を向けるにとどめたけど、聴取中ずっと黙っていた獅白は嘆き悲しむデューイに感想を述べた。

 

「映画俳優に転向されては? 天職だと思いますけどね」

 

 

 

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