「んふふ、美味しいね、ミオ」
「フブキ......」
にこにこ笑うフブキに言う。
「一応勤務時間中だからね、今」
ウチらはヒル通りと8番街の角にパトカーを駐め、コーヒー・スタンドで買ったアイスクリームをなめていた。
サボりではない。
確かに服務規定には
それに、と道の向かいに目をやる。
そちらにもパトカーが駐まっていて、中央署のツィンマーマン巡査とカプラン巡査が、アイスコーヒー片手に露店で買ったらしいドーナツをパクついている。
要するに、みんなやっていることだ。
とはいえ――
「こらフブキ、そんなだらしない笑顔浮かべないの」
デレデレとした笑顔を浮かべる相勤を窘める。
「仕方ないじゃん。二人で日曜の街をドライブして、アイスを食べる。これをデートと言わずしてなんと言おう!」
「いや仕事だから」
ぴしゃりと返して、フブキがこうも浮かれポンチなのは夏だからかな、と空を仰ぐ。制帽は直射日光を遮って頭を守ってくれているけど、濃紺かつ長袖の制服は余すことなく陽光を吸収してうだるように暑い。
こうしてアイスでも食べなきゃやっていけないのだ。パトカーに乗って
交差点では交通巡査が
そんなことを考えていると、
「うひゃあ!?」
唐突に手をなめられて飛び上がってしまった。
「ちょっ、フブキ!」
「だって、ミオのアイス溶けてたし」
それに、とフブキが付け加える。
「デート中にほかの男見てるミオが悪いんですよーだ」
「いや白上さん」
呆れた目で返した。
「今、仕事中」
「うえぇ~~、暑い......」
パトカーの助手席でフブキがぐったりとしている。
「暑いっていうから暑く思えるんでしょうが」
そう言い返しはするけど、正直ウチも暑くて仕方ない。
ヒル通りの渋滞にすっぽりハマったパトカーの中にはそよとも風が吹かず、熱気と排気ガスの臭いだけが循環している。
フブキが不服そうに天井を見上げて言った。
「なんでパトカーの屋根を黒く塗ったんだろう。こんな夏の日には車内が熱くて仕方ないっていうのに」
「そうだねえ。そういえば保安局の自動車は屋根白くなかった?」
「ホント? 夏だけ副保安官に転職しようかな......」
本気なのか冗談なのかわからない口調でフブキが言う。
「副保安官になってもねフブキ、勤務先は十中八九、蒸し暑い
「それも嫌だぁ~......」
そんな益体もない会話をしていると、
「あ」
「んえ?」
一台の自動車が5番街の東側からヒル通りに曲がってきた。交通巡査の手信号を無視し、歩行者を危うく轢き倒しそうになるのも構わず右折して、ヒル通りを北に驀進していく。
「フブキ、赤灯とサイレン」
「ほいほい」
フブキが赤色
それでも、交通巡査に睨みつけられ、一台、また一台と路肩に寄っていく。
充分に道が空いたとみるやウチはアクセルを踏み込み、ガタのきているV8エンジンに雄叫びとも悲鳴ともつかない声を上げさせて急加速する。
「田舎の人かな」
路面電車を避けるウチの、荒っぽいハンドル捌きにちょっと黙ってから、
「あんなドギツい色に自動車を塗るのは」
と、フブキが言う。
舌噛むよ、と返しつつウチも心の中で同意して、あるいはビバリーヒルズあたりのいかれた金持ちかもね、とも思った。
3番街と2番街の間まで来てようやくはしたないピンク色のマーキュリーに追いつき、路肩に停めさせることに成功した。
窓を叩いて運転手に窓を下げさせると、彼が喫っている煙草の煙が一気に流れだし、ウチは顔を顰める。獣人、特にイヌ系の獣人は煙草と相容れない体質が多くて、ウチも従軍中にだいぶ慣れたとはいえ得意とは言えない。
でも顔を顰めた理由はそこではなくて、ウチの鼻が、この煙はカナビス葉の煙だと言った事にある。
つまり大麻煙草だ。助手席側に立つフブキも同じ意見らしく、顔を顰めて拳銃入れに右手を置いている。
「
"高圧的警察官"の態度を取って言う。素直に差し出された書類を受け取って、
「名前は?」
「あ、あんどるー・ぃえーむす......」
免許証によると、氏名はアンドリュー・ジェイムソン。本人のようだけど、まるで呂律が回っていない。
これでは――
「おい、アンドリュー!」
振り向くと、向かいの歩道から自動車の間を縫って(
フブキが声をかける。
「テイト巡査」
「やあ、シラカミ巡査。アンドリュー、お前またハッパを喫いながら運転したのか」
「えへえへ、えーとじゅんさ、れもこんくれえじゃあ、おんとによっへるたあいえねえさあ」
「まったく、次は
と、テイト巡査は首を振ってウチに言う。
「このいまいましい保安装置を外してくれ、オオカミ巡査。こいつを担ぎ降ろすから」
車内をのぞき込むと、ジェイムソンは競技用の自動車で時折見かける座席ベルトを装着していた。
大麻の臭いがぷんぷんする車内に身体を突っ込んで、
「おい! あにするんら! やめお!」
「黙れ、アンドリュー! 黙ってろったら!」
怒鳴り合いを聞きつつ
ギアの入る音、始動モーターの廻る音が聞こえて、
「おい、この馬鹿! 何を――」
「ミオ! 早く降り――」
高鳴るエンジン音とタイヤの空転する音が二人の声を遮り、ウチの身体がジェイムソンのお腹に押し付けられた。マーキュリーが急加速するのを感じる。
いや、これウチの状況マズくない......?
こんな状況でも、ウチは冷静な思考を保てていた。お腹にあたるナニを引きちぎりたいという、猛烈な衝動を抑え込める程度には。
外の様子は見えないけどマーキュリーは体感で時速40マイルは出ていて、しかもまだ加速中。
そしてそのハンドルを握っているのはジェイムソンなのだ。下手な手出しはできない。
ウチの身の安全もそうだ(怪我をしたら、またフブキを悲しませてしまう)けど、歩行者の群れに突っ込まれたりしたら最悪だ。
そうして様子を窺っているうちに、
ジェイムソンが金切り声を上げて、
とんでもない衝撃に揺さぶられて、
ウチは闇の中に放り出された。