H.L. Noire   作:Marshal. K

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The Consul's Car #6 ~Interval~

 

 

「あー食った食った」

「おまるん大丈夫?」

 

 5番街のオリーブ通りとヒル通りの間にある軽食堂(ダイナー)で遅めのお昼を摂ったあと、あたしたちはデル・ガドの家に向かっていた。

 

「そんなに食べてさ」

「うるせえ。結局あのくそじじいをぶん殴れなかったからな」

 

 やけ食いくらいいいだろ、と言うと、獅白はハンドルを握ったままこっちの方をちらっと見やってから言った。

 

「いや、お財布の方。給料日までまだ一週間あるけど?」

「う......」

「もう独り暮らしじゃないんだからさ、あの娘――ねねちゃんだっけ?――のこともちゃんと考えなよ?」

「わかってらい!......そういうお前の財布はどうなんだよ?」

「あたしはちゃんと収支管理できてますから?」

「うっぜえ~......」

「聞いたのおまるんじゃん」

 

 獅白が冷たく言い放って、ビュイックの捜査用車をオリーブ通りから右折させた。

 デル・ガドの家は官庁街(シビックセンター)の近くにある、中流向けのアパートメントだった。ヒル通りとテンプル通りの角にある、路面電車(トロリー)サークルを見下ろすように建っている。

 2階に上がると、獅白が3号室のドアをどんどん叩いた。

 

「はい、どなた?」

 

 ノックに答えてドアを開けたのは、浅黒い肌に黒髪の女性だった。お腹が膨らんでいる。少なくとも、ポルカみたいに腹いっぱい食べたからってわけじゃなさそうだ。

 ガブリエルの彼女か、はたまた愛人か。

 

ロス市警(LAPD)です。ガブリエル・デル・ガドを捜しているのですが」

「ガブリエルを?」

「警察から来たんです、奥さん。"警察です。おわかりですか(ポリシア。ロ・エンティエンデス)?"」

 

 英語がわからない可能性を考えて、数少ないスペイン語の知識を何とか引っ張り出して聞いてみた。

 

「ええ、わかってます」

 

 奥さんは強いスペイン訛りのある英語で返してきた。杞憂だったらしい。

 

「どうぞ、お入りになって」

「どうも。奥さん、お名前は?」

「アンナ・ロドリゲス」

 

 ロドリゲスさんはスペイン風に、Rをひどく巻いて答えた。まだ奥さんではなかったか。

 

「ガブリエルはいま、家にいます?」

「いいえ。ガブリエルがどうしたんですか、彼に何かあったの?」

「そこで座って、お待ちください。ちょっとお宅の中を見せてもらいます」

「でも、いま私は言ったわよ! 彼はここにいないって!」

「見て回るだけです。おまるん、お願い。あたしはこの人に付き添っとくからさ」

「わかった。すぐに戻りますから、ロドリゲスさん」

 

 

 

 

 

 背後から獅白が、お腹のこどもについて何やら質問してるのを聞きながら、あたしは奥の台所(キッチン)に向かった。

 室内の窓際に朝食用の食卓があって、その上にはまだ片付けられていない食器が二人分乗っていた。シリアルかなにかのおまけがある側には、バラー・タバコの箱と灰皿が置かれている。妊婦さんが喫煙してた、とはちょっと考えにくい。

 同じ側には開封済みの国際郵便(エア・メール)の封筒も置かれていて、それを取って宛名を読む。

 

「ガブリエル・デル・ガド様......じゃあ、少なくとも今朝、ここで朝飯を食ったわけだな」

 

 嘘を吐くなら、彼女はこれを片付けとくべきだった。といっても、あたしたちの訪問を予期してたわけじゃないみたいだから致し方ないともいえる。妊婦さんにそこまで強いるのも酷だ。

 勝手口を押し開けて裏手のテラスに出ると、下の庭に納屋があるのが見えた。階段を降りて表札を見る。

 

「デル・ガド、3号室......倉庫代わりに納屋も借りてるのか」

 

 把手を回すと、施錠されていなかったらしくすんなり回った。

 中には様々な工具や自動車の部品が置かれていた。デューイ・ブラザーズの作業場と雰囲気がそっくりだ。

 

「おっと、ぴかぴかのタイヤがあるな」

 

 入ってすぐの棚にホワイトホイールが二本、立てかけてあった。綺麗に磨き上げられたパッカードのホイールキャップが付いている。

 それに、そのタイヤが立てかけてある棚には、白い文字が書かれた黒い鉄板が二枚。

 

「ライセンス・プレート......DIP-PR-706か。DIPは外交官(ディプロマ)ナンバーだな。PR706はクズ総領事のパッカードのナンバーで間違いなかったはず。まったく、こんなもの盗ってどうすんのかと思ってたけど、お土産のつもりだったんかな」

 

 壁の一面にはカリフォルニア州のライセンス・プレートが沢山並んでいた。デル・ガドがこれだけの自動車遍歴をしたとはちょっと考えにくい。大方、これまで盗んだ自動車から記念品として盗ったんだろう。レアリー警部が小躍りしそうだ。

 

 アパートメントに入って居間の方へ戻る途中、サイドボードの上に写真立てがあるのが目についた。

 

「これはまた......古いフォードだな」

 

 写真はまだ少年と言っていいような男が、旧式のフォードを磨いているところを撮ったものだった。あいにく、この写真じゃ色まではわからない。それでもすでに真っ黒な疑いをさらに黒くする役には立つ。

 居間(リビング)に戻ると、ソファに座ったロドリゲスさんに前に立って、そのまま質問を始めた。あたしは身長も座高もそう高くないから、威圧感を与えるにはこうするしかない。

 

「さて、今あなたはとんでもない面倒ごとに巻き込まれてるんですけど、それはおわかりですか、ロドリゲスさん?」

「でもガブリエルはここにはいないわ! 私、何も間違ったこと言ってない!」

 

 ロドリゲスさんはそう言って、手を振り回した。隠し事があるから身振りが大げさになっているのか、それともヒスパニックだから情熱的なのかはちょっとわかんない。

 それでも前者の可能性を示唆する証拠がいっぱい見つかった以上、彼女には強めに当たることにしよう。善い警官役(グッド・コップ)は、さっきから寄り添ってる獅白に任せる。その必要があるなら、だけど。

 

 

 

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