「さて、じゃあロドリゲスさん、最初の質問です。ガブリエルはなんで自動車を盗んだんですか。アルゼンチン総領事の自動車を?」
おまるんが立ったままロドリゲスさんに聴取を始めるのを、あたしはロドリゲスさんの横に座ったまま聞いていた。相勤の態度を見るに、
座っている位置からして、あたしには
「お客が彼を襲ったからよ。なに、彼は名誉を持っちゃいけないの?」
「名誉ね。ガブリエルは名誉を傷つけられた、と?」
「デューイの友達が彼を娶ろうとしたって、彼抜きでそう決めたって、彼言ってたわ。もうデューイのことが尊敬できなくなったって」
ロドリゲスさんはふーっと溜め息を吐いてちょっと足元に目を落としてから、顔を上げて続けた。
「そいつの自動車を盗んで、自分は男だってことをあの
クズ総領事の証言と概ね合致する。
あいつの気色悪い目の輝きを見るに、ヴァルテツは今なおガブリエルに入れ込んでいる節がある。相当ぞっこんだったんだろう。娶る、なんて発想が出てくるくらいに。
「まあ、名誉が損なわれたのは事実のようですね。じゃあロドリゲスさん、素直に答えてほしいんですけど、ガブリエルはここにいました?」
「いいえ、もう......三晩は見てないわ」
それは大嘘だ。
ちょっと目をあげると、玄関脇の食卓の花瓶にアルゼンチン国旗が差してあるのが目に入る。きっと、あの金属製の旗竿の根っこには、ペンチかなにかで折り取られた痕が残ってるだろう。
おまるんはあたしの視線をついと追って、国旗に目を留めた。あっちは確か、おまるん調べてなかったよね?
「三晩? それは変ですね。じゃあそこの国旗はなんですか?」
おまるんは振り向くと、うんざりだって表情を顔と声の両方に表して言った。
「
なおもきっとした視線をおまるんに向けたまま口をつぐみ続けるロドリゲスさんに、おまるんはどんと足を踏み鳴らして迫った。
「いい加減にしろ! お腹の子と一緒に留置場に入りたいの!? それなら、司法妨害でお望みどおりにしてあげるけど? ああ、それにあの納屋の中のものがあれば、あんたを自動車泥棒の共謀で何年か食らい込ませることもできるな、そうしよっか? アンナ・ロドリゲス、司法妨害と重自動車窃盗の共同謀議で逮捕します。お産は獄中でどうぞ。ほら、とっとと立ちなよ」
「おまるん、ちょっと待って」
助けを求めるようなロドリゲスさんの視線を受けて、あたしは目を剥いてまくしたてるおまるんと、ロドリゲスさんの間に割って入った。
「それはさすがにやりすぎ。あとはあたしが聴いとくから、ちょっと頭冷やしてきたら?」
「......ふーん? ライオンなのにずいぶんお優しいことで。いいよ、じゃあポルカは納屋でライセンス・プレートを記録に控えとくから。それまでにお前がなんにも引きだせなかったら、さっきの逮捕を実行するかんな」
おまるんはそう言い捨ててロドリゲスさんの方にキツイ視線を投げると、さっと踵を返して
さて、こっからは
「すいませんロドリゲスさん、あいつ短気なやつで」
「い、いいえ、大丈夫よ......それよりその、本当にできるの? さっき言ってたようなことが」
「あいつが納屋で何を見たのか、あたしにはわかんないんで何とも言えないんですけど」
難しい顔をして、真剣に考えている風に答える。
「でもあいつが言った通りのものがあるなら、そうできますね」
「......もし、もしよ、もし刑務所の中で産むことになっちゃったら......赤ちゃんはどうなっちゃうの?」
「......気休めを言っても仕方ないんで
色々遠回しな言い方を考えたけど、思いつかなかったって感じを頑張って出す。遠回しな言い方なんて一つも考えちゃいないけど。
「出産したら、あかちゃんはすぐに刑務官が回収します。引き取り手がないならその後は施設送りです」
「そんな......」
「ロドリゲスさん、あたしもそんなことにしたくありません。でもあの相方に何か持ってかないと、あいつは絶対に脅しを実行しますし、そうなったらあたしには止められません。どうか協力してくれませんか」
「......彼は昨晩、遅くに帰ってきたわ」
すっかり涙声になりながら、それでもロドリゲスさんは話し始めた。
「あんなに怒ってるのは初めてだった......外の納屋に何か置きに行ったのは知ってたけど、私は何か知らないし、知りたいとも思わなかったわ」
ロドリゲスさんは一旦そこで切って鼻から大きく息を吸いこむと、胸に手を当てて続けた。
「彼を愛してるもの」
「ありがとうございます......それと、彼がいまどこにいるか教えてもらえますか?」
「彼を捕まえるの?」
「そうなります」
「彼の名誉を汚した男はどうなるの。ガブリエルだけ檻の中でそいつはお咎めなしなんて、許さないわ」
ロドリゲスさんの目にまぎれもない怒りが燃え上がった。正直それはあたしも同感だけど、同時にあたしたちにはどうしようもないってのが事実だ。とはいえ――
「もちろん、あたしたちにできる限りのことをしますよ。約束します」
「約束よ」
ロドリゲスさんの目を強いて真っすぐに覗き込んで、しっかり頷く。
「......今日もレースに出かけてるんだと思うわ。スタート地点は1番とサンタ・フェの角よ。橋の下に川への放水路があって、そこから川沿いに出るの」
そこでふと、ちょっと誇らしい顔になって続けた。
「彼を捕まえようとして、
あなたたちに捕まえられるかしら? って響きがあったけど、そこは無視することにした。捕まえて見せる。それだけの話だ。
「ご協力ありがとうございました、ロドリゲスさん。念押ししておきますけど、嘘はないですよね?」
不審げな顔のロドリゲスさんに、親指で裏の方を指して補足する。
「あいつは怒ると手が付けられないくらい凶暴になるんで。その、あなたが嘘を吐いたってわかったら、さっきの脅しを実行した上で、あたしを喰い殺しちゃうと思うんです。それはちょっとご免なんで......」
「刑事さん、可笑しなこと言うのね? ライオンが猫に食べられるなんて」
ロドリゲスさんがくすくす笑いながら答えた。
「あいつはフェネックですけど、怒るとほんと怖いんで......」
「ええ、嘘はないわ。そのかわり、あなたも約束を守ってよね」
「もちろんです」