H.L. Noire   作:Marshal. K

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The Golden Butterfly

 

 あんまり知られてないことだけど、刑事っていうのは意外と警察署にいる時間が長い。もちろん捜査のために外に出ることも多々あるけれど、そうやって行った捜査活動は逐一報告書にしなきゃいけない。

 捜査報告書の他にも参考人や被疑者の供述調書、経費の請求書、捜査用車の使用履歴などなど、とにかく書くべき書類が山積みなんだ。

 そして今日、珍しく新しい事件を割り振られなかった私たちは、待機もかねて刑事部屋で最近滞りがちだった書類仕事を進めていた。

 

 刑事部屋には他にもちらほら人がいて、私たちみたいに書類相手に頭を抱えている刑事や、参考人を呼んで話を聴いているのや、相勤と捜査方針について議論してるのなどがいて、みんな自分たちの仕事に忙しそうだ。

 私も暇と言うことはなくて、以前の事件の捜査報告書を読み返していた。単純な事件ではあったけど、法廷での証言に少しでも間違いがあったら、そこから公訴棄却まで持っていかれることもないではないから全然気が抜けないんだ。

 

 そうやってほどほどに騒がしい室内の雑音を聞くとはなしに聞きながら報告書のページを繰っていると、電話の電鈴(ベル)が鳴るのが耳に入ってきた。この方向は......

 顔をあげると、私の斜め前にデスクがある相勤が受話器を取るところだった。

 耳の向きを調整して、通話内容を聞き取ろうとする。

 

"はい、大神です"

"......"

"了解、向かいます"

"......"

"もちろんです。ウチの相勤ですから"

 

 ミオがこっちにちらっと目をやった。どうやら、注意を向けてたのがバレてたみたいだ。

 席を立って、ミオの席まで歩いていく。ミオは受話器を置くと、椅子の上で身体を回してこっちに向き直った。

 

「課長かい?」

「そ。全裸の白人女性の遺体が、ヒル通りの外れの野っぱらに捨てられてたんだって」

「それって......」

「現場に行くまで予断は禁物だよ、フブキ」

 

 ぴしっとこっちに人差し指を向けながら、ミオが釘を刺した。おっと、あぶないあぶない。

 

「でもまあ、ウチたちがそう考えるわけだから文屋さんたちもそう考えるみたいで、目下警部はハゲタカを追っ払うのに奮闘中みたいだよ」

 

 席に戻ってハンドバッグを取ると、後ろからついてきたミオに、にやっと笑って言った。

 

「どうも課長は白上たちを、文屋を追い散らすためのエサとして使いたいんじゃないかって気がしてきたよ」

「いいじゃん。おかげでウチたちはロス中の有名人だよ?」

「それはちょっと......白上には恥ずかしいんだけどなあ......」

 

 ミオの方を見やると、ミオはにんまりした笑顔を浮かべていた。このお、恥ずかしがる私を見てそんな満足げな表情を浮かべやがってえ......

 なんとか言い返してやりたかったけど、墓穴を掘りそうな予感がしたのでそれ以上はやめておいた。

 出だしからミオにやり込められるのは癪だ。もう既にやり込められたような形になってはいるけど。

 

 

 

 

 

「なあ諸君、諸君。私も君たちが知っている以上のことは知らんのだよ」

 

 ミオが捜査用車をヒル通りの裏手にある空き地に駐めると、その先にある児童公園――前回の現場によく似た場所だ――の入り口で、ドネリー警部が記者たちに囲まれていた。

 

「検死解剖が終わり次第記者会見を行うから、それを待ってくれ」

 

 自動車を降りてミオと二人で歩いていくと、警部がこちらを目に留めて、記者たちに注意を促した。

 

「この事件には選り抜きの捜査員をあたらせる。新人ながら、性的倒錯魔のアロンツォ・メンデズに正義の鉄槌を下した二人だ」

「警部! それじゃあこの事件とセリーン・ヘンリー殺しに関連があるとお考えなんですね?」

 

 一際声高く質問した記者に、私は見覚えがあった。前の事件の時に、現着するなりラスティにネタを無心したロサンゼルス・イグザミナーの記者だ。

 

「それに、エリザベス・ショートの件にも?」

「つまり、街にはまだイカれた強姦殺人魔が野放しになっているとお考えですね?」

 

 記者たちが矢継ぎ早に警部に質問を浴びせる。こいつら、警部に答えさせる気があるんだろうか?

 そう思ったところで警部が記者の一人の質問を遮る形で、無理矢理発言を始めた。

 

「諸君、諸君。もう少し頭を回したまえ。われわれは世界でも有数の警察組織と優秀な科学捜査官を持っている。いかなる殺人鬼でも逃れ続けることはできない」

 

 そこで言葉を切って、記者の一人一人を指さしながら続けた。

 

「はっきり言っておく。われわれは州立刑務所(サン・クエンティン)カインの息子(ひとごろし)たちのためのガス室を、常に用意している。この天使の街でぬけぬけと生き延びられると思っている、愚か者たちのためにな」

「ああ、そうですな。で、ダリア事件になにか進展は?」

 

 言い終わってさっと記者たちに背を向けた警部に、記者の一人がすかさず質問を投げた。

 警部はもう振り向かずに、首だけ記者たちのほうにむけて言った。

 

「散りたまえ、諸君。彼女たちに、」

 

 私たちの方に手を振って、

 

「仕事をさせてやれ。われわれはここで神に仕える仕事がある。それに遅れは許されないんでな」

 

 脇にいた巡査の一人が、手を広げて記者たちを追い散らし始めた。

 記者たちが充分に離れたとみると、ミオが警部に近づいて聞いた。

 

「警部、ここでなにが?」

「......別の犠牲者が出た。女性だ」

 

 警部は被害者ではなく犠牲者って言い方をした。それはつまり......

 

「詳しくはカラザースに聞け。それと、毎日報告書を出すこと。いいな、お嬢さん方?」

「了解。それと、初動を執ったのは誰ですか?」

「ゴンザレスだ、上の現場にいる。そら、早く行きたまえ」

 

 警部はそう言いながら手を振って、私たちをハゲタカ記者から遠ざけた。

 

「......だってさ。いこっか、フブキ」

「そうだね......まって、ミオ。ゴンザレス巡査が下りてきてる」

「ほんとだ。巡査!」

 

 ミオがゴンザレス巡査に声をかけて、その場で待つように合図した。二人で巡査のところに歩いていく。

 

「ゴンザレス巡査、きみが初動措置を担当したんだよね?」

そうです(イエス・マーム)、刑事」

「よし。すぐに話を聴きたいところだけど......」

 

 ミオは途中で言葉を切ると、再び警部に群がり始めた記者連中の方にちらっと目をやってから続けた。

 

「これ以上ハゲタカに餌をやりたくないから、先にウチたちを現場に案内してくれる?」

「了解。こちらです」

 

 ぎゃあぎゃあと、ハゲタカというよりはカラスみたいな声を上げている記者たちを背後に残して、私とミオはゴンザレス巡査の後について、小高い丘を公園へと登って行った。

 

 

 

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