「受令台です。名前と
「白上、
「用件をどうぞ」
「ベルモント高校の住所をお願いします」
ベルモント高校はミッシェルのダンス教室が催されていた場所だ。推定、被害者が最後に立ち寄った場所でもある。護送係を待っている間にミオから聞いたんだ。
「少々お待ちください......ベルモント
「了解......それと、レイ・ピンカー技師と鑑識専務員を北ボニー・ブレイ通り130番地まで派遣願います」
「了解しました、鑑識課に電話通報します」
「もう一つ、少年院の保護官を同じ住所に派遣願います。勾引した被疑者の娘さんで、女の子です」
「......了解、少年院に要請します。他に?」
「白上に、あるいは大神刑事宛に伝言はありますか?」
「少々お待ちください......シラカミ刑事宛に検屍官から伝言があります。読み上げますか?」
「お願いします」
「"シラカミ刑事、解剖報告の準備ができた。中央
「
「うわっ......どうしたどうした、ミオ」
「いや......やっぱりモラーだったのかと思うとさ、なんか情けをかけた自分がバカみたいに思えてきてさ」
ミオがなんかいつもより荒っぽい運転で、捜査用車をビバリー
私は大きく左に振られて「う゛っ」て声を上げてから、ミオの横顔を見つめて言った。
「ねえミオ、さっきミオが心配してたのって、モラーのことって言うよりは娘さんのことでしょ?」
「そう......だけど」
「そういうミオの優しいところ、白上は好きだなあ」
ガンッと激しくブレーキを踏む音がして、ナッシュがつんのめるように停車した。後続車が抗議の警笛を鳴らして追い抜いていく。
私はちょっと予想していたので、ダッシュ・ボードに手を着いて衝撃を殺した。昔みたいに頭をぶつけたりなんかしないよ。
「......おいフブキィ!」
「なんだよお、本当のことを言ってるだけだよ?」
顔を真っ赤にして怒鳴るミオに、何食わぬ顔をして言い返す。
「ほらほら、早く出さないと迷惑になってるよ?」
「誰のせいだと......」
ミオが再びナッシュを発進させる――ミオも停車直前にクラッチを切って、エンストしないようにしていた。成長してんね――と、その横顔に付け加えて言った。
「普通の刑事なら、あるいは白上ならあそこですぐモラーを逮捕して、それで終わりにしてたよ。子供のことや他のことを思いやれるのは、ミオの――刑事としても、人間としても――いいところだと思うけどね」
「......ありがと、フブキ」
言葉少なだけど、ミオの声はさっきよりずっと落ち着いたものになっていた。
「ところでミオ、どこに向かってるの?」
「
「ああそれ、さっき警電で聞いたよ......あれ」
無線機がカリカリと引っ掻くような音を立て始めた。キューンとハウリング音がしてから、指令員の声が流れだす。
「KGPLから各局、ウェストレイク・ノースで288事案入電中。ウェストレイク・ノース近い局、
私は頭の中の地図をさっと確認した。
ちょうど私たちは今、ウェストレイク・ノースと
それにベルモント高校もウェストレイク・ノースだったはずだ。
私は送話器を取って応答した。
「4キング11です。KGPL、
「4キング11、ベルモント
「4K11了解。ビバリーとルーカスの角から向かいます」
「KGPL了解。以上KGPL」
「......じゃあ目的地変更だね」
私が送話器を置くと、ミオがそう言ってナッシュをルーカス通りに右折させた。
「うん。ついでに被害者の足取りが追えるといいけど」
「あいつかな」
「あいつっぽいね」
ベルモント高校の校門横に捜査用車を駐めて駐車場に歩いて入っていくと、自動車の陰から女の子たちの様子を窺う男の姿が目に入った。
足音を殺して男の背後に忍び寄っていく。
「......失礼、ここで何してるんですか?」
充分近づいてからミオがだしぬけに質問すると、男はパッと振り返った。もともと歪んだ感じの顔を更に歪めて叫ぶように言った。
「そういうあんたらは誰だ?」
「大神と白上、
「......イーライ・ルーニー」
「前歴は?」
「多少」
「"
「知ってるの、ミオ?」
顔を顰めたミオに聞いてみると、ミオはちょっと頷いて答えた。
「うん、ダン巡査から聞いたんだ。ここで何してたんですか、ルーニーさん?」
「別に」
イーライはへらへら笑って返したけど、怒れるミオが一歩踏み出すと、後ずさって自動車にお尻をぶつけた。
「......子供たちを見守るのが好きなんさ」
字面だけ見れば殊勝とも取れる答えだ。気色悪い笑みとともに答えたのでなければ。あるいは、自動車の陰から覗き見ていたのでなければ。
「ずいぶん過保護なんですね?」
「知ったように言うもんじゃないぞ、お嬢ちゃん」
白上は単に感想を述べただけなんだけど、イーライには気に入らなかったらしい。
一方ミオはあくまで静かに質問を続けた。
「昨晩、ある女性が殺害されました。確認できている限り、最後に来たのはここです。それについてなにかご存知ですか」
「さあ、それについちゃ何も知らんね。女性、と言ったな?」
イーライはすっとぼけたかと思えば、妙にぎらぎらする目でミオをねめつけて言った。
「俺はそれよりも若い子が好きなんでね」
イーライはこっちに欲望塗れの視線を一瞬だけ投げた。
あの、たぶんだけど私は君が思ってるほど若くはないよ? 自分が結構童顔なのはわかってるけど。
「ポケットの中身を出してもらいましょうか」
ミオの声がさらに一段低くなった。それを聞いて、私は表に出さないように胸の中でにんまり笑った。私もそうだけどミオも大概独占欲強いからなあ。
「なんだってそんなことしなきゃあがっ!」
ミオが一歩進み出て、見事なアッパーカットをイーライの顎に叩き込んだ。ガギッと前歯がぶつかる――折れたかも――音がして、イーライは半フィートほど飛び上がってからその場に尻もちをついた。
「さてと、じゃあ失礼しまして」
ふーっと鼻から息を吹いて拳をさすっているミオの脇をすり抜けると、私は立ち上がれないでいるイーライの服をまさぐった。
上着の右ポケットに何か、固いものが入っている。引っ張り出すと、見事な金色の蝶のブローチだった。
「ふうん、いいものもってるじゃないですか。イーライ・ルーニー、殺人の疑いで逮捕します。ミオ、護送係を......あれ?」
ちょうど駐車場内にパトカーが一台入ってくるところだった。ドアが開いて、制服巡査が一人降りてくる。
「ミオ、護送車呼んだ?」
「いや、呼んでないけど」
「そう。巡査!」
巡査がこっちに気が付いて、歩み寄ってきた。見覚えがある顔だ。
「君は......えーっと、フーリハン巡査だっけ?」
「
セリーン・ヘンリーの事件で初動を執った巡査だ。
「なんでここに?」
「不審な放置自動車があると、ここの事務局から通報がありまして。ちょうどそこの緑のクーぺです」
フーリハン巡査はそう言って、さっきイーライがお尻をぶつけた緑の40年式シボレー・スペシャルデラックスを指した。
「なるほど。ちなみに所有者は?」
「えー、ディアドラ・モラー夫人です。今朝失踪届が出てます」
ミオと顔を見あわせる。ミオが巡査に目を戻して言った。
「わかった、その放置自動車はウチたちが引き継ぐよ、巡査。代わりにこの変態を、」
背後のイーライを指して、
「中央署に護送してってくれる?」
「了解。"
「そうだよ」
「署に伝えときます。みんなで
そう言って凄みのある笑みを浮かべると、巡査はまだ頭を振っているイーライを無理矢理立たせて、パトカーの方へ引っ立てて行った。