H.L. Noire   作:Marshal. K

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The Silk Stocking Murder #4

 

 

「じゃあ、次は旦那さんのところかな」

 

 下宿屋を出て、短い小径(アプローチ)を路肩の捜査用車のところまで歩いていると、フブキがそう言った。

 

「そうだねえ。疑念の程度はともかく、近親者告知はしないとだし。ところでフブキ、旦那さんの住所は分かってるの?」

「うん、上に離婚代理人からの手紙があって、それに書いてあったよ」

「じゃ、ウチが運転するよ。道案内よろしく」

「いいよ......それより、お節介焼きおばさんだって?」

「だってそうでしょ? 実際、ウチたちはそれで助かるわけだけど」

「ふふふ......いやあ、ミオの悪口なんてめったに聞けるもんじゃないからなあ」

 

 フブキは実に楽しそうに笑いながら助手席に収まって言った。

 

「さてと、じゃあまずはヒル通りに向かうか、1番街の方に行こうか。旦那さんは北ヒル通りに住んでるみたいだからね」

 

 

 

 

 

 北ヒル通り330番地は、結構大きな中流向けアパートメント・ビルだった。一階の街路側には雑貨店と酒屋さんがあって、その間に立派な構えの玄関がある。

 ウチとフブキは、玄関横の郵便受けを手分けして確認した。

 

「......あったよ、フブキ。304号室、A. マルドナード」

「あの手紙の通りだね。じゃ、行こうか」

 

 左右をテナント店舗に挟まれて薄暗く、ちょっと狭く感じる玄関ホール(ホワイエ)を抜けて、階段を3階に上がって行く。

 304号室は街路側の突き当りの部屋だった。こっちは北側だけど、この建物じゃ結構いい方の部屋だな、ここ。

 "304"と書かれた真鍮製のプレートが掲げられているのを確認して、ウチはドアをどんどん叩いた。

 

「......はい?」

 

 

 ごそごそした物音と足音の後、いかにもヒスパニックな丸顔の男が、不安そうにドアを開けた。

 けっこう若い。ウチと同じか、もうちょっと下くらいかな。

 

「大神と白上、ロス市警(LAPD)です。エンジェル・マルドナードさん?」

「ああ......そうだけど」

「お伝えしたいことがあります。奥さんのことで......」

 

 旦那さんは"奥さん"の辺りで、ドアを思いっきり閉めようとした。

 予備動作が大きかったんで、ウチは咄嗟にブーツでドアを蹴り上げる。バァン!と大きな音がして、ドアが跳ね返って、旦那さんが思いっきり顔面をぶつけるのが見えた。

 

「がぁっ!」

「フブキ、任せた!」

「任せて!」

 

 悲鳴を上げて尻もちをついた旦那さんはフブキに任せて、ウチは入って左手の寝室に突入する。

 

ロス市警です(LAPD)、 抵抗はやめろ!」

 

 寝室の中にいた、褐色の肌に丸刈りのいかにもラテン系マッチョって感じの男に呼び掛ける。

 男はウチの呼びかけに応じずに、ファイティング・ポーズをとったままだ。

 

「兄貴を伸しやがったな、この畜生(ベスティア)め!」

「伸したくて伸したんじゃねーよ!」

 

 実際、ドアに顔をぶつけてひっくり返ってくれたのは、嬉しい誤算だった。

 

「このっ!」

 

 男が踏み込んで、強烈な右ストレートを繰りだしてきた。

 ウチはその勢いを利用して一発頭突きをかましてやろうかと思ってたけど、途中で考えを変えた。

 ギリギリのところ――獣人の動体視力なら結構簡単に見極められる――でパンチを避けると、その腕と襟元をつかむ。ブーツの踵で軸足の足首を払う。

 そしてそのまま床にたたきつける......はずだったんだけど、不慣れなことをしちゃったせいか、途中で腕も襟もすっぽ抜けてしまった。

 

「しまった!」

 

 ウチが叫ぶのとほぼ同時に、男は背中から衣裳箪笥(ワードローブ)に激突した。メリメリととんでもない音がして箪笥が崩壊して、男は木片と衣服の中に埋もれて行った。

 

「大丈夫かなぁ、死んでないよね?」

 

 衣裳箪笥(ワードローブ)の残骸をのけてどうにか男を引っ張り出すと、呼吸と出血を確認する。

 

「息は......してる。大した怪我もなさそうだね」

 

 前後不覚の弟、ないし弟分らしい男を手荒く触診してから、ほっと息を吐いた。死なれちゃったら後味悪くなっちゃう。

 手錠をかけた男をとりあえず寝室に放置して、ウチは居間に戻った。

 

「お、ミオ。そっちはどう?」

「伸しといたよ」

 

 フブキはちょうど、手錠をかけたマルドナードをソファに座らせたところだった。

 ウチはフブキからの問いかけには短く返しておいた。小さいころにかじった柔道の技を、うろおぼえでかけようとして失敗したことは黙ってようっと。

 

「さてと、エンジェル・マルドナード、アントニア・マルドナード殺害の疑いで逮捕します」

「アントニアが!?......ああ、そんな......」

 

 正面に座って直截(ストレート)にそう告げると、マルドナードは悲痛な声を上げて立ち上がろうとした。すぐにフブキに両肩を抑えられて、また座らせられたけど。

 

「昨晩はどこにいたんですか、マルドナードさん?」

「......一晩中、弟と一緒にここにいたよ!」

 

 また立ち上がって、ウチの方に寄ってきた。

 ちょうどフブキがKGPLに電話をかけに行った後だったから、ウチは立ちあがると自分でマルドナードを座らせ直す。

 

「なんだよ、俺が自分の妻を殺したって、そう思ってるのか?」

 

 ウチが覗き込んだマルドナードの目は本物のショックと嘆きに包まれているようで、少なくとも、それは演技や嘘のようには見なかった。

 

 

 

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