「さてと、ミオ。私はここの家探しをしようと思うんだけど」
私はそう、ミオの背後から声をかけた。
ミオは、ダン巡査とラドクリフ巡査がマルドナード兄弟を引っ立てて行くのを、じっと見守っていたんだ。
「ミオはどうする?
「......いや、ウチはお隣さんたちに話を聴いて回るよ」
「よし、じゃあそっちは任せたよ」
私はそう言うと、とっとと寝室へと引っ込んだ。捜索を始める、前にベッドに腰かけると、窓の外を眺めるともなく目をやって、考え事をはじめた。
さっきのミオの顔。たぶん、エンジェルの"俺はやってない"節になにかしらの信憑性を見出したんだろう。そこまでは分かる。
でも、今日はいつになく自信がなさそうな顔だった。引っかかり方が微妙だったのか、あるいは、
「......モラーの件、まだ引きずってるのかな」
あの時も、被疑者の中で一番嫌疑の濃かったモラーの否認に、ミオは一定の信憑性を見出していた。カンの域を出ないものだったけど。
それでも私はミオのそのカンに昔から信を置いてるし、だからこそ比較的嫌疑の薄いイーライの方の告訴に傾いたんだ。
それが、ここにきてそんな自信なさそうな顔をされちゃうと、なんとも言えない気分になってくる。これは不安? それとも......不信?
「......なんかモヤモヤするなあ」
口に出しても、その不定形の感情は消えなかった。
「とにかく、お仕事しないとだな」
そう言って自分を納得させて、モヤモヤを棚上げする。ベッドのバネにピシリと音を立てさせて立ち上がった。
「......さてと、残るは
寝室、
「おっと、これは是非エンジェルの言い訳を聞かないとな」
襟元や袖口に結構な量の血痕があって、それを横手の
洗われたからか血の臭いはすっかり薄くなってて、今の今までさっぱり気が付かなかった。
とにかく収穫はあって、それで一転して鼻歌を歌いだしたい気分になった私は、そこで木箱に蹴っつまずいて思いっきり転びそうになっちゃった。
「痛った! なんだよもう!......ん?」
なんだ? 今私を襲った違和感はなんなんだろう?
「......そうだ、音だ!」
もう一回、木箱を軽く蹴る。カチャン、とガラスが触れ合う音がした。
木箱には"
「いや、ジャム瓶とかかもしれないし......違ったか」
蓋を開けてみると、中にはブランデーの瓶が入っていた。もともとはぎっしり詰めて合ったんだろうけど、今は半分ほど空いている。
「ジャスト・ピックド青果店、オード通り412番地か。結構近いな」
もし殺人事件に関係なくても、このことは風紀課に教えてあげれば喜ばれそうだ。
他に台所にめぼしいものがなさそうなのを確認すると、私はミオの様子を見に部屋を後にした。
「血染めのシャツかあ......」
廊下の一番奥にいたミオを見つけて捜索の結果を伝えると、ミオはそう呟いてちょっと考え込むような仕草を見せた。けど、すぐに首を振って言った。
「いや、後にしよう。フブキ、ここが最後なんだけど、いい?」
「いいよ」
ミオが305号室から一番遠い301号室のドアをノックした。
ドアの奥からこちらにやってくる物音がした後、黒髪のご婦人が不審げな顔でドアを開いた。
「はい?」
「
「ええ、ええ、聞いたわよ。マルドナード夫人が出てって、それで旦那さんが追いかけて行ったの」
「それを見たんですか?」
「ええ、ドアを細く開けてね」
「......マルドナードさん――旦那の方です――が帰ってきたのを見ましたか」
ミオはちょっと考えるような間を置いてから、そう聞いた。
「いいえ。見ませんでした」
「ありがとうございます。最後にお名前を伺っても?」
「アランダ。マリア・アランダよ」
アランダ。ということはこの人もヒスパニック系か。
「ありがとうございました、アランダさん。後程巡査が公式な調書をお持ちしますので、署名をもらっても?」
「ええ、いいわ」
「......一晩中一緒にいた、ねえ」
「ミオ、先に降りようか」
ドアが閉まるなりぼそっと呟いたミオに、そう釘を刺す。
「ああいう"お節介焼きおばさん"なら、今ドア越しにこっちのことを窺っててもおかしくないと思うけど?」
「ぶはっ......そうだね、そうしようか」
ミオは思いっきり吹き出してから私に同意して、先に立って階段に向かった。
「あの、オオカミ刑事というのは?」
「はい、ウチですけど」
一階に降りるなり、作業服に身を包んだ男性が話しかけてきた。ミオがちょっと構えた声で答える。
「私はこの建物の管理人なんですが、いましがた警察から電話がありまして。オオカミ刑事に伝言があると」
「あー、さっき私が
「出ます。管理人室ですか?」
「いえ、そこの公衆電話からどうぞ」
見ると、ロビーの公衆電話の受話器が外されていた。
「わかりました。ありがとうございます」
ミオは管理人さんにお礼を言うと、私に先に捜査用車に戻るよう合図して公衆電話の方に向かった。