H.L. Noire   作:Marshal. K

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Nicholson Electroplating ~Interval~

 

 

「いっつ!......」

「どしたの、おまるん?」

「いや、口ん中の切ったとこにトマトが沁みて......」

 

 あたしたちはローズウッド通りとハーバード大通り(ブールバード)の角にあるガソリンスタンドで、捜査用車に給油するついでにハンバーガーをぱくついていた。

 

「くっそお、許せねえ。あいつらどうしてくれようか......」

「おまるん、一応あたしたちの立場から行くと、あの人たちは被害者だからね」

 

 なんであたしが口の中を切ったかについて、端的に言ってしまえばいいパンチを一発もらったからだ。

 建設中の復員軍人(GI)住宅街が一つ丸ごと全焼した事件があって、火災犯課長のマッケルティ警部はあたしたちに現場を調べてくるように言いつけた。

 現場には手に入るはずだった家を失ったGI達が押しかけていて、まあ、あたしたちも同情はしてたんだけど、群衆整理に当たっていたキャンベル巡査を殴り倒すに至って流石に見過ごすわけにはいかず、大乱闘GI vs ポリ公がおっぱじまったってわけ。

 

「なあ、お前本当に従軍したことないんだよな?」

「ないよ」

「じゃあなんで一人でGIを一ダース以上も倒せるんだよ......」

 

 いかに獣人といってもちょっと前まで戦闘訓練を受けて、実際に戦闘に従事していたGIが相手じゃ分が悪いったらない。その獣人自身もGI――フブちゃんたちみたいに――なら話は違うんだけど。

 

「経験かな?」

 

 手に付いたソースを舐めとりながら、飄々と獅白が返してきた。とてつもなくうざったい。とはいえちょっと興味も湧く。こいつはイングルウッドでどんな経験を積んだって言うんだ?

 

「なあ、お前イングルウッド出身だったよな? いったい......うわっ!」

「っ!」

 

 一瞬、すさまじい閃光が辺りを覆って、あたしたちの目を焼いた。

 次の瞬間には轟音とともに突風が吹き荒れた。突風っていうよか衝撃波って感じだったけど。捜査用車がぎしぎし音を立てて揺れて、あたしは欠片サイズになってたハンバーガーを捨てて慌てて帽子を押さえた。

 

「えほっ、一体何が......あぁ......」

 

 見上げた先に巨大な煙の柱が立ち昇った。先端がむくむく膨らんで、きのこのような形になっていく。

 あたしの頭を2年前に見たニューヨーク・タイムズの記事がかすめた。写真偵察機が撮影した、真っ黒なきのこ型の噴煙。

 

「原......爆......?」

 

 原爆? アメリカに? どこの誰が? いま原爆を造れるか、あるいは持ってるかもしれないのはイギリスくらいのもんだ。*1第二次米英戦争でもおっぱじまるのか? そもそもそんなの、一介のロス市警(LAPD)の刑事にどうこうできる話じゃ......

 

「原爆じゃないよ」

 

 獅白の緊張しつつも冷静な声で、あたしは現実に引き戻された。

 相勤は厳しい表情で、どんどん高くなっていくきのこ雲を見つめながら続けた。

 

「本当に原爆ならこんな程度じゃすまないよ。おまるん、自動車出して」

「へ?」

 

 気が付けば獅白はとっとと給油機の注ぎ口を外して、給油口の蓋を閉めたところだった。

 

「とにかくあの煙の方に行こう。詳細な場所はそのうちKGPLが教えてくれるでしょ」

 

 

 

 

 

「......各局、KGPLから各局......大規模な爆発の通報が入電中。現場......現場は不明......不明なるも、サンタ・モニカ大通り(ブールバード)より南と思料されます......」

 

 KGPLからの通信はかなり途切れ途切れだった。頻繁に挟まる空電音が、報告がつぎつぎとKGPLに上がっていることを教えてくれる。

 

「......各局、1A16号車によると......現場はウィルシェア管内......」

「KGPLから各局、6W88号車によると......現場はオークランド......」

「KGPLから各局、6A14号車によると、現場はオークランド通りのホウバート大通り(ブールバード)とウェスタン通りの間」

「おまるんそこ右!」

「りょーかい!」

 

 獅白の指示に従って、ハーバード大通り(ブールバード)からオークランド通りに右折する。

 交差点はどこも大混乱だった。きのこ雲――今はもう、ただの煙の柱になっている――から1フィートでも遠ざかろうとする人たちが赤信号を無視するもんだから、あちこちにひっくり返った自動車や歩道に乗り上げて塀につっこんだ自動車が乗り捨てられている。

 オークランド通りに曲がると空が一気に暗くなって、路面に灰や塵や、吹き飛ばされてきたらしいレンガの塊なんかが転がるようになってきた。

 ホウバート大通り(ブールバード)との角でパトカーが二台合流してきて、三台で通りのど真ん中に停まっていたパトカー――6A14号車だ――を囲むように停車する。捜査用車から降りると、制服の一人があたしたちに喚いた。

 

「あのろくでなしどもをなんとかしねえと!」

 

 二人そろってぎくりと振り向くと、爆風でめちゃくちゃになったいくつかの商店から、衣裳鞄(スーツケース)長持(トランク)を持った男たちが続々と逃げ出すところだった。略奪だ。

 

「あれを放っておいたら大規模な略奪や暴動に繋がっちまうぞ!」

 

 後ろから来た別の制服――たしかダン巡査だ――がそう叫んで拳銃を抜くと、暴徒たちに次々と弾丸を浴びせ始めた。

 あたしと獅白も拳銃を抜いて適当な暴徒に狙いをつける。結構な人数いるから入れ喰い状態だ。

 

「ああもう、今日は朝からこんなのばっかだな!」

 

 

 

*1
ソ連の初めての核実験は'49年

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