H.L. Noire   作:Marshal. K

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Nicholson Electroplating #5 ~Interval~

 

 

「ここだ獅白。スーペリアー・ランドリー・メルローズ」

 

 あたしは目的の店を見つけると、ナッシュのハンドルを握る獅白にそう告げた。読み上げた通りの屋号が、メルローズ通りに面したネオン看板(サイン)にデカデカと出ている。

 捜査用車を店の前に着けて駐めると、二人で並んで洗濯屋に入った。

 

「いらっしゃい、何用で?」

「尾丸と獅白、ロス市警(LAPD)。ここのタグについて聞きたいんだけど、J-2620番のお客は......」

「ふざけてんのか!?」

 

 あたしたちが話しかけた会計(チェック・アウト)カウンターの店員は、いかにもアジア系な顔を真っ赤にして、いかにもアジア系な平板な訛りでこっちを怒鳴りつけた。

 

「こっちにゃ仕事があるんだ、小娘! 顧客台帳ならそこのテーブルにある。勝手に調べててくれ!」

 

 そう言い捨てると、喋るのと同じくらい勢いよく店の裏へと引っ込んじゃった。

 

「......不法移民、かな?」

「たぶんな」

 

 あたしは獅白の端的な感想に同意しつつ、たぶん仏印(フレンチ・インドチャイナ)系だろうと見当をつけた店員が指したテーブルに歩み寄った。確かに、緑色の表紙の台帳が置かれている。

 表紙をめくって、ページを繰っていく。

 

「えーっと、J-2620、J-2620......あった、これだ」

 

 

――整理番号:J-2620

  氏名  :オスカー・ハングストローム

  住所  :持ち込み・店頭渡し

  洗濯物 :上着3着・シャツ1枚――

 

 

「オスカー・ハングストロームって誰だ?」

「工場の誰か、じゃない?」

 

 わかんないけどさ、と素直に付け足して獅白は続けた。

 

「住所はある?」

「いや、ない」

「じゃあどん詰まりだね。あたし記録課(R&I)に電話して聞いてみるから、おまるん先に捜査用車に戻ってていいよ」

「わかった、任せる」

「任セロリ」

 

 

 

 

 

「なんにもなし」

 

 獅白はナッシュの助手席に戻ってくるなり、短くそう言った。

 

「なんにも? 具体的には......」

「居住記録、出生記録、転居記録、何一つなし。今KGPLが保安局経由で近隣に問い合わせてくれてるけど」

 

 獅白は首をぐりぐり回して続けた。

 

「見込み薄だなあ」

「そっか。じゃあ例の住所のほうに回ってみるか」

「そうだね、これ以上できることもなさそうだし」

 

 

 

 

 

 北バーモント通り133番地にあったのは、何の変哲もないアパートメント・ビルだった。一階には北の方から順に靴屋、古本屋、酒屋、洋服屋が並んでいて、古本屋と酒屋の間に二階のアパートメントに登る階段がある。

 獅白がその階段の登り口にある郵便受けを確認して言った。

 

「1号室、トモコ・オカモト。自分の住所を暗号化してメモしてたのか。何のために?」

「さあ、誰かに書き送るつもりが、渡す前にあの爆発で死んじまったとか?」

 

 獅白は同意とも否定ともつかない唸り声を発してから、さっさと階段を上がって行ってしまった。その後に着いていきながら続ける。

 

「それか、そういう書き送りに使うためにあらかじめメモしておいたとか? でも、それなら一回ごとに鍵を替えないとまずそうだけど......」

 

 階段を上り詰めたところで獅白が厳しい顔で手のひらを立ててこっちにむけたので、あたしは途中で押し黙った。相勤がウェストコートの下から拳銃を抜き出すのを見て、あたしもあわててハンドバッグから銃を取り出す。

 1号室のドアは大きく開け放たれていた。そしてそこから、結構濃いめの血の臭いが流れだしてきている。

 二人でドアの両脇に着くと、室内の音に耳を傾ける。

......異音はしない。入ってすぐのところにある冷蔵庫が唸る音と、奥の方で熾り火がくすぶる音――室内でちろちろ揺れる影からして、居間に暖炉があるみたいだ――がするくらいのもんだ。

 獅白がちらっとこっちを見てから、室内に向かって声を張り上げた。

 

ロス市警(LAPD)です! 入りますよ、オカモトさん!」

 

 返事どころか物音一つしない。それでも拳銃を構えて、背の高い獅白のカバーを受けながら入室する。

 

「......誰もいないっぽいな?」

「みたいだけど、一応寝室を見てからにしようか」

 

 冷静な相勤の声に従って寝室まで行ったけど、先客はすでに帰った後みたいだった。

 

「......さてと、誰もいないのは分かったけど、この感じだと何か残ってるかも怪しいね」

 

 獅白が拳銃をしまいながら言った。

 あたしもそれに倣って、銃をしまいながら辺りを見回す。室内はあらゆるものがひっくり返されていて、さながら竜巻が通った後みたいだ。

 

「そうだな。それにこの感じだと、死体が一つ出来上がってそうな感じだ」

 

 あたしはそう返して、寝室の入り口横の壁を見つめた。

 どす黒い血が花火のように飛び散って、べっとりと壁を染めている。

 

「......高さからして頭に一発、か?」

「たぶんね」

 

 獅白は短く返すと寝室の方を指して続けた。

 

「あたしは寝室を見て回るから、おまるんこっちよろしくね」

 

 

 

 

 

「......はー、なんもねえなぁ」

 

 あたしは居間の片隅で山を成していた衣類を放り捨てて、立ち上がって伸びをした。

 

「やっぱ、めぼしいものはあらかた先客が持って行っちまって......お?」

 

 首をポキポキしながら暖炉に目をやると、なにかが炎を受けて光った。

 

「オカモトのヘアピンかなにかか......?」

「おまるん、ちょっと」

 

 よく見てみようとしたところで、後ろから獅白から声をかけてきた。そっちを振り返って立ち上がる。

 

「どした」

「これ、見覚えない?」

 

 獅白が持っていたのは金色に輝く球形の耳飾りだった。見覚えがある。とてもよく。

 

「あるな。さっきの、工場の鞄の中に入ってたろ」

「あたり。よく覚えてんね」

「片方しか入ってなかったからな。で、それが?」

「聞いてみ?」

 

 そう言うと獅白は耳飾りを掲げて、軽く振った。微かにカタカタと何かが振れ回る音がする。

 

「......中に何か入ってんのか」

「たぶんね。でも開け方がわかんないから、持って帰ってレイに見てもらおうと思う。そっちは?」

「ん、これ」

 

 あたしは相勤にタイピンを差し出した。

 

「ここに落ちてた。ポルカもまだよく見てないんだけど」

「ふーん......これ、身内のだね」

「は?」

 

 獅白がタイピンをこっちに見せた。よく見ると、小さな市警のバッジのレプリカが付いている。

 

「ここ、元職(RETIRED)って書いてるでしょ? 退職者にプレゼントされるやつじゃなかったかな」

「まじかよ......総務室に問い合わせたほうがよさそうか?」

「いや、わかんない」

 

 獅白は室内をさっと見回してから続けた。

 

「とにかく、あたしは電話をかけて鑑識と検屍官をよこしてもらうから、おまるん他に気になるところがあるなら見て回ったら?」

「わかった、どのみち台所(キッチン)はまだ見てなかったしな」

 

 そう返してあたしは一番気になっているところ――半開きの冷蔵庫――に向かった。オカモトがどれだけ冷蔵庫整理が下手なのか、見せてもらおうか。

 

 

 

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