「止まって! ここは関係者以外立入禁止です!」
獅白がウィルシェアの片隅にあるヒューズの格納庫に捜査用車を乗り付けたところ、正面のゲートには略装の軍服に
「ご用件を伺います」
窓を下げると、助手席側に寄ってきた憲兵がそう聞いた。
「尾丸と獅白、
「残念ですが、お力にはなれません、刑事」
あたしに可能な最大限尊大な顔と声を作ってそう言ったものの、憲兵は厳つい顔をすこしも崩さずに返した。
「
「これが、許可だ」
あたしは警察官
「ここはロサンゼルス市で、ロス市警の管轄範囲内だ。だからポルカたちが明白な理由があるって言ったら、それが立ち入り許可になるんだよ」
「ここは連邦軍の警備対象施設で、ロス市警を含む、いかなるカリフォルニア州執行機関の管轄範囲ではありません。あなた方にいかなる理由があるのであれ、軍の許可がなくてはお入りになれません」
あくまで丁重な口調を崩さない憲兵と、礼儀をかなぐり捨てたあたしが言い合いをしていると、ナッシュの横に並ぶように、青い自動車が停まった。48年式のタッカーだ。
「おい、これはなんだ?」
青いタッカーから降りてきた男がそう言って、憲兵達の方に回り込んできた。捜査用車の前を通るときに、ちらっと赤色
「地元警察の連中が無許可で入りたがってるんです、主任。いまお帰り願っているところです」
「なるほど」
「すいません、メイプス元刑事ですか?」
獅白が窓を開けると、男の方にそう呼びかけた。そいつは獅白のほうをまじまじと見てから、ぽんと手を打って言った。
「ああ、シシロ刑事ってのはあんたか?」
「そうです」
「退職する少し前に、面白いやつだってロイから聞いたことがある」
にやりと、警察官というよりは悪漢のような笑みを獅白に投げると、獅白がメイプスと呼んだ男は憲兵達に言った。
「通してやれ、俺が全責任を取る」
あたしに対峙してた時と違って、明確な嫌悪感を顔に浮かべている憲兵はぐるっと目を回すと、哨舎の脇にいる別の憲兵に手を振った。そいつがゲートを塞いでいる、木製の遮断
「こっちだ。ついてきてくれ」
メイプスはそう言うと、タッカー・トーピードに乗り込んで敷地内に乗り入れていく。獅白が捜査用車を出す前に、あたしはクソ女刑事らしく、顔を顰めている憲兵達に尊大そうな敬礼をして見せて連中の顔をさらにしわくちゃにしてやった。
ゲートを通り過ぎると前に向き直って、ハンドルを握る獅白に訊く。
「メイプス元刑事って、あのヴァーノン・メイプスか?」
「そうだよ。実はあたし、制服の時にちょっと会ったことはあるんだよ」
向こうは覚えてないみたいだけどね、と獅白は付け加えた。
「そっか......それにしてもメイプスに会ったことがあるにしろ、ロイから"面白いやつ"って評価を受けてる点にしろ、あたしはお前のことが心配になってきたぞ」
ヴァーノン・メイプスは市警の誰もが知る
対するロイ・アールはこれまた誰もが知る悪徳刑事の一人だけど、そのあけすけな汚職っぷりに対して、身の振り方はメイプスよりもはるかに鮮やかでスマートだ。綱紀粛正を掲げるパーカー首席監察官の手をすり抜け続けて、未だに市警にとどまっている。
その二人からさっきの様な評価を受けてるってことは、つまり獅白は......
「おまるんが何を心配してるかはわかるよ」
獅白がちらっとこっちに視線を投げて続けた。
「あたしは大丈夫。あいつらの末席に加わるつもりはないし、ラミちゃんの品位に瑕をつけるようなこともしないよ」
「ラミィは"お前の"品位も大事に思ってるぞ」
あたしはちょっと身を乗り出すようにして、獅白に指を突き付けて言った。
「あたしは今回、これ以上口出ししないけどさ、その自己犠牲的な考え方はそろそろ改めた方がいいんじゃねえの? あたしはラミィじゃないからわかんないけど、お前がラミィを大切に思ってるのと同じくらい、あいつもお前のことを大切に思ってると思うぞ?」
獅白はこっちに一瞬だけ視線を投げた。その視線には妙にあたしの心を刺す、なんとも言葉にしがたい感情を帯びていた。
息を吸ってなにかあたしに返そうとしたけど、結局何も言わずに前を向いて、通用口の横に停まったメイプスのタッカーの後ろに着けるまで、何もしゃべらなかった。