H.L. Noire   作:Marshal. K

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Nicholson Electroplating #8 ~Interval~

 

 

「うわ......でっけえ......」

 

 格納庫の中に入るなり、おまるんは目と口をぽかんと開けて、目の前に鎮座する巨大な飛行艇に見入った。

 一見ばかみたいな顔つきだけど、あたしもちょっと気を抜いたらおまるん見たいな顔になっちゃうのがすぐに分かったから、表情を抑え込むのにすごく苦労した。

 それほどに、この飛行艇は壮観だった。

 大きく広げた翼は間違いなく100ヤードはあるし、奥行きも70ヤード近くありそうだ。左右の主翼に合わせて八つ開いてるエンジン・ナセルは一つを除いて今は空で、左翼の一つで工員が数人、エンジンの取り付けか取り外しの作業をしている。

 下から見ると、彼らはまるでノミかなにかみたいに小さく見えた。

 

「すげえな......これが飛ぶのか」

「ヒューズ社長はそう思っている。美しいだろ?」

「これが小粋なガチョウ(スプルース・グース)......」

「おい、ちょっと止めろ!」

 

 おまるんを遮るようにして、メイプスが叫んだ。

 

「俺を馘にしたいのか!? ヒューズ社長はその呼び方がお嫌いだ。H-4、ハーキュリーズと呼んでくれ。それが公式呼称だ」

 

 そこで言葉を切ると、メイプスは皮肉っぽく笑って付け加えた。

 

「もっとも、社長はその呼び名もお好きじゃないようだが」

「じゃ、社長はこいつをなんて呼んでるんですか?」

飛行艇(フライング・ボート)、とだけ」

「羽の付いたカヌー、とかどうです?」

 

 おまるんの提案を、メイプスは鼻で嗤って返した。

 

「だったら漕いでみるといい。空虚重量でも100トンを超えるがね」

「そのヒューズ社長にお話を伺えますか?」

 

 あたしがそう聞いてみると、メイプスより先におまるんが答えた。

 

「ヒューズ社長は今ワシントンだよ。ですよね?」

「ああ、そうだ。公聴会でな」

「これは個人的な興味なんですけどね、メイプスさん」

 

 おまるんは刑事というよりは、新聞記者みたいな妙に人懐っこい表情と声で続けた。

 

「実際のところこいつの計画に、上院議員連中が期待してるようなナニカがあるんですかね?」

「あってもおかしくはないだろう。世論はともかく、軍は乗り気じゃなかったわけだからな。それに、」

 

 メイプスは自分の胸を叩いて続けた。

 

「俺をここの警備主任をしてる。自明じゃないか?」

「なるほどね。愚問でした」

 

 おまるんはぽりぽり頭を掻いてから、ほんの一瞬だけこっちに目で合図を送ってきて、態度はそのまま質問を続けた。

 

「愚問ついでにいくつか質問させてください、メイプスさん。ポルカたちも仕事をしなきゃなんで。今朝のニコルソン電気鍍金工場での事故について、なにかご存知のことはありますか」

「大して知らないな。髭を剃ってる時にドカンと来てね、ちょっとチビッちまった。真珠湾(パール)の再来かと思ったよ」

「つまり、そこで何があったかは何もわからない、とそう言うことですか?」

「ああそうだ。警備主任、と言ったろ? 技術的なアレコレは門外漢でね」

「従業員とも面識はない?」

「ああ」

「トモコ・オカモトって人もご存知ない?」

「聞いたこと無いな」

 

 再び一瞬の視線でパスを受けて、あたしが質問を続ける。

 

「ハロルド・マクレーランってのはどうですか? ニコルソンの主任化学者ですけど」

「そいつは聞いたことがある。つい最近、ニコルソンに画期的な何かを持ち込んだらしいな」

「彼とこの会社に繋がりは?」

「無い。あるなら、彼は今頃ここを吹っ飛ばしてるさ」

「じゃあおかしいですねえ、ニコルソンの廃墟からプロップ・スピナーを見つけたんですよ。ワスプ・メイジャーのです」

 

 おまるんは「まいったなあ」って感じで頭を掻きながら、急に表情を消したメイプスの周りをうろうろして続けた。

 

「ニコルソンに軍とのコネがない以上、その出所はここ以外に考え付かないんですよ。アルミニウムの塊が、無から湧いて出てくるわけがありませんしね?」

「さっきのオカモトって人、マクレーラン博士の個人助手だったんですけど、彼女は産業スパイでした。誰であれ、オカモトの雇い主は技術だけ盗むつもりだったようですけど、ヒューズはマクレーランごと引き抜こうとしたんじゃないですか?」

 

 あたしはメイプスの鉄仮面から目をそらさずに、淡々と続けた。

 

「研究資金はニコルソンに出してもらって、技術が確立し次第マクレーランはこっちに移籍。特許も儲けもヒューズが独り占め。あんたみたいなタイプの警備主任は、その手の"警備"も仕事の内、ですよね?」

「......ヒューズとお抱えオタク連中が、彼の研究に興味をそそられていたのは知っている」

 

 メイプスは表情も言葉も抑揚を抑えて言った。

 

「彼が研究に使うために、ここからアルミニウムの部品を送っていた。マクレーランがニコルソンを見限ったとしても、我々に不都合があるわけではない」

「そしてあんたの仕事は、社長のそういう"興味"を的確に嗅ぎ取ること。ですよね?」

「そうだな」

 

 メイプスは短く答えて、口をつぐんだ。これ以上答える気はないぞって意志が視線に出ている。ここから先は無理かな。

 おまるんにちらっと目で合図すると、あたしは途中からからさりげなく開いていたメモ帳を閉じて、メイプスにちょっと会釈していった。

 

「ご協力ありがとうございました、メイプスさん。あと、ちょっと中を見て回っても構いませんか?」

「ああ、ご自由にどうぞ」

 

 

 

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