H.L. Noire   作:Marshal. K

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Nicholson Electroplating #9 ~Interval~

 

 

「あたしはあそこのエンジンを見てくるよ」

 

 メイプスが通用口の方に立ち去ると、獅白が主翼の下で整備中のエンジンの一つを指して言った。

 

「プロップ・スピナーを確認しときたいし。おまるんはどうする?」

「そうだな......あそこの事務所、たぶんメイプスの仕事場だよな?」

 

 通用口の上にある、棚屋のように持ち上げられた事務所を指して、あたしはそう言った。事務所には大きく警備部(セキュリティ)って書いてある。

 

「自分の巣に何を隠し込んでるのか、見せてもらおうじゃん」

「趣味悪いねえ、おまるん」

 

 獅白は、たぶん今あたしが浮かべているだろうにやにや笑いと同じようなものを、こっちに返して続けた。

 

「さっきの態度といい、まるで文屋さんじゃん。インクィジターの知り合いに影響されたの?」

「そんなつもりはなかったんだけどな......考えてみりゃ、人から話を聴きだすってのは共通してるんだから、意外と使えるかも」

「やめときなよ。現場で本物の記者と勘違いされて、巡査に叩きだされるのがオチだよ」

「それもそっか」

 

 

 

 

 

 と、言いはしたものの、メイプスの仕事場にはこれと言って怪しいものはあんまりなかった。

 いやそりゃ、ニコルソンに時限爆弾を仕掛ける計画書とか、爆弾そのものが置いてあるとか、そんなことを期待したわけじゃないけど。期待してないったら!

 

「拳銃の所有許可......は持ってそうだしなあ」

 

 コルト・ガバメントを元のテーブルに戻して、ため息とともに独り言ちる。

 許可取得の手続きが合法だったかはわかんないけど、そんなのところを突っついても何にもならない。

 後は流行りのジャス・クラブに行きつけらしい――紙マッチがあちこちにある――ことと、バラー・タバコが好きらしいってことくらいしかわかんなかった。

 

「こんだけ警備が厳しい施設なんだから、なにかしら後ろ暗いものを置いてんじゃないかって踏んだんだけど......そういや、それならあたしたちを入れたりしねえか......」

 

 ちょっとがっかりしてメイプスのデスクにお尻を乗っけると、女性が映っている写真立てを手に取った。

 

「奥さんかな?......違う、これ"肉体美のマリー(マリー・ザ・ボティ)"じゃん」

「マリー・マクドナルドのこと?」

 

 ぎょっと事務所の入り口に目をやると、猫のように――こいつはライオンのはずなんだけど――足音を殺してやってきてた獅白がそう言った。

 

「うわっ、ビックリしたあ!......そうだよ。メイプスとマリーのツーショットだ」

「ふうん......RKOと一緒に買収するつもりかな?」

 

 獅白が言っているのは、現在絶賛斜陽企業となっている映画スタジオ、RKOをヒューズが買収するって話についてだろう。

 

「本気でRKOを買うんならそうするだろ。そうしない手はないし、なにより明らかにヒューズの好みのタイプだしな。で、そっちはなんか収穫あったか?」

「大して。プロップ・スピナーが確かにワスプ・メイジャーのものだと確認できたくらい?」

 

 獅白はひょいっと肩をすくめて言った。

 

「メイプスの言と合わせて、ここからニコルソンに流れたもので間違いなさそうだね」

「そっか。ここも大したものは無し。考えてみりゃ、ポルカたちを素直に招き入れてる時点で、メイプスがなにか隠し込んでる可能性は低いんだよなあ......」

「まあね......でもまあ、ヴァーノン・メイプスはロイ・アールの劣化版みたいなものだからさ。なにかしらヘマしててもおかしくないかなあって」

「よく言う、自分じゃ見に来なかったくせに......一旦署に戻るか」

「そうだね。レイがあのスパイカメラからなにか取り出せたかどうか、確認してみようか」

 

 二人で事務所から降りると、通用口の脇であたしたちを待ってたらしいメイプスにおいとまを告げた。

 

「メイプスさん、ご協力ありがとうございました」

「いやあ、市警のためになるんなら大歓迎だよ」

「ポルカたちはもう帰りますんで......あ、そうそう、市警って確か退職する時タイピンがもらえるんでしたよね? まだお持ちですか?」

「ああ、持ってるよ。今も――」

 

 メイプスは言いながら、さりげなく自分のネクタイを触った。ほんの一瞬、ピクリと眉を動かしてから、言葉を切らずに滑らかに続けた。

 

「――時々着けることがある。良き日々を懐かしんでね」

「そうですか。じゃ、また」

 

 

 

 

 

「あれは明らかに、さっきのさっきまでタイピンを落としたことに気が付いてなかったな」

「間違いなくね」

 

 ゲートをくぐって捜査用車をウィルシェア署に向かわせる道中、あたしは獅白とさっきのメイプスの反応について話をしていた。

 

「咄嗟のごまかしは結構上手かったけどな。でも、明らかに何の脈絡も無くタイピンの話を出したから、ポルカたちがメイプスを疑ってることがバレちったかな?」

「かもね。でもそれが圧になってもっとポカを重ねてくれれば、あたしたちにとっちゃ助かるでしょ」

 

 獅白はちょっとせせら笑うような調子で続けた。

 

「ロイだったら、そもそも現場にタイピンを残したりはしなかっただろうね。でもメイプスみたいな"半端者(ミドルマン)"はそういうミスをする。で、それをカバーするためにさらに失敗を重ねて、結局刺されたり馘同然に追い出されたりするんだ」

「ふうん......ちなみに、獅白ぼたんならどうするんだ?」

「あたし?......あたしなら、そもそもこんなことに係り合いにはなんないよ」

 

 獅白は、声音に若干牽制する色を滲ませた。

 

「もしやる必要があったとしても、ロイみたいに嫌疑をかけられそうな位置には立たないかな。あいつほどコネがあるわけじゃないし」

「コネがあるればやるんだ?」

 

 獅白はあたしの質問には黙秘権を行使して、署に着くまでだんまりを通した。

 

 

 

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