H.L. Noire   作:Marshal. K

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The White Shoe Slaying #3

 

 

「よしミオ、ここだよ」

 

 フブキの声に応じて、ウチは捜査用車を1番街の自然公園横の路肩に寄せた。通りの向かい、1番街とピクセル通りの角からちょっと西に行った建物に、"スーペリアー・ランドリー1番街"の大きなネオン看板(サイン)が出ている。

 

「あ、フブキ、ストップ」

「ん? なあに?」

「雨降ってるからさ、交差点から渡ろう?」

「あー、うん」

 

 フブキは一瞬、明らかに"ここから渡った方が近いのに......"って目をクリーニング屋さんに投げたけど、素直にウチの後に着いて来て、交差点を渡った。

 雨の日は滑りやすいし、視界も悪いから事故が起きやすい。横断歩道を渡りましょう、って呼び掛けてる警察官自身が事故に遭ったりした日には、いい笑いものだ。

 そんなわけで遠回りをして服の肩と帽子を余計に濡らしつつも、ウチたちはガラスドアを押し開けてクリーニング屋さんの中に入った。

 

「くっそお、ダメだこりゃあ......」

 

 店内にずらりとならんだ洗濯機の一つを覗き込みながらボヤく男性の後ろを通り抜けて、会計(チェック・アウト)カウンターへと向かっていく。

 

「すみません」

 

 カウンターの奥で、吊られたシャツを整理していた男性に声をかける。

 

ロス市警(LAPD)です。大神刑事と白上刑事。捜査中の事件でここのタグに行き当たったんですけど、整理番号を調べてもらえますか?」

「あー、ちょっと待っててくれ」

 

 振り返ったアジア系――洗濯屋さんだから、たぶん韓国系かな?――の店員さんは、厭そうな顔をしつつカウンターの下にしゃがみ込むと、緑色の表紙の台帳をカウンターの上に置いて続けた。

 

「どうぞ、お好きにご覧になってください。ここになければうちの店舗じゃありません。私はまだ、プレスしなきゃいけないシャツがあるもんで」

 

 そういうなり、すたすたと奥の方に入って行ってしまった。

 

「......ずいぶん忙しいみたいだね?」

「仕方ないよ。ここ数日ずっとこんな天気だもん」

 

 なにか、別のことを疑ってるらしいフブキはさておき、ウチは台帳をめくってお目当ての番号を探し始めた。

 

「F-1363......F-1363......あった、これだ」

 

 

――整理番号:F-1363

  名前  :T. タラルドセン夫人

  住所  :エメラルド通り43番地

  洗濯物 :シルク・ドレス 1着――

 

 

「T. タラルドセン夫人。住所はエメラルド通り43番地か。たぶんウェストレイクかな」

「その辺りだろうね......ご協力ありがとうございました」

 

 フブキは別のシャツを取りに戻ってきた店員さんに胡乱気な視線は投げつつも、きちんとお礼は言ってから玄関の方に踵を返した。

 

 

 

 

 

 エメラルド通り43番地はこじんまりとした一軒家だった。お庭には三輪車や簡単な滑り台なんかがあって、小さいお子さんがいるだろうことを窺わせる。

 モラー事件のときのミッシェルのことを思い出して小さく溜め息を吐いたものの、近親者告知と事情聴取のために玄関への小径(アプローチ)を歩き出した――とたんにフブキがウチの袖をちょっと引っ張った。

 

「お? どした、フブキ」

「ミオ、あれ見て」

 

 フブキに半ば引っ張られるようにして家の横手に回ると、牽引台車(トレーラー)に載ったモーターボートがそこに鎮座していた。フブキはそこに歩み寄ると、舳先から垂れている舫い索を手に取って、こっちにかざして言う。

 

「ほらミオ、舫い索だ。三つ撚りのロープだよ」

「なるほど......凶器の入手には困らないってわけか」

「ま、凶器そのものじゃないけどね。じゃあ旦那さんから話を聞いてみようか」

 

 改めて、小径(アプローチ)を途中から辿ってポーチに上がる。フブキを背後に、ウチがドアをノックした。

 

「......はい、どうも?」

 

 ドアを開けたのは、四十絡みの白人男性だった。疑念と不安がないまぜになった感じの、しかめっ面をしている。

 ウチは警察官(バッジ)をかざして、男性に言った。

 

ロス市警(LAPD)の大神刑事です、こっちは白上刑事。奥さんはご在宅ですか?」

「家内は昨晩家を出てから、まだ戻ってないんです」

「昨晩彼女が着ていたものを、教えてもらえますか?」

「緑のシルク・ドレスと、オープントゥの白い靴を。それがお気に入りで」

「タラルドセンさん、中に入れていただいてもいいですか? どうやら悪いニュースをお伝えしなくてはいけないようです」

 

 タラルドセンさんが一歩下がって、無言でウチたちを招き入れた。

 居間に入ると、ソファに座っていた二人のお子さん――どっちも女の子だ。まだとてもちっちゃい――が、ウチたちの方に不審げな視線を向けてきた。

 

「タラルドセンさん? 誰かお子さんの面倒を見てくれる人はいますか」

「いまシッターに連絡したところなんだ。なあ、いいかげん何があったのか教えてくれよ」

 

 フブキの質問にタラルドセンさんは声を荒げて返して、フブキに詰め寄った。

 ウチはその間に割って入るようにして、タラルドセンさんの目を真っすぐに見据えて言った。

 

「タラルドセンさん、あなたの奥さんの死体が、今朝発見されました。ウチたちは殺害されたものと見ています」

 

 タラルドセンさんは鼻から大きく息を吸い込むと、両手で顔を覆った。泣き出しこそしなかったけど、ふらふら歩いてソファに向かって、娘さんたちの隣に腰を下ろした。

 ウチはその様子を注意深く見守りつつ、言葉を続ける。

 

「大変な時なのはわかっていますけど、タラルドセンさん、いくつか質問に答えてもらわなきゃいけません。まずは家の中を見て回らせてもらえますか?」

「どういうことだ? まさかあんたらは俺が......」

「手続きです。そういう決まりなんです」

 

 ぱっと顔を上げて怒鳴ろうとしたタラルドセンさんを遮るように、フブキが短く言った。

 

「お子さんたちをどこか、別のところに」

 

 タラルドセンさんが子供たちを連れて台所の方に向かうと、フブキはこっちを振り向いて言った。

 

「さてと、白上は台所(キッチン)の方を見て回るよ。ミオは寝室の方をお願いできる?」

「おっけー。そっちは任せたよ」

「任された」

 

 

 

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