H.L. Noire   作:Marshal. K

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The White Shoe Slaying #5

 

 

「だめだ......どうしてもモラーのことが頭から離れないよお......」

 

 捜査用車に戻ったウチはハンドルに手と額を着いて、フブキにそうこぼす。

 

「確かに。死体の特徴はともかく、家庭の状況はよく似てるね」

 

 ウチのぼやきを受けたフブキが、窓越しにタラルドセン邸を見やって続けた。

 

「子供がいて、わがままで呑兵衛の奥さんがいて、旦那さんはずっと振り回されてる。モラーの時と違って手法は無いけど、凶器そのものはある。夫婦は不仲で、動機もある」

 

 フブキはちょっと言葉を切ると、にんまり笑ってこっちに視線を向けて言った。

 

「課長方式で自白を録れば、有罪評決は簡単に出そうな感じだよね?」

「そう......そう、なんだけど......」

 

 ウチがずっと言い淀んでいると、フブキは"オメーの言いたいことはお見通しだぞお、ミオ"って感じの目を向けて言った。

 

「まあ、ミオがKGPLに電話してた時の態度からして、現場不在証明(アイバイ)はありそうだしね。一旦他の被疑者をあたってみようか」

「......そうしよっか。バロンズ・バー?」

「うん」

「わかった」

 

 気持ちを切り替えるように始動(イグニッション)キーを捻ってエンジンをかける。ギアを入れて、側方後写鏡(サイド・ミラー)で後ろの交通を確認しながら、ナッシュをエメラルド通りの自動車の流れに乗せた。

 

 

 

 

 

「どうもお嬢さん方、何をお飲みになります?」

 

 二人そろってバロンズ・バーに入って行くと、カウンターの向こうから恰幅のいいバーテンさんが声をかけてきた。前を行くフブキが警察官(バッジ)を掲げて、バーテンさんに声をかける。

 

「白上と大神、ロス市警(LAPD)の刑事です」

「ベニー・クラフです。テレサ・タラルドセンの件ですか?」

「ええ、そうです」

「ラジオで聞きまして。ブラック・ダリアの模倣犯がまた出たとか。くそったれ、昨晩彼女の旦那さんに電話したんですが、ベビー・シッターが出て彼はまだ帰ってないと」

「よろしければ、いくつか質問させてください。昨日、テレサがここから帰ったのは何時ごろでしたか」

「十時半、くらいだったと思いますね」

「どうやって帰りました? 徒歩、自動車、それともバスで?」

「タクシーを呼んでたよ」

「配車番号、覚えてます?」

「ああもちろん。彼女がここでがぶがぶ呑むときは、大抵家で上手く行ってない時でね。彼女のことは心配してたんだ」

 

 そこで言葉を切ると、脇にあった金銭登録機(キャッシュ・レジスター)台の下をごそごそやって、注文票をを一枚取り出した。

 

 

――テレサ T.

  ライ麦ウイスキー・オンザロック 2杯

  マンハッタン 1杯

  ジン・リッキー 1杯

 

  イエロー・キャブ3591号車――

 

 

「これが彼女のだよ」

「どうも......全部署手配(APB)をかけたほうが良さそうだね」

「そうだね。すみません、電話をお借りしても?」

「どうぞ」

 

 まだ質問があるらしいフブキをその場に残して、ウチは奥にある公衆電話コーナーに向かった。受話器を取って、10セント玉(ダイム)を入れて0(OPERATOR)を廻す。

 

「......交換台? KGPLに繋いで」

「お繋ぎします」

「......受令台です」

「大神、識別番号(バッジ・ナンバー)1272V(ヴィクター)

「用件をどうぞ」

「自動車のAPBを願います。対象、イエロー・キャブ3591号車です。目撃情報を4K11号車に伝達願います」

「了解、手配を通達します。他に用件は?」

「ありません、ありがとうございました」

 

 受話器を置いて返却口からダイムを取り出していると、カウンターのほうからクラフさんがこっちのほうを指して言った。

 

「ああ、あいつがベイツだよ」

 

 バーテンさんの指の先では、ボックス席の一つで一人で呑んでた、赤いポロシャツの男性が中腰になっていた。フブキがカウンターの前からこっちに向かって叫ぶ。

 

ロス市警(LAPD)です! そこから動かないで!」

 

 フブキに視線を止めたままベイツって呼ばれた男が立ち上がって、裏口のあるこっちに走ってこようとした。

 ウチは軽くこぶしを握ると、まともに突っかかってきた男の腹にめり込ませた。うっとかぐっとかいう感じの音がベイツの口から漏れて、そのまま床の上に崩れ落ちた。

 

「ナイスだ、みおーん」

 

 フブキがそう言いながら歩み寄ってきて、ベイツの両脇に手を差し入れて無理矢理立たせると、もとのボックス席に押し込んだ。

 

「ミオ、こいつの隣に。ベイツさん、いくつか質問に答えてくれますね?」

「......選択肢があるってのか?」

 

 苦しそうに息を吐くベイツの隣にドスンと腰を下ろすと、ベイツはウチに忌々しそうな視線をちらっと向けてから、フブキに向かってそう言った。

 

「無いねえ」

「昨晩、ここでご婦人と呑んでましたね? 今朝その婦人は亡くなって、あなたの顔は滅茶苦茶だ」

 

 隣を窺うと、たしかにベイツの顔はあちこちが腫れていた。

 

「俺は関わってない! 彼女は水兵を選んだんだ。だからあんたらは、そいつを捕まえるべきだよ。これで終わり?」

「終わると思う?」

「ああ、思うね」

 

 ウチはベイツの後頭部をつかむと、そのままテーブルに額を叩きつけた。ガツンと大きな音がして、ベイツが蚊の鳴くような音で悲鳴を上げる。

 

「あのね、ウチたちがそれであんたを放すと本気で思ってるの? キリキリ喋るか、ウチたちにお顔の再開発工事をさせるか、どっちかにして」

「......彼女には何もしてないよ」

 

 半ば泣き声になってベイツは話だした。

 

「したたか酔っぱらって、元カレか誰かの愚痴を言いながら、ダンスに行くお相手を探してたんだ」

 

 そこで言葉を切って、下卑た笑みを浮かべて続けた。

 

「何杯か呑ませてちょっと踊ってやったら、ヤれると思ったんだ。船乗り(ソルティ)の方も同じ考えみたいだったよ」

「で? どうやって彼女と別れたの?」

酒場(バー)から出たとき、水兵の坊主に一発喰らったんだ。お粗末な一発だったが。その後のことは、俺は知らない」

「知らない? じゃあなんで逃げたんですか」

 

 フブキが刺すような視線でベイツを見つめて言った。その目から逃れたいって感じで身体をもじもじさせながら、ベイツが答える。

 

「仮釈放中なんだ」

「罪状は?」

「......性的暴行で」

 

 氷点下の温度に下がったフブキとウチの視線に耐えかねてか、ベイツは窓の方によって、大きく手を振り回しながら続けた。

 

「なあ、俺は道端に倒されちまったんだよ。水兵がタクシーに手を振って、彼女と一緒に飛び乗って行っちまったんだ」

「ふーん?......まあいいでしょう。とはいえ一旦中央署まで来てもらいますけどね、リチャード」

「は? なんでだよ!?」

「お話のためだよ」

 

 フブキが席を立って護送車(Bワゴン)を呼びに行くと、ウチはベイツの両肩に手を置いてそう言った。

 

「ちょーっと、親密な世間話をしようねえ」

 

 

 

 

 

「彼を中央署へ。殺人事件の重要参考人なんだ。"快適"な監房を見繕ったげてね」

「了解です、刑事」

 

 酒場(バー)の前でフブキに呼び止められたウォリス巡査が、自分のパトカーのほうにベイツを引っ張って行くのを眺めながら、フブキが言った。

 

「さてと、じゃあ件の水兵さんを探して見ますか。ミオ、白上は記録課(R&I)に電話して照会をかけるから、先に捜査用車に戻ってていいよ」

「わかった」

「それとさっきの咄嗟の対応、とっても助かったよ。さすがはオオカミ軍曹(サージェント)、だねえ?」

「やめて、フブキ、恥ずかしいから......」

 

 実際、だいぶ手荒な処置を取っちゃったことを気にしてたんだけど。

 

「それに、巡査部長(サージェント)はまだまだ先、でしょ?」

「あー、うん、そうだね。でもカッコよかったよ。ほれぼれしちゃうなあ」

「やめてったら!」

 

 思いっきり背中をはたいてフブキを電話コーナーの方に送り出した。うー、ウチはとっととお店から退散しよう。みんな冷やかすような目でこっちを見てるよお......

 

 

 

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