「交換台です。お困りですか?」
「警察です。
「少々お待ちください」
私はバロンズ・バーの電話コーナーで交換手電話機のダイアル音を聞きながら、ミオが呑兵衛たちの冷やかしを受けつつ退店するのを眺めていた。恥ずかしがって逃げるように退散するその姿は、さっきの凛々しいミオの姿ととっても対照的で、これがギャップ萌えってやつなんだなあ~。
「R&Iです。名前と
「白上、
「用件をどうぞ」
「昨晩、北ビュードライ通りのバロンズ・バーで流血沙汰の報告はありませんでしたか?
「日報を確認しておきます。照会結果をKGPL経由で伝達しますか?」
「お願いします。ありがとうございました」
受話器を置くと、私は手近にあった裏口から失礼した。ミオみたいに冷やかしを受けるのは、私も恥ずかしいからね。
「あ、フブキ、今KGPLから伝達があってね、さっきのタクシーがもう見つかったって」
「どこでどこで?」
「ウィルシャー通りとウィットマー通りの角だって。見かけたら停めとくようにKGPLに要請出しといたよ」
「意外と近いね。じゃあ行ってみようか」
そう言って
「KGPLから4キング11宛て、イエロー・キャブ3591号車の手配に付いて、6A14がウィットマー通りのレジーズ・カフェ前で対象車両を停めています。以上KGPL」
「......仕事が早いね」
「いいことじゃん。手際のいい制服たちを待たせないためにも、とっとと行こう?」
「そうだね」
「白上と大神、
「ラドクリフ巡査、ウィルシェア
ウィットマー通りと6番街の角にあるレジーズ・カフェの向かいの路肩に、デソートのタクシーとフォードのパトカーが並んで停まっていた。
私はパトカーの後ろにナッシュを駐めて、いい仕事をした制服に挨拶した。
「一応ここで待機してて。話の次第によっては、運転手さんを署に連れてってもらうから」
「
巡査がパトカーの中に引っ込むと、私はタクシーの運転席側に歩み寄った。ミオは助手席側に回って行く。
「
「俺が何の関係があるってんだよ? 今日はまだまだ稼がなきゃいけねえんだ」
運転席からドイツ系らしい運転手さんが見上げて、不機嫌にそう聞いた。
「すぐ済みます。昨晩、バロンズ・バーから乗せたご婦人です。何を着てたか覚えてますか?」
「あー......緑のシルク・ドレス」
「彼女について、お話を伺いたいんです」
「ああ、水兵と一緒だったよ」
運転手さんは大きな目をぎょろぎょろさせて、若干かすれ気味の声で続けた。
「彼女にぞっこんみたいだったな。彼女の方は全然脈ナシって感じで、ダンスのお相手が欲しかっただけみたいだが。でもな、水兵の方はそーいう目つきをしてたぜ」
「どこで降ろしましたか?」
「クリスタル・ボウルルーム」
「何時ごろ?」
「真夜中......十二時半ごろだったかな? そのあたりだ」
「どうも。助かりました」
「ああ、俺の一日は台無しだけどな」
運転手さんは不機嫌そうにそう言うと窓を引き上げて、自動車を路肩から出した。
「......ベイツが置いてけぼりをくったのは間違いなさそうだね」
「うん。運転手さんが嘘を吐く理由はないし、そんな素振りも無かったしね」
助手席側から聴取を見守っていたミオが、ふうっと一つ息を吐いて続けた。
「一旦署に戻って、ここまでの報告書を書こうか。水兵さんが誰かわかんないと、これ以上進めようがないし」
「あの、刑事」
ラドクリフ巡査がパトカーから降りてきていて、私たちの方にやってきて言った。ちょっと目を見交わして、ミオが返す。
「なあに、巡査」
「KGPLが呼んでます。4K11号車、ですよね?」
「ありがとう巡査、もうパトロールに戻っていいよ」
「了解」
パトカーに戻る巡査の後に着いて私たちも捜査用車に戻ると、助手席に着いたミオが送話器を取ってKGPLを呼び出した。
「4キング11からKGPL」
「4キング11、
「KGPL、先ほどの呼び出しを反復願います」
「KGPL了解。4K11、ドネリー警部から伝言があります。伝言、"ジェームズ・ジェソップ、アメリカ海軍上等水兵が、タラルドセン事件に関連した情報を持っているとして出頭してきた。現在、中央署で勾留している"。伝言は以上です」
「4K11了解......きっと例の水兵さんだよ」
ミオは送話器を戻しながらそう言った。
「たぶんね。ずいぶん素直に出頭してきたなあ」
「本当に素直かどうかは、話を聞いてみて決めよう。嘘で取り繕ってもバレないって踏んでるのかもしれないし」
「だとしたら、後悔するだけだよ。なんせこっちにはミオがいるんだからね?」
にっこり笑って助手席のミオの方を見やると、ミオは眉間にしわの寄った、複雑そうな笑みを浮かべて返した。
「頼りにしてくれるのは嬉しいけど、それはそれでプレッシャーなんだよなあ......」