「タイシン……」
「なに?」
「いや……またカップ麺はよくないだろー。レースのためにもさー」
「は? アンタに何がわかんの。ほっといて」
スマホをいじりながら割り箸でズルズルと啜る妹。コンビニの新作のフレーバーのようだが、それほど関心はなさそうだ。
「うーん」
またチャットで相談してみようか……俺は妹の親友であるウイニングチケットとビワハヤヒデと一緒に「タイシンはわんぱくでもいいたくましく育って欲しい」という名前のグループチャットをしている。
「余計なこと言わないで」
「いや余計なことじゃないだろ、心配なんだよ」
「それが余計なお世話なんだっての」
「早く食わないと伸びちゃうよ?」
「ホント、そういうのいいから」
そう言ってごきゅごきゅとゼロコーラを飲むタイシン……いいだろ普通ので! カロリーを気にして味を我慢する必要ないだろ!
しかしこれ以上余計な心配発言をすると、それこそ口を利いてくれなくなってしまう。
せっかく夏合宿とやらで夏休みにも戻ってこなかったタイシンが、菊花賞の準備が本格化する前に実家に帰ってきたのだ。
この絶好の機会に、最近俺に冷たいタイシンと仲良くなっておきたい。それが兄の望み。
「あっつ……」
カップ麺は辛いものらしく、服をぱたぱたとさせるタイシン。もうそろそろ秋という時期だが、まだ気温はそれなりにあり、エアコンがない分、軽く汗をかく時期だ。
「……ブラジャーつけてないのか?」
「は!? 蹴っ飛ばすよ?」
「す、すまん」
いくら胸が小さいとはいえ、昔に比べたらそれなりに育っているわけで。ノーブラで服をぱたぱたしちゃうとチラチラとしちゃうわけで。
俺の前ならいいが、トレーナーとかいう男の前でやったらと思うと……。
しかしチケゾーにもこんなことを相談できない……顔を沸騰させてしまいそうだ。意外とインナーにはこだわりがあるらしいけど。タイシンも少しは気を使って欲しい。
ハヤヒデは胸もデカイが顔もデカイから、谷間を見られることもないだろう。
タイシンはなぁ……顔は小さいし、めちゃくちゃカワイイからな……悪い虫が寄ってきそうで……そしてその虫はキンチョーやアースがびっくりするほどの殺傷力で死ぬ。むしろ悪い虫が心配。
だがまあ、兄の俺が下着のことに触れるのはタイシンじゃなくてもタブーか。俺にできることは……。
「うーむ」
タイシンが無防備にぱたぱたさせても、問題ないかを確認することだろう。幸か不幸か、タイシンは胸の谷間は無いので、そこを凝視するやつはいない。安心だ。
「どこ見てんの」
「タイシンは胸が小さいなと思ってな」
「死にたいの?」
心配しているだけなのになぜ殺そうと……。まぁいつものようにテレているだけだろう。
そんなことより問題は、胸が小さすぎて、乳首が見えちゃうかもしれないことです。
「なんでその妹の小さな胸をガン見してるわけ」
「乳首が見えないかと思って」
「なるほどね。皐月賞ウマ娘の短い中山の坂で見せた末脚を顔面に食らいたいんだ」
「待て! お前の末脚は武器すぎる!」
「……トレーナーにも似たようなこと言われたな」
え? ここでなんでちょっと嬉しそうな顔を?
とりあえず死の恐怖からは逃れたものの、お兄ちゃんの心配は更に増すばかりだよ!
「タイシン、そこに座りなさい」
「いや、座ってるけど」
カップ麺をズルズルと啜りながら、ゼロコーラの缶をあおりながらだが……食べる邪魔をするのは許されないので、このまま話します。むしろ唐揚げとかポテトも食っていいぞ。
「その、なんだ、トレーナーとはどういう関係なんだ」
「は? トレーナーとの関係って、そのまんまでしょ……ウマ娘とトレーナーの関係」
「そうじゃなくて!」
それじゃあ俺とタイシンだって、兄と妹の関係ってだけみたいでしょ。そうじゃないでしょ。一番愛している人間同士。そう言って欲しいじゃない。
「例えば……デートしてないだろうな」
「何いってんの」
そう言いながらも、ちょっと恥ずかしそうにしてませんか?
その照れ笑いの表情、カワイすぎるから俺にはわかっちゃうよ?
「そんなデートなんて」
「ゲームセンターとか」
「……そのくらい行くでしょ」
「行ったのか!?」
「うるさい。だからなに」
タイシンが、俺以外の男とゲームセンターに!
最近はひとりで行くからついてくんなと冷たいのに、トレーナーなんかと!
「あいつ、ぬいぐるみ取るのうまいしね」
「な、ななななな」
タイシンがぬいぐるみを……?
くそっ、俺も全財産投げ売ってプレゼントするしか……いや、なんか大きなクマのぬいぐるみを買って抱きしめているところを写真に取るしか……カワイすぎて死ぬかも?
「なにその顔」
「いや、想像したらちょっとね」
「トレーナーの? ふーん」
「トレーナーじゃねえよ!? 喜ばないで!」
「別に……」
ごまかしても、しっぽと耳を見れば丸わかりなんだよな……。
「他にはどこに」
「他? うーん、カラオケとか」
「カラオケ!?」
タイシンとカラオケなんて俺も行ったことないぞ!
大体、タイシンの音楽の趣味はちょっとよくわからんのよ。
「何を歌ったんだよぉ~」
「え? なんか昔の歌だったな。知らないけど、結構上手でびっくりしたかな」
「トレーナーの話じゃないよ!? それはどうでもいいよ!」
くそっ!
トレーナーとカラオケ行ったときのこと思い出して、さらにしっぽ振ってるじゃん!
「まぁ、カラオケは今度俺とも行くとして……他には」
「うーん……基本的にはトレーニングしてるだけだけど……神社には行くかな」
「神社?」
神社?
なにそれ。
いや、そりゃ初詣なら俺もタイシンと何度か行ったけど。
そんなとこにデート行くやつは絶対モテないだろ。こりゃ杞憂だったか?
「神社行っておみくじ引く」
「はあ……? なんで?」
「さあ……」
「ええ……大きなレースの前とか?」
「どっちかっていうと凹んだときかな」
「は……?」
妹が何を言っているのかわからない。
「そんなに信心深かったっけ」
「そうじゃないけど。調子はよくなるかな」
「なんでだよ」
わからん。全然わからんが、妹とトレーナーが一緒に神社に行っておみくじを引いたら調子がよくなるっていうのは少しも納得できないし、妙にイライラするね。
「他には」
「んー初詣にも行ったかな」
「また神社かよ!?」
アイエエエ!? ジンジャ!? ジンジャナンデ!?
「まさか夏合宿中にも神社に行ってるんじゃないだろうね」
「夏合宿? 海で遊んだだけ」
「なんだと!? 海で!? まさか水着で!?」
「うっさい。水着だけど、そういうんじゃないから」
そういうのだよ!
男はそういうのだと思ってるよ!
あーっ、もう!
純真な妹をたぶらかして、水着で遊びやがって!
「ごちそうさま」
カップ麺でもちゃんとごちそうさまをするタイシン……こんな純粋な妹を……。
「アンタ……アニキさ」
「ん?」
アニキって呼んでくれるのは久しぶりだ。
呼んでくれなくなったのは、トレセン学園に行くのに反対してからだっけか……。
タイシンがチケゾーたちとトレセン学園に行って夢を追う。もちろんそれは応援したいことだ。
だけど、タイシンは昔から体が小さくて……目の届かないところに行っちゃうのが心配だったんだ。
兄ちゃん、兄ちゃんと袖を引っ張ってる頃のことを思い出すと……もちろん今や皐月賞ウマ娘で俺なんか蹴られたら死ぬと思うけど。
「もうすぐ誕生日でしょ。コレ」
「お、おう」
誕生日プレゼントってことか……?
ちょっと大きめのラッピングされた袋。軽い。
「いつもさ、応援に来てくれて、あんがとね」
「お、おう……」
気づいていたのか……タイシンがレースに出るときはいつも駆けつけるようにしている。
「でもあのハッピはやめて」
「えっ」
ウイニングライブのときの応援団長のハッピのことらしい。
兄としては誰よりも率先してウリャホイしなければならないのだが……。
「代わりにそれ着て」
「……?」
開けろということだろう。
丁寧にリボンを外して中を確認すると……スカジャンだった。
「へえ……」
タイシンのことだから、不良が着るようなやつかと思ったが、俺が着ても平気なデザインだった。
あまりゴテゴテしておらず、テカテカもしておらず、シンプルめなブルー。
「いいな。これなら喜んで着ていくよ」
「よかった」
顔をほころばせるタイシン……いつも思うのだが、この表情の写真が欲しい。
「じゃ、とりあえずそれ着て、一緒に買物いってくんない」
「えっ!? 俺と!?」
タイシンがデートに誘ってくれるなんて……嬉しすぎる……。
「トレーナーにお礼、買いたいんだよね」
「なんだと」
トレーナーへのプレゼントを買いに行く!?
冗談じゃないぞ!
「いつものお礼ってのもあるけど、それ買うときにアドバイス貰ったし」
このスカジャン選んだのトレーナーかよ!?
道理でタイシンにしちゃ地味だと思ったよ! 絶対ド派手な龍が背中だもん!
「絶対失敗したくないプレゼントだからさ……お願い」
「……わかったよ」
あー、俺の負けだよ。
だって、俺へのプレゼント買うときも同じこと言ったんだろ。
それでトレーナーとやらは喜んで俺へのプレゼントを選ぶデートをしたってこった。
冗談じゃないね。
「いいけど、こういうお願いは今度から俺にしろよ」
妹のお願いを叶えるのは、兄の仕事だ。
「俺へのプレゼントは、タイシンが選んでくれたら何でも嬉しいから」
トレーナーには、妹の夢を叶えるのに、専念してもらわないと困るっての。
「……あっそ」
相変わらずそっけないな。
でも、しっぽと耳を見たら、わかっちゃうけどな。
妹になって欲しいウマ娘杯。
一番人気、ナリタタイシン。
そう思って書いてみました。
評判がよかったら他にも書いてみようと思います。
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