Repair! ~TS転生して奴隷になったけど、日本に戻れました~   作:豊科奈義(旧名:焼ききゅうり)

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第10話 逃走

 何を隠そう、ヘムカの両手両足は台に縛られていた。また、口には猿轡。目には目隠しをされてある。

 

「実は私、魔法が得意なのですよ。だから治癒魔法の実験をさせてください。従順なる奴隷なら当然のことでしょう?」

 

 そう言って、一切抵抗できないヘムカに向かって短剣を取り出すと何の躊躇いもなく各所に突き刺す。

 当然のように血が溢れ、一般人にはとても見るに堪えないような姿になっていた。

 

「やめ……やめて……」

 

 放心している状態のヘムカですら、この苦痛には耐えられなかったのだろう。猿轡をされながらも必死に声を出す。

 もちろんライベには聞こえているのだが、そんなことで止める人物ではない。

 

「うるさいです……。恐らく、虫でもいるのでしょう……。おや、あなたの口元に虫が止まっています。殺しましょうか」

 

 当然だがヘムカの口元に虫なんていない。ヘムカの声を虫の音にわざと例え、その声を止めるために口に短剣を突き刺そうというのだ。

 ヘムカは感づくも抵抗などできやしない。

 ヘムカの口元に短剣が突き刺さった。

 その瞬間、ヘムカの声から叫び声が響き渡る。猿轡もあって籠もっているのにも関わらず聞くに堪えない声だった。

 

「いいねぇ」

 

 ライベは恍惚の表情を浮かべた。

 叫び声が却ってライベのサディズムに火を付けたようであり、ライベの魔法実験という名の虐待は夜遅くまで続いた。

 虐待が終わった後は、全身に治癒魔法を掛けられ全身の傷が消え失せるが少しの痣や傷は残された。

 

「ほら、治癒が済みましたよ。少し位傷を残した方が動きにくくて脱走も考えられにくいですからね? もうちょっと従順なら完全に治癒することも吝かではありませんが」

 

 ライベは治癒魔法をかけたが、それは肉体的なものだ。心に残った傷までは消えない。

 ライベを見ながらヘムカが戦々恐々しながら震えていると、ライベが顔色を不機嫌そうに変える。

 

「ひぃ……」

 

 ヘムカは、ライベのいかなることにも恐怖心を覚えるようになってしまった。その場に尻もちをつきながら縮こまる。

 

「おやおや、ご主人様に対してその態度はどうでしょうか……。決めました。明日は魔法実験の時間をもっと長くしましょうか」

 

 汚れきったライベの、無垢を装う提案。

 ただでさえヘムカは壊れている。どんなことに対しても受け流せるはずだった。けれども、ライベのその提案は壊れたヘムカの心が萎縮してしまうほどに恐ろしいものだった。

 

「逃げなきゃ」

 

 ライベの邸宅に連れてこられてまだ一日も経っていない。にも関わらずここまでの恐怖を植え付けられるのはもはや才能だ。

 本能的に、ここから逃げろとヘムカの心が訴えている。逃げたところで行く宛があるわけではないが、どこであろうとここよりひどいところはないだろうと腹を決める。

 そうして、夜が訪れた後ライベが寝静まった。

 わかるわけではないが、仮にもライベは村の襲撃に同行している。疲労も相当なものがあるはずだ。もし今日を逃してしまえば、次の機会はいつになるかわからない。

 ヘムカが向かったのは邸宅の二階だ。この邸宅では、私兵が雇われており夜の間も出入り口には兵士が常駐しており逃げるには不利である。

 ヘムカが考えついた方法は、二階から怪我を覚悟で鉄条網を登り、そこから脱出するというものだ。

 万が一のために、追手を撃退できそうな石ころを持ち二階へ行くと、音を立てないように静かにベランダのドアを開ける。

 

「やあ、どうも」

 

 ベランダの扉を開けるなり、出てきたのはライベだった。不自然なほどの笑みを浮かべており、ヘムカを見下している。

 

「私は仮にも軍の指揮官です。あなたが逃げるために考えそうなことくらい、わかっていますよ。生憎、私は物は最後まで大切に使う性格なのですよ。逃しはしませんよ?」

 

 どうするべきか?

 ヘムカは瞬時に考える。

 そして、ヘムカは石ころを窓に向かって投げつけた。

 ガラスといえども、この世界では高度なガラス技術などない。脆いガラスであり、石ころを投げつけただけで当然のように窓が一面割れた。

 ライベの気が逸れた瞬間に、ヘムカは走り出し割った窓から小柄な体を活かし外へ出た。とはいえ、ガラス片で怪我をしたため外に出た後も立ち止まってしまう。そこでライベは空いた窓から手を伸ばしそんなヘムカを掴もうとする。

 しかし、ヘムカは秘策があった。そして、案の定窓から掴もうとしたライベの手を避けると魔法を発動した。

 ヘムカが発動した魔法、それは唯一使える魔法。

 修復魔法だった。

 ガラス片が一斉に元の位置まで戻ると固まった。ライベの腕が挟まったまま。

 

「くっ……」

 

 ライベが窓に腕を挟まれている間に、ベランダを抜け金網に飛びつく。そして、その上にある鉄条網を掴み登り始めた。もちろん針が刺さり出血するが、そんなこと気にしていられない。

 そうこうしている間にも、ライベが窓を突破し、ヘムカの元まで向かう。そして、ヘムカは銃を構えた。銃といってもマスケット銃だが当たれば治療して再び魔法実験に使うのだろう。

 どうにかして避けようとヘムカは登りを進める。

 そんな中、ライベも装填が完了しヘムカに向かって発砲する。幸い、弾はヘムカの直ぐ側を通過するも直接当たることはなかった。

 ライベは舌打ちをしながらも、再び弾を装填しヘムカの方へと構えた。そのとき、ちょうどヘムカは鉄条網の最上部まで登りきっており、ライベは再びそこに発砲した。今回も弾は当たらなかったものの、鉄条網に直撃し不愉快な金属音が鳴る。鉄条網の有刺鉄線が銃弾によって取れ、そのままヘムカの脚に突き刺さる。

 有刺鉄線が刺さったヘムカは、痛みにより思わずバランスを崩す。そして、ライベとは反対方向に落ちていった。

 落ちる間、下を見ると見えるのは草原。

 ああ、逃げられないのか。そう思っていると、どうも真下の草原の一部が歪んでいるようだった。しかし、落下時間は一瞬。ヘムカは考える時間もないままその歪みへと吸い込まれていった。




Q 石でガラスが一面割れるとは思えない。中世風なら強化ガラスじゃあるまいし。
A 石の質量、投げ方、速度、角度、ガラスの性質。様々なことが偶然の一致により一面割れてしまったのでしょう。

Q マスケット銃当たらなすぎては?
A 中世のマスケット銃は装填する弾の大きさもバラバラで、あんまり当たんないらしいです。
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