明確にパクっているキャラが大抵居る…………前科持ちじゃねえかよコイツさぁ。
ちなみに師匠はFateのスカサハ、勇者は雰囲気で言えばヴァイオレット・エヴァーガーデン辺り。
「…………ニルヴァーナ。俺が来るまでにこんなやつは居たか?」
「勿論、居ませんでした」
俺もニルヴァーナも、単純に言葉を失っていた。
村についたのは日が暮れるよりは少し前で、茜は判断力を鈍らせるくらいには影を伸ばし、だからこんなものを見せられているのだろうか。
記憶の限り、村に帰ったのは三日ぶりだ。もともと世相を知らないくらいあちらに篭もれるタイプだったから、これでも短い方と言っていい。
だから断言するが、三日やそこらでこんな事はあまり起きない。
【…………?】
「アイツ、知らないってことでいいな」
村の中央の井戸で、ふてぶてしく座り込んでいたのは仏像と言えば聞こえはいいものだった。俺よりも一回りは大きく、それでいてその顕になった上半身は隆々としていて、見るからにと言った感じ。
持っているのは矛だろうか。頭の仏像らしい角のような飾りに引っかかるのを頭をぐらぐらして嫌がりつつ、しかしその口元は大きく裂けたまま。アレは、もうそういう模様みたいなものなのだろう。
浅黒い肌の神。そう思うには、そのニヤケヅラはあまりに醜悪だった。
「援護します。ですがアレに魔術など通用しませんので…………いえ、貴方なら自分で理解なされるでしょう」
「言いよどむのか。君はそういうタイプじゃないと思っていたが…………つまり、未来視で見たんだな? アイツ」
返事をしない。じゃあはっきりしてる。
ニルヴァーナは何処からか取り出した、語るところもない剣を俺に投げ渡す。そう言えば物質の模倣も魔術で出来るんだったか、才能が一ミリもないらしい俺には羨ましいところだ。
とはいえ気になるところは幾つかある。
「周りの家やら人やらがバグったみたいに真っ黒だけど、これ問題ないのか…………?」
そう。
茜が暴れだしたみたいに、人や民家は真っ黒に染まっている。
まるでゲームのテクスチャ化けみたいで気味が悪い。中世ライクな転生生活に慣れていたのもあって、懐かしいと感じるのも一周回ってちぐはぐな心のズレを呼んでくる。
仏像は矛の石突きでのんびり地面に絵を描くような仕草をすると、くるくる回してこっちに構える。
やる気は十分ってか。
「様子見はなさってください。助言は、しかねます」
「未来がぐらつくと困るんだろ。分かってる、慎重に行くよ」
そう言って、蹴り出す。
ニルヴァーナは多くの彼の姿を見た。彼女の意識の向く未来、つまり世界の平和や安定と言った行く末に常に彼は居るからだ。それで関心を持って、未来視は更に引き寄せられやすくなる。
だが、やはり凄まじいのだ。その動きは。
(それが様子見なら、私達の戦いは貴方からすれば遊びになってしまいますね)
速い。人の限界すれすれの速度、それでいて迷いもない。つまり彼は体を支配しているということだ。
仏像も驚く間に彼は間合いを詰め、剣を横にしてソイツのうなじに叩きつける。
跳ね上がり、逆しまに立ち、宙に浮いたまま驚くほどの負荷をかける。それは並大抵の力加減ではありえない挙動だろう。
仏像が顎から地面に叩きつけられ、ゴキリと音を鳴らす。言うまでもなく骨折。
この動きが、恐らく戦闘に於いて一流であるニルヴァーナの倍を超える速度で行われた。そもそも、宙に浮いたまま力を入れようなどと彼女は考えないのだから意味のない比較ではあるが。
「なるほど、ちゃんと骨はある。ただ…………」
シグルドは剣をそのまま押し付けて手放すと、軽業師のように手を織り交ぜて何度も飛び跳ねて下がった。
触れていた剣は少しずつ黒く染まり、最後には持ち手まで覆い尽くした。
仏像はあっさりと跳ねるように立ち上がり、あらぬ方向に曲がった首を音を立てて手で直す。人らしい仕草だが、行っていることはおよそ人体で出来ることではない。
「なるほど、長く触れたら強制的にゲームオーバーか。ズルかよ、こりゃ単純に動きがいいってよりは世界のルール的に不利だな」
「援護します」
ニルヴァーナは端的に行動だけを伝える。
情念固定。術式確定。座標決定。入力完了。
魔術はこの四つのプロセスで発動する。
まずスピリチュアルなエネルギーを魔術に用いる魔力として適切に変換する情念の固定。
更に発動する魔術のタイプの選定。
それを適用する座標についての情報の把握と、精査。
そして実際に入力し、演算結果を現実に出力。
四つはそれぞれ一定の時間をかけて詠唱をしながら行うことが一般的だ。人のイメージや感覚は曖昧で、言葉にすることで己を縛り付けないと再現性のある、つまり実用的なものが作れはしないからだ。
再現できない技術に意味はない。工業化に走ることになる人類史を見れば明らかなことだった。
「発動、刀剣を撒きます。ご自由にお使いください、シグルド」
が、彼女は例外。
まとめて全て、一つも行う必要がない。コンマ数秒で終わった。
刀剣が辺り一面に突き刺さる。どちらかと言えば、突然湧き出てきたようにも見えるだろう。シグルドが動きにくくないようにとの取り計らいで、適切な間隔がある。
シグルドはこれを初めて見たが、狼狽える様子はなかった。ただ感心している。
「これが魔術か。凄く助かる、使い捨てていくから順次補充をしてくれ」
「了解しました、貴方が最大限力を発揮する戦場をご用意しましょう」
戦場が荒れ地を想起されるものであるとすれば、これは戦場などではないのだろう。
シグルドは刀剣の溢れる平地、という変則的な環境に即応した。
矛を即座に捨てる仏像の判断力も悪くはなかった。長物を振り回しても刺さる刀剣に引っかかる、それを見越してニルヴァーナは刀剣達の刃渡りは短めにしているくらいだ。
ただ。
「あんまりこういうでたらめに動くのは好きじゃないんだがな。俺自身も正確な予測が取れないし」
刀剣を足場に横に跳び続ける人間は、怪物より想像し難い。
拾い、蹴り出し、場合によっては足で鍔を蹴り上げて瞬間的な双剣の真似事まで。
殆ど武器が長持ちしないという状況を物ともせず、シグルドは仏像を斬り続ける。やつの皮膚が想像以上の硬さでなければ、もう何度死んでいるか分からない。
逆に言えば、敵は生物として。というと正確ではないだろうが、敵として素体が上等に過ぎる。
ニルヴァーナもシグルド程ではなくとも十分な腕だ、それが未だに肉に届いていない。
一旦距離を取る。仏像も、見た目に似合わず疲弊はするようで食らいつく様子はない。
「埒が明かない。刺突に方針変更、そうだな――――――黒ずむ前に刺した剣を爆破したり、出来るか?」
「可能です。ただし鉄などと言った広い分類で行うものなので、少し剣戟での援護が鈍ります。ご容赦を」
「いや、大丈夫。俺では出来ない芸当だし、十分助かってるさ」
笑い返す。ニルヴァーナは少し、その顔に見惚れてしまった。あんまりにも普通過ぎる。
しかしお互い構え直し、突撃。
仏像も行動の意図にはすぐ気づいたようだが、シグルドの動きは恐らく想定外のものばかり。
「これが通じなかったら捨て身なんだ! 頼むからやられてくれよ!」
足で鍔を蹴り起こし、連続で投げつける。それは仏像に垂直で、恐ろしいほど正確だ。
しかもその勢いより早くシグルドが低姿勢で滑り込む。太刀筋は三つ、しかも困ったことに仏像はシグルドの”線”は見てきたが”点”には詳しくない。
シグルドの突撃を真っ先に手で受け止めた。
が。
「そうか、ならこうするよ」
予想通りではないのだろう。ただ、シグルドは覆す人間だった。
剣をぱっと手放し、飛ばしていた一本に掌打を入れる形で――――――脇腹にねじ込む。
止めと言わんばかりにその柄を蹴って後ろに跳ねると、叫んだ。
「今だ、ぶっ壊せ!」
「――――――既に術式は終えています」
ニルヴァーナの厳かな声に答え、起爆。
規模は煙を起こすほどのものではなかったが着実にダメージを与えただろう、なにせ仏像の脇腹はクレーターでも出来たように風穴が空いている。
血は出なかったが、明らかにバランスを崩した。
シグルドは逃さない。
「さて、師匠の教えにもあるんだ。計算通りに事を運ぶな、計算以上に手を動かせってな――――ッ!」
そこらの剣を拾っては投げ、投げ。そして計十二本、そして再度突撃。
今度は更に荒業で、少し刺さるたびに蹴って突き刺す。十二本中、八本を仏像は避け損ね、五本をシグルドは深く突き刺した。
「これで決めてくれ!」
「爆ぜよ、弾けよ、そして生まれよ。汝の拍動は我が言の葉に於いて祝福されり――――――産まれ堕ちなさい」
その異様な詠唱の結果といえば、もう答えるところもなく。
戦闘が終わったという事実だけが明瞭に戦場を駆け巡った。
「村の人も建物も、一応は戻ったな。アイツのせいだったらしい」
「はい…………ですが、元通りではありません」
「そうだな。俺はこういうの手際が悪い、休みながら次に備えて見稽古とさせてもらうよ」
息絶え絶えになった俺に比べて、ニルヴァーナは大層働き者。テクスチャ化けが解けた人の中にも無論負傷者が居て、その人達に黙って治療を施していた。
とはいえ、あの仏像は大概手強かったし、幸いというべきか。村の人は大体怪我をする前に負けていた。情けないと力なく笑う衛兵の人も居たが、死ぬよりよっぽどマシだろう。俺はそう感じた。
誰でも敬語という距離を感じそうな態度に反して、村の人とニルヴァーナは割と打ち解けているようだった。水や布を取ってくるニルヴァーナの指示にもみんな大人しく従っている。
「…………慣れてるな、ニルヴァーナは。初めてじゃないもんな…………」
「そう、ですね。褒められたことではありません」
それは何というか、違う気がした。
村の人がニルヴァーナのひっきりなしの活躍に察したのか、交代を申し出てくれた。何だかんだ気の利く人達なのは昔からだ。
彼女も俺の横にへたり込むと、それはもう随分と脱力していた。
「傷を診れるということは、傷を見てきたということです。私は貴方ほどひたむきに、目の前の人だけ守れませんでした」
「あー…………最小限に抑えるために囮とか、そういう話か」
「…………」
図星だったらしい。嫌な沈黙だった。
だから余計に俺ははきはきと続けることにする。
「どっちが良いも悪いでもない。国益なら、数を考える君が正しい。単純な視野の狭い人間としては、俺はバカだが正しいかもな」
「私は…………貴方の言うバカでありたかった」
膝を抱えると、そのまま縮こまって目線があちこちに飛ぶ。
確かに俺みたいな人間というのは、偶にかっこよく見えてしまうのだろうと思う。俺はそこで変に謙虚を気取るつもりもない、実際こういう生き方をするのはかっこいいと思ってやっているのも、結構な比率であるわけで。
ただ、未来視ってやつのせいか。ニルヴァーナはしっくりこない物の見方をしている。
「じゃあ俺がバカはやっとくよ。君が出来る事は、逆に俺は全く出来ないんだ」
「褒められたものではありませんよ、こんなものは」
「君は頭が固いな。そこが師匠に傲慢って言われた所だと思うぞ」
ニルヴァーナが顔を上げると、少し驚いた様子を見せる。何だ面白い顔だった。
気持ちが分からないかと言えば、分からないんだが想像は出来る。
この子は未来視にとんでもなく振り回される自分が嫌なんだろう。結果が見えるから、結果を良くするやり口も見える。
それ自体は良いんだが、そういうことばかりをすると眼に振り回されているだけのように感じるかもしれないというのは、分かる。
俺も占い師の適当な言い草に振り回されてるかは不安だったし、そこで何かを見失ってないか? みたいな事は割と考えたほうだ。
「君のやり方はそれで良いんだ。そういうのはそういうので、嬉しい人が居るよ。まあ、恨み言とか言われると自信なくなるだろうけど…………」
つい誤魔化しで頭をかいてしまった。
まあ、だってな。カッコつけはキャラじゃないんだ。
「そういう時は、取り敢えず俺が今君を信用していることでも思い出してくれ。俺は君の考え方や、提案ってのが必要だ。ニルヴァーナまで俺みたいな考え方したら、猪突猛進のバカコンビになっちゃうだろ?」
「そういう、ものでしょうか」
さあな。知らん。
ただ、俺はそう思いたいからそう思っとくのさ。
彼女にはまだ出来ない、不格好なわがままだ。きっとこんなろくでもない言い草、出来なくても大丈夫だけど、困ってるなら俺が変わりにわがままを言うしかないよな。
「そうだ。俺はそう思うことにする、だから頼むよ」
「…………はい。そうしますね、シグルド」
俺を湿っぽく見つめるなり、安心したように子供のような笑顔が零れていく。
微妙な間が置かれて、俺はかなり恥ずかしかったし顔が赤かったような気がするが、夕陽は誤魔化してくれただろうか。
腕に隠れたニルヴァーナの口元が気になって仕方ない。
休憩はもう、マトモに休憩の体をなしてくれなかった。
匿名は長続きしなかった時に言い訳がつくようにだったんですけど、読まれてるとやる気が出る浅瀬作者だし匿名外す。外した(過去形)。
未来視の話題は読者も思う所あるみたいで面白かったな~。
私の率直な意見としては、ニルヴァーナは鼻につく女。数字だけで人の人生のやりがいだとかに口出しするのは、ムカつく物言い。初対面の本人に向かっていうのは、嫌がらせのレベル。
頑張ってるとも思うので、全部悪いとまで思わないけど。どうあれ努力して、今回もシグルドを助けてるんだから、そんな傲慢も時には必要。
そんな感じ。
アリアに関しては話の運び的に良くなかったなと反省中。まあどうしても説教くさい人なのが裏目に出たね…………。シグルドに甘いのが例外、アレは弟子の中でもやばすぎるらしい。次回あたりに掘り下げまーす。
キャラ語りは好きなので話題振るとめっちゃ喋っちゃう。キモかったらごめんよ。
作者が言うと答えみたいだけど、この作品の限界ヲタクの戯言ぐらいで聞いてくれ、頼む。