ちなみに、割と言動について突っ込む感想は嫌いではない。疑問を持つのは読んだ証拠です。私の腕の至らなさ、読者との相性の悪さ、もしくは単純な面白さとして疑問は出ようもの。ただ…………私の場合は自分で想像を巡らせてるほうが楽しいかな?とは。
後地味にラブマシーン出したのに誰も気づかなかった。やっぱサマウォ、古いのかな…………。
――――漠然と進んでいる。
道は無い。俺が進んだ、俺が歩いたから道になった。勇者の要項の一つは、木々をかき分けて道と言い張る勇気にもある。
多くの人の笑顔を見た。子供が笑っている。大人もだ。俺の手を握って、笑いながら泣いてくれている。
俺は褒められる。持て囃される。救われる。何となくばかりで擦れた心に、感謝は残念なぐらい染み渡る。
そして、死体を見る。
犯されて死んだ女を見る。
賢明で優しいゆえに死んだ衛兵を見る。
まだ何も知らないはずだった、子供の死体を見る。
魔物が命乞いをしていた。人が何でも取りすぎているのだと。これでは我々が飢えてしまうのだと。連鎖の中で、人だけが奪われて憤慨し、暴れるのはおかしなことだと。
神が問いかけた。お前の旅路は、ただの屍山血河を産んだだけではなかったかと。
ぼろぼろの俺は、それを認めた。
”これは勇猛さじゃない。ただ、人間本位を体現した化け物に変わる儀式だった”
俺は笑って言っていた。途中から気づいていて、やっと言ってもらえたと感じたのだと思う。
何かを余分に助ける、なんて都合のいいものではなく。俺はただ人間の都合のいい世界を作る為の装置で、それはいわゆる人間の愚かさの象徴になったらしい。
別に構わなかった。
俺が罪状を表すものなら、他の誰が責められたか。俺だけで済んで、それはとても幸運なことだった。
「それは違います、勇者様」
女が言った。涙ぐんでいた。普段そんな顔をしない女だと聞いていたから、大層困った。王女というのは、いつから泣き虫になったのだろうか。
泣くなと言って、背中を擦って、どうすれば良いと問いかけた。
「貴方が満足しても、私は悲しいのです。こんな結果を私は認めない。間違っています」
間違っている。
聞き飽きた言葉だ。もうそれでいい。
その数日後に、俺は絞首台に立った。俺を見つめているのは民衆ではなく、見たこともない無機質な美男美女共で、俗に言う神というやつなのだろう。
俺はやり過ぎたらしかった。
神が問いかける。
「貴方の在りようを、我々はただ卑下しない。それは人の単調な評価基軸に過ぎないが故に、我々こそはその自己犠牲を否定しない。しかし、何故?」
何故。
そうだな、何故だったかをその時の俺は忘れていた。
ただ。
”別の人の為じゃなかった。不器用だっただけで…………俺は何かをやり抜いた、つまらない物語の主人公に、ずっとなりたかっただけだろう”
無表情なやつらの顔は、憐れみを持っていた。
――――――ここで気づいた。
これは夢だった。俺の長い長い夢で、知らない女が終わらせた最悪の結末。死体が多すぎて、俺はおかしくなりすぎて、世界は厳しくなりすぎて。
どうにも居心地の悪い一つの終わりだったのだろうと。俺は遅れすぎたヒーローだった。
「この結末は、あまりに酷い。現象に成り下がった我々神ですら、貴方の在りようを悲しく感じるほどに」
そりゃあ光栄だ。悲劇のヒロイン気取りも楽になろうものさ。
そんな心持だったらしい。
「こちらを過去から”視た”少女が居ます。彼女は立ち上がり、貴方を消し去るでしょう。私の写し身ではありましたが、とても的確で感心します」
”ははっ。俺の努力は無駄だって? 辛いねえ”
神々の一人。
白髪に赤い目の、如何にも神秘的な女。リーダー格だったのだろうか。
ソイツがたおやかに微笑んだ。
「いえ。貴方がそうであったが故に、人々はもう一つの道を得た」
”俺は知らないんだろうけどな”
「えぇ。知らない、それが貴方の最初の望みだったのですよ、シグルド。いえ、■■■■」
生前の名前だった。神というのは、何でも知っているということらしい。
俺はその時何を思ったかって? 結構分かりそうなものだけどな。
”それは嬉しいな。良かったよ、俺もそろそろ休めそうだ”
「そうなさってください。おやすみ、勇者シグルド」
ただただ、良かったと思った。
別に人が多く助かるとかじゃない。そういう高尚な気持ちは、この人生で何度も言ったようにほとんどなかった。
俺の偉業は、運命すら変えたらしい。
達成感だったんだ。それは。
「誰もが忘れても、私は忘れない。大丈夫、無駄ではない」
首が絞められた。
その母親のような、心からの柔らかな口遣いに。
俺は事切れる間際まで安心していた。
「お前だけで戻ってくるとはな。弟子が無理な気遣いで無理難題を言ったと見える、すまなかった」
「いえ。私もアリア様とは、一度ゆっくりとお話をさせていただきたかった」
この子供は、見ていて私が疲れてしまう子供だった。シグルドも大差はないが、問題なのは私が放ってはおかないという所。
未知の魔物と聞くからには急ぎで行きたかったが、ニルヴァーナは明らかに疲れている。本人も自覚が薄いようだったから、何となしに家で飯をよそいでやった。
鎧も脱がずに食べる姿は、確かに嫌な戦い慣れをしている。日も落ち切った中、泥だらけでやってくるには恐ろしい立ち姿だ。
「すぐに先達気取りになる悪い癖があってな、”ぷらいべーと”に切り替えさせてもらうぞ」
「ぷらいべーと?」
「個人的な時間、という意味の俗語だと聞いたぞ。シグルドが言っていた」
人里では割とありふれた言葉づかいとか言っていなかったか。やつめ、問いただす必要がありそうだ。ニルヴァーナは明らかに初めて聞いた顔をしている。
「さて。村に見たことのない魔物が迫ってきたと言っていたが――――見覚えはあるのだろう、ニルヴァーナ」
「返答はお控えします」
嘘の下手な娘だ。大方、王家でのおためごかしも上手く出来ないような、あまり貴族向きではない人柄なのだろう。
食事も速かった。貴族は流暢に喋りながらというのが多い。というより、そんな最低限の生活すら交渉の道具になってしまいがちという所だが。
現国王は、かなり無理をしてこの娘を普通の子供として育てたように感じる。それが、いらないズレを作ってもいるが。
「不死の槍兵。朱槍のアリアは旧き神の一柱すら穿ち殺し、呪いを受けたと聞きます。村に滞在なされていないのは、それが理由でしょうか」
「その通りだよ。私の不死は決して水が湧き上がるような恵みではない、私が死から遠のくために、傍に寄る全ての力を根こそぎ奪い取る」
私が老いない代わりに、周囲の者は衰える。
私が死なない代わりに、周囲の者は傷を負う。
神にかけられた不死の呪いは、不死ではなく責任転嫁を源流とする等価交換の魔術。魔術が広まってきたとあれば、これも解ける日が来ようというものだが…………しかし神の術。まだ遠いだろう。
此処は草木が多く、動物も含めて命が豊かな山だ。他種には申し訳ないが、人よりはそちらを犠牲にするほうが私には気が紛れる。
シグルドも、ここで鍛えた七年程。恐らく余分に老いている。草木を吸い上げてもいるだろうから、七年を押し付けたとは行かないだろうが。
「残酷な呪いですね」
「そうでもなかろうよ。この呪いのおかげで私は不必要なほどに世界を見続け、どんな物も我々と同じように育まれていると学んだ。何より、お前のような眼を持つ人間を見分けられるのも、この捻れた生涯故だ」
「ですが、別離は誰しも辛いものです」
そうだな。
それは否定できそうもない。弟子は幾つか取った。死を看取る時は、いつも己が八つ裂きになるよりも胸が痛む。
私が表に立てれば良かったのにと。だが、今の私が前に出ることは、私が背負うこととは別だ。
この手で平等に誰かに押し付けるようになるだけ。何の益もない。
「ニルヴァーナ、と名乗ったか」
「はい」
「これは年寄りの小言だが…………思いやることと推し量ることは違う。事実私はこれを何もかにも肯定するほどの老成はしなんだが、お前が外から言ってしまうと意味が変わってくる。そう頑なに気持ちを割く必要はない」
「…………怒っているのですか?」
参ったな。シグルドにも最初はそう言われた。
そういう訳ではない。思わず頭をかいてしまう。
「そうではない。ただ、不幸にも我々には則るべき心の形がある。その一つが、頑なにならない事なのだ。我々は安定していない、安定しようと凝り固まると生命まで削がれていくように出来ている」
「つまり?」
「私がそうでもないと言ったなら、そうなのだろうかと考えてみて欲しいという話だ。同情と決めつけは異なる、ましてや行動に移せば人を灼くぞ」
思いやるという事は、生き物の機能の中でも特筆される評価点だとは言っていい。
しかしシグルドもそうであるように、ニルヴァーナは少々迂闊過ぎる。
正解などにはなれない。他人など、自分にはまるで分からない。だから粗雑な当て推量で喋っていかなくてはいけない現実に、変に慣れすぎてはならない。
自分には分からないのだろうと、思うしかないことが確かにある。
「お前はその瞳を理由として、様々な明白な結末を見てきたのだろう。シグルドの生涯というのも、傍から見てもっと酷いものだったのかもしれない。それを憐れんだにせよ、尊んだにせよ、誰かに活かされたことは師として誇りでもあるし、お前にも感謝している」
意外そうだった。当然、そんなことは普段ならわざわざ口にしない。
好かれる必要がないからだ。
師とは厳然と置かれた石像のようなものであると私は捉えている。今の自分にはどうしようもない、重いだけだが、しかしどうにかしなければならないもの。
そこに気づかいや親しみ深さがあっても困る。もっと平たく言えば、ある程度嫌なものが師匠だとか、先達なのだ。
「ただ、現実を見てきたからと、それだけが人の心中や、自分ではないものの全てを決めている原因だとは思わないでくれ。そういう者を、私は何度か刺し殺した。ニルヴァーナがそうであるとは思わないが、しかしあの日のそれらは国賊と言われて仕方のない振る舞いだったのだ。それは、やはり悲しいことだ」
「悲しい、のですか」
「私はな」
率直な疑問にはつい口が滑る。
語りすぎる老人は嫌われるとは、思っているつもりなのだが。
――特殊な眼を持つものは、それに人生を壊される。そればかりは何度も見てきた。特に私が逸話を残した神の立つ時代には、それは多かった。
傲慢になりさがる者、正しさに囚われ人らしさが崩れた者。どれも、あまりに酷かった。
「お前が心底、人に何かを感じ取る豊かな娘だというのは、流石の老人にも分かるさ」
「初めて言われました。お前には人の心がないのか、と旅先でも――――――城でも言われてきたもので。計算だけで動いているようだと」
馬鹿を言え。だが、未来視というものに確信を持てなければ、この娘は冷たくも見えてしまうのだろう。
これは、自分が損をしてでも他人を取ってしまうだけだ。本気でかわいそう、などと感じるのだ。
諸刃の剣。まさしく、硝子細工の魂。
「それならシグルドを連れ歩いた。最善はそれだ、違うか?」
「それは」
「だからお前は、ああだこうだと言って自分以外を巻き込むのは恐れている。それが人の心でないなら、何だ?」
そう思えば、私の忠告は無駄だったかもしれない。
自分が殺した数を、この白子はよく分かっている。
「人の心がある以上は、勇者だろうが農民だろうが私はさして違いなどないと見る。だからこそお前に忠告をしよう。何かを覆したのだ、良く出来たのだと自分で感じるべきではない。お前がしたのはあくまで、他人に出来ない選択だ。より良いものなど、世界が全て終わる日まで誰にも答え合わせが出来ない」
「なるほど…………」
「逆に言えば、その点で言えばよくここに来た。お前はもう、十分不理解に晒されてきたろう。止まることを責められない環境下で、尚お前は一人で立っている。護衛が居ないということは、大方お前の言い分を誰も聞いてなどくれなかったのだろう?」
ニルヴァーナは俯いて黙る。事情を話せないのだから、あちらとしても動けないのは理解も出来る所だが、事実としてそういう形になっている。
「別にそれが愚かなどと、人を卑下するだけの考え方はしない。私は今、お前だけを見ているつもりだ。ニルヴァーナがどういう扱いを受け、何を感じただろうかということしか考えていない。無論、その原因になった人間の良し悪しなど考えないとも。そんなことは私に決められないからな」
「分かりやすく仰ってくださるので助かります。そういう意味であれば、私は慣れていますからお気になさらず」
それが良くないのだろうが。
思わず視線を鋭くしてしまって、ニルヴァーナがわずかに動きを止めてしまった。
「シグルドにもこれは言っているが、
言葉が固まってしまった。余計なことだと、自分で思った。
ただ、この二人はあまりにも…………耐えてしまいすぎる。
七年を賭けた人生を、あっさりと無意味にされてしまって憤らないものか。誰もが笑う中、一人で世界を相手取ることが楽な道のりなものか。
どれも険しいものだ。気にしないというには、どちらも人の事を思っている。本当に無関心なら、私はもっと他人行儀に喋るだろう。
私は勝手に心配する。その点、この娘を傲慢と言えるほどのところはないな。
「本当に大丈夫なのですよ、アリア様」
「そうなのかもしれんが、それこそ一方的に言っておきたいこともある。膝をつく他ない時に、誰の言葉も思い出せない生き方は…………私が見ていて心を痛める」
「そう、ですか…………」
勝手な言い分だ。
それを認めていれば、それで良い。
その上で聞くものが居れば、尚良い。
「まあ、老人の戯言だな。お前に傲慢と言えることもない、私だって勝手にこういう事を言う」
「それを認めていることが重要、というお話だったように感じましたが」
物分りが良いのは困るな。
「さて。私が村の護衛にしばらく回ったほうが良いだとか、そういう話をする心づもりだったのだろう?」
「よくご存知のようで。やはり智慧も朱槍に相応しい」
口が随分うまい娘だ。
「世辞はいらないよ。ただ、引き受けよう――――――シグルドも安心して発てない」
「それもその通りです。申し訳ありません、こちらの都合で」
別に、それは気にしていない。
「それは構わないが、そうだな…………一つ言っておく」
「はい?」
「状況に事欠いて色気づくなよ」
これは割と真面目に言っている。
色々ろくなことにならない。後困る。
「ダメですか?」
「は? こんな堂々とした女狐に狙われているとは思わなんだわ、良いか悪いかで言えばダメだが?」
「そうですか。まあ関係ないですけど」
「…………ええい。好きにするがいい、強情な娘だな」
無表情のくせに、何故か私は笑われている気がした。
ニルヴァーナを勝手にTOARISEのシオンのようなビジュアルで考えているが、アルビノなら絶対違うと思う。
この物語のイメージとしてあるのは「一人の英雄を踏み躙った世界」という感じで、未来をかき消したとかって表現もそこに滲んでる。
それがいい結果じゃなくても、彼がやったことより自分のほうがベターである。そんな決めつけを感じる結果の書き換えが、事実起きているというのがベース。
あーあと、キャラのアンチ・ヘイトを含むニュアンスの感想。私は正直「まー人なんだから好き嫌い有るよ、で何処嫌いなんすか(食い気味)」って思えますけど、投票見れば分かる通り荒れるので。楽しく見れるようにちょっぴりの配慮をお願いしますね。