東方翔霊録ーЯe:bootー   作:来翔

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来翔です。
今回も更新が遅くなり申し訳ございませんでした。
ずっと日常回なので、そろそろマンネリも出てきそうですね。

では、本編をお楽しみくださいませ!


僕は居てもいい

「僕は……家に帰りたくないんです。家というか……()()()がいる世界に帰りたくないんです。遠くにいてもまるで見張られているようで」

「……その人について聞いてもいいかしら?」

「別に悲劇の主人公の気分じゃないので話しますよ。ここなら……あの人の視線も感じないから」

 

翔聖はゆっくりと続けていく。

 

「父親にあまりいい扱いをされてなくて。まぁ、俗に言う虐待……みたいなものですね身体的な虐待はなかったんですけど……何をやるのも否定されて貶されて……もう慣れましたけど」

「……そう、大変だったわね。でも、理由も無しに虐待をする親はいないと思うわ。理由とかあったのかしら?」

「理由ですか……多分それは母さんの死ですかね。あれから父さんは人が変わったようになりましたからね」

 

その先から翔聖は続けることはなかった。話してくれた彼にも言いたくない先はあるのだと紫は察すると、これ以上踏み込むことは無かった。

 

「貴方の事を聞いた上で問いかけるけど、翔聖君は安心が保証されている外の世界にいるよりは地獄になるかもしれない幻想郷で暮らしたいかしら。選択肢によっては私の援助も考えてあげるわ」

 

紫は問いかけるが、彼の答えはわかっている。選択肢もわかっている。だからこそ、彼の口から答えを聞きたいのだ。

無論彼が()()()()()のを気づいていても。

 

「僕はここにいたいです。あっちに戻ってもいつ終わるかわからない地獄に住むよりは明確な地獄の方がいいです。それに、同じ地獄なら縛られた地獄より縛られない地獄の方がいいです。まぁ……帰れと言われたら帰ります。流石に霊夢や紫さんに迷惑をこれ以上かけることは出来ませんし。あと数年耐えれば家を出られると思うからそれまで耐えます」

「そう……分かったわ。ここに暮らせなくなっても安心して暮らせるように秦羅にも頼み込んでみるわ」

「いいんですか?本来居てはいけないのに」

「あくまでも問題が解決するまでよ。()()()()()()が片づけば貴方を帰すことを優先させるわ。質問の意味は貴方の起こっている問題を()()()にしてもいいのかということの確認。何としても帰りたいのであれば現時点の問題よリも先に帰したわ」

「そうですか……」

 

紫の言葉に、少し肩を落とす翔聖。彼からすれば上げて下げて落とされた気分だ。だが、翔聖は紫の考えは全く持って理解できないものではないため返す言葉はなかった。

紫もできれば助けてあげたい気持ちはある。だが本来幻想郷に招かざる存在である彼を快く思わない連中も出てくる。その連中が手を出す前に、幻想郷とは無関係の翔聖は時間をかけても帰さなければいけないのだ。幻想郷と彼を守るために。

 

(翔聖君は逃げられる状況にあっても父親の見えない鎖が縛っている。これにより感覚が麻痺してきて逃げるチャンスすら逃している。こんな壊れている彼を見す見す帰せば本当の地獄が来てしまう。それどころか逃げる道を誤って最悪の結末にもなりかねない。もし、翔聖君が()()になれる人間であれば救えるかもしれない。もし、そうなれば()()も翔聖君も両方救える道ができる)

 

紫の思念顔に翔聖は、小首を傾げつつそれをみていた。その視線を感じた紫はニコッと微笑み返す。

 

「何でもないわ。ほら、そろそろ寝ないと寝坊して霊夢に怒られるわよ?明日から秦羅のところに行くのだったらはやく行かないと彼の朝は早いから出会えないかもしれないわよ?」

「そうですね、ちょうど眠くなってきたし……あ、そうだ。一つ聞いてもいいですか?現段階の問題って何ですか?何か起きてるんですか?」

「起こってないと言えば嘘になるけど疑惑の域を出ないわね。でも翔聖君は関係してないから安心して過ごしなさい」

 

なにやらはぐらかされた気がしたが、実際問題何かしてない自分が気にしても意味はないので暫くは頭の片隅に置くことにした。

 

「わかりました、ありがとうございます。じゃあ寝ますね、紫さんもゆっくり休んでくださいね。おやすみなさい」

「ええ、おやすみなさい」

 

紫は翔聖に挨拶を済ませると空間に切り目 スキマを作りそこに入っていく。その光景に慣れない翔聖はドギマギする中、物音を立てないように彼は霊夢たちが眠る部屋へと戻る。

霊夢たちの方に耳を立てると寝息が聞こえたため外で会話していても起こしていないと安堵すると布団に戻る。

だが、霊夢は翔聖が外に出たタイミングで起きており紫との会話を聞いていた。今も彼が戻ってきたので寝たふりをしている。

 

(なるほど。翔聖と食事の時に言ってた慣れってのはこういうことだったのね。虐待を与えている相手と食事なんてしたくないわよね。でも翔聖からはそんなものは感じなかった。その理由はきっと慣れか。長年され続けてきたことが積み重なってそれが日常となったことで苦しいけどそれを表に出すことはしないのね。助けを求められないのか、助けを待つのかは定かじゃないけど時間はかかるわね。仕方ない、翔聖を人里に住まわせるのは暫く先にするしかないわね)

 

と霊夢は心の中で思っていたとか。

 

翌朝、雀や人里の鶏が鳴き始める時間帯に霊夢はその音で目が覚めた。

あうんや翔聖を見やるとまだ寝ていた。2人を起こさないように霊夢は布団から起き上がると、顔を洗いに井戸まで足を運び顔を洗う。

そんな彼女に迫る影。

 

「朝から何の用なのよ、紫」

 

後ろも見ずに霊夢は後ろにいる人物を言い当てる。

 

「あら、バレちゃった」

「気配で分かるわよ。少なくともアンタみたいな奴なら隠しても分かるわ」

 

言い当てられた紫は、にこやかに笑いながら霊夢に近づく。

 

「で、要件は」

「急かさないの。翔聖くんについてよ。深夜の時話聞いていたんでしょ?」

 

今度は逆に霊夢が言い当てられた。いつ気づいたのかは分からないが、笑顔から察するに翔聖が戻ってきた時に覗いていたのかもしれないと霊夢は思った。

変に誤魔化すのも面倒なため、そのまま頷く。

 

「いつまで置いておくつもり?長期間は置かないと思うけど」

「少なくともアイツが父親からの鎖に解放されるまでは置いておくわ。あのまま外に放り出したらなにが起こるか分からないわ。秦羅は気が回らない奴じゃないから気にかけてはくれると思うけど、私と比べると一緒に居られる時間は少ないから。何かあってからこれても面倒だし」

「それは同情かしら?まぁ、確かに()()()()()()()()しね。気にかけるのも分からなくはないわよ?」

「一緒にすんじゃないわよ」

 

紫の言葉に霊夢は、少し強い口調で反論する。対する紫は特に反応することなく笑顔を崩さず霊夢をみている。

 

「アイツと一緒にしないで貰えるかしら。同じ苦しみでも翔聖の方が苦しいわよ。実の親から愛情を貰わないのは辛いわ」

「随分と肩を持つのね」

「少なくともアイツは自分は不幸の人間ですってオーラを出していなかったわ。少しでも自分は不幸ですみたいなオーラを出して、他力本願で退行欲求のコントールの出来ないガキンチョみたいな奴なら、ここまで手を貸すことはしない」

「霊夢らしいわね、よく彼を見てるわ」

 

翔聖は小言を言ったが、助けて欲しい逃げたいなど決して言わずに立ち向かっていった。

無論彼の精神面が強固ではなく感覚の麻痺から来ているものではあるが。

紫もその点は見てて思った。

 

「霊夢は、彼はここに居ていいと思う?」

「いつか自立して貰うけど、もちろんよ。まだ1日しか経ってないから決めつけるのは早計だけど接してて嫌な奴じゃない。手を貸したい奴、そんな気がするわ。だから居てもいい。私はそう判断するわ」

「そう……わかったわ。でも、有事の際や今回の()()の原因が彼なら……」

「分かっているわ。その時は私が何とかするわ、博麗の巫女として。だからこそ、責任は私が持つ」

 

紫は霊夢の真っ直ぐな目を見て優しく頷く。嘘をつかない霊夢だからこそ出した答えならばと紫は信用する。

無論翔聖がそのような人物でないのは、昨日の時点で彼の行動を見てどのような人物かはある程度把握している。

だが、もしもということがある。なにもなければそれでいいが、あってからでは昨日の紫の思惑通り翔聖が危険な目に遭うかもしれない。もっと最悪なケースは博麗の巫女である霊夢の身に何かあることだ。

これらを防ぐために、翔聖には必要最低限の警戒をしなければいけないのだ。

 

「分かったわ、あとは霊夢に任せるわね。一応秦羅にも共有しておくわ」

「ええ。そういえばアイツはアレを把握しているの?」

「今調べてもらっているわ。分り次第伝えるわ」

 

紫jはそう言うとスキマを作り、そこに入り姿を消す。

残された霊夢は欠伸をすると顔を洗い直す。

 

この一部始終を知っているのは霊夢と紫だけではなかった。

紫と霊夢の会話を聞いていたのは、話す声で起きた翔聖だった。

そんな翔聖は涙を流していた。なぜ泣いているかと言うと本人にも分からなかった。確かなのは、霊夢の言葉だった。

ここに居てもいい。たったそれだけが嬉しかった。

父親にぞんざいに扱われ、それを相談しようにも父親の事がフラッシュバックになり心の奥にしまい続けた。

自分は居なくてもいい。心の奥で翔聖は自分も知らない間にそう思っていた。

だが、霊夢はそれを否定してくれた。翔聖や誰かから頼まれた訳でもなくて霊夢自身が出してくれた答えに翔聖は無意識のうちに涙を流した。

 

(ありがとう、霊夢。君の期待に沿えるように僕は頑張ってみるよ)

 

翔聖が涙を拭っていると

 

「あら、翔聖起きたのね。おはよう、よく眠れたかしら?」

 

気配を察した霊夢が振り向いた。涙を拭うタイミングが良かったのか拭う仕草が目を擦っている仕草に見えたのか泣いているとはバレなかった。

だが、駆け寄られた際に顔を覗かれ

 

「目赤いわよ。たくさん擦ったりした?」

「あ、うん。起きた時に砂が入ったみたいでさ。擦ったね」

 

泣いてると言うと余計な心配をさせて迷惑をかけるし、話を盗み聞きしていたと知られたら何をされるか分からない。翔聖は誤魔化した方が安全だということを察し誤魔化した。

 

「……僕なりに頑張ってみようかな」

 

顔を井戸から汲んだ水で顔を洗うと、今日から始まるであろう事に挑戦しようと彼は気持ちを切り替えた。

小さな1歩にはなるが、翔聖の進むべき可能性の1歩にはなった。

 

……To be continued

 




ありがとうございます。
今回は翔聖君の過去が軽く出ましたね。一応何故このようになったかは、おいおい分かりますのでその時をお楽しみください。
旧作と違うのは、彼がここに居る理由ですね。旧作は家出なので帰ろうと思えば帰られる理由でしたね。

では、次回の更新をお楽しみに!
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