シャルロット・コルデーに聖杯を貢ぎたい……お淑やかな服の下でははちきれんばかりになってる才能を丸出しにしたい……そう思ったとき、既に行動は完了していた(理性蒸発)   作:夢見る人・夢描く人

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シャルロットが好きだ―! 大好きだ―!


ロクでなし魔術講師と恋愛妄想(エロトマニア) 四話 恒例行事:学生時代の妄想

 ゆさゆさと体を揺するその揺れが心地よくて、ぼくはさらに眠りを深める。果実が腐っていく速度でベットに沈みながら、ぼくは惰眠を貪っていく。

 

 ――起きてください。マスター。

 

 心地の良い声が耳に届くのを聞いて、僕は渋々目を開けた。薄めだが、ぼんやりとした視界でも彼女を見間違えることは無い。

 

「……ぁに?」

 

 何? と聞いたつもりだった。

 だけれど、粘つく喉は少し狭くて、言葉が掠れてしまう。

 

「朝ですよ。起きてください。ふふっ」

 

 全く、朝は飛び切り弱いんですから、と小さく声が聞こえた気がした。幻聴かもしれないが、実際に聞こえたのかもしれない。だから、掠れた声で反論した。

 

「シャルロットが、朝に強すぎるだけでしょ……」

 

 幻聴だったところで、寝ぼけていたと判断されて奇異の目では見られないだろう。

 そのままくわぁと欠伸を打ち、上半身を起こして背伸びする。ぼさぼさの頭を掻き回すと、ベット脇で微笑むシャルロットに半目を向ける。

 

「おはよう」

「はい、おはようございます」

 

 ニコニコと上機嫌な姿を見て目を逸らす。布団から足を出して床に足をつけると、足裏から伝わる冷気で目が覚めていく。冷たさが染み入る様に、足はすぐに寒くなる。

 そろそろ断熱材でも作るか、と一人ぼやいて立ち上がった。ベット脇のサイドテーブルには、昨晩遅くまで弄繰り回していた歯車細工が置かれている。

 

 それは、【グラビティ・コントロール】の影響下でも問題なく扱えるように試行錯誤している試作品だ。当然未完成であるが、完成した暁には一個単位で六桁の取引が確約されている。ベルトは別に要らないらしい。流石にそれは向こうで作るのだろう。

 風が吹けばごちゃ混ぜになりそうなそれを適当に鷲掴みにし、傍の木箱に納める。綿の敷き詰められたそれは、細かい部品を傷つけることなく歯車やバネなどの細かい部品を受け止めた。

 

「じゃあ、いこう。朝は何だ?」

「行きましょうか。朝はベーコンエッグとトーストです」

 

 ベーコンエッグ、卵か。卵料理が好物な此方としては、嬉しい朝食だ。

 

「……ん?」

「どうしましたか、マスター?」

 

 いや、と返して小首を傾げる。

 何かこう、妙に体が軽い。半徹夜明けの体調じゃあない。

 

 ……まさか。

 

「シャルロット?」

「はい」

「…………いま、何時?」

 

 絞り出すようなその言葉に、シャルロットはとても良い笑顔で遅刻確定の時間を告げた。

 

「――――」

 

 妙に思考回路がまっさらになって、呆然として。

 とりあえず、ゆっくりご飯を味わおう。そう考えたのは、完全に諦めからだった。

 

 

***

 

 

 いつもより早く流れる街並みには焦りの表れだ。気を抜けば速度の落ちる足に鞭を打ち、意識して駆け足を維持して――

 

「空が青いな」

「そうですね」

「今日もきれいだ」

「きれいですね」

「……あー」

 

 ――それでも、死んだ目で遅刻を確信する。

 

 脳の片隅で『いや、ワンチャンあの講師が遅刻している可能性も……』と囁く声を聴いた。

 それは無いだろう。グレン先生は確かに不真面目な人だが、授業に関しては一切の手抜きをしていない。あの日から。だから、それはたぶん、ない。

 

 言ってて無性に悲しくなってきた。

 

「……遅刻だな」

「遅刻ですねー」

 

 暢気だな、とその返しを聞いて思った。もしかして今日は休日なんじゃ、と思ったがしっかり補講日である。ばっちりきっかり記憶に残っていた。

 横で歩くほのぼの娘には、どうにも焦燥感が欠けているように見受けられた。もしかして単位が欲しくないのだろうか。思えば制服も似合っていないし、そもそも戸籍上の年齢も本来は――

 

「マスター、それ以上はいけませんよ?」

「あ、はい」

 

 ――アサシンに『直感』スキルってあったっけ?

 

 冷や汗を掻くのを感じながら、目を上に逸らす。今日も今日とて空が青いなぁ。あ、天空の城だ。相変わらず輪郭がぼやけて半透明だなー。ははは、鳥が飛んでらぁ。なんて種類だろ。

 

 道行く人の姿を尻目に歩く道は、普段朝早くに起こされて歩いているからこそ違和感を抱かせる。店が開き、客引きの声が飛び交って、人の熱が街に満ちる。血が巡り始めたように騒がしくて、少し安心感を覚える。

 幾ら安心しても、遅刻は遅刻だが。

 

 街中を早足で駆ける僕らに、視線が集まるのは自然なことだ。学院の制服、駆け足。それ以上にも、シャルロットの存在が人目を引いているのだろう。周りに美人が多いので忘れがちだが、シャルロットも割と美人なのだ。

 つくづく目が肥えてきていると感じた。シャルロットの風貌が普通と感じるなら、自分の顔は何なのか。ドブか? 土砂崩れか? 鍬で滅茶苦茶に掘り返した畑か?

 

 知らず知らずに吊り上がった醜い笑みに、自嘲の味を感じ取る。

 

「マスター。……マスター?」

「……ああ、なんだ」

「これじゃあちょっと間に合いそうにないので、スピード上げますね」

「スピード上げるって、全力疾走か? 此処から学院迄どんだけあると――」

「――いえ、私が抱えて走ります」

「は、え、ちょ、まっ――」

 

 風が吹き荒ぶ。景色が横に流れていく。ふわふわした四肢と、きゅうと縮まる丹田。緊張で硬直する首の疲れは、理性を取り戻す。

 辺りを見て、シャルロットを見上げ、自分の足下を見下げて。

 成程。

 

 僕、シャルロットにお姫様抱っこされてるわ。やだ男前、って阿保。

 

「し、シャルロット……?」

「はいっ、何でしょうか?」

 

 心成しか生き生きとした笑顔。いや、心成しじゃないわ、すっごい生き生きしてるわ。輝いてる。眩しい。

 

「なんでお姫……横抱きにされてるのかな?」

「私がマスターに『お姫様だっこ』して欲しいからです」

「うん、繋がってないね」

 

 えーっと? わざわざ人が濁したところをはっきり言ってしまったことへ抗議するのが先か、そもそも前後関係の繋がらないセリフの真意を知るのが先か。

 と、思ってたらシャルロットが自分から話しだしてくれた。

 

「良く『愛されたいなら愛しなさい』っていうじゃないですか」

「うん、よく言うかどうかはさておいて、割と耳にするフレーズだね」

 

 日常会話で使われたこと、一度もない言葉だけれど。でも聖書の朗読とかには出てきそう。

 

「それと同じです。『お姫様抱っこされたいのならば、まずお姫様抱っこしなさい!』ということですっ」

「ごめん、なんでこのタイミングでその理論持ち出してきたのかが分からない」

 

 だって、僕を抱き上げて走ることと、お姫様抱っこされたい、というのはイコールではないじゃん。

 どっちの理由でも僕をお姫……横抱きにする結果につながるけど、理由は違うじゃん。そこに立った時点で、大体理由も察したけど。

 というか、その程度言ってくれればするのに。今みたいに急いでる状況じゃなければ。

 

「あー、うん。……本当にこうしなければ間に合いませんか……?」

 

 やめて欲しい。あちこちの視線が痛いから。

 そんな切実な願いを込めたセリフは、吹き付ける風を浴びて心地よさそうに目を細めたシャルロットの――

 

「間に合いません♪」

 

 ――という、実に上機嫌そうなセリフで切り捨てられるのだった。

 

 明日からどんな顔して礼装売りに出せばいいんだろうか。あの世界、嘗められたら足下見られて値切られるんだよなぁ。大抵どの世界でもそうだけど、フェジテのブラックマーケットじゃあそれが顕著に出る。

 すでに一定の需要があるから、捨て値で買われることだけは無いだろうけど……なんて、そんな現実逃避をしていると、いつの間にか校門を過ぎ、学院内に入ってきてしまっていた。

 ということは、少なくとも警備員にもこの姿を見られたということで。というかよくよく思い返せば『おい君』だの『ちょ、待ちなさ――』とか言った声が聞こえた気がしないでもない。

 だいぶまずいのではないのだろうか。と冷や汗を流す。明日からどんな面下げて登校すればいいのだろう。これが寝坊に対するペナルティなのか? あまりに酷すぎやしないだろうか。

 

 ……ま、いいや。思考を放棄して微笑む。

 もう、どうにでもなーれ。

 

 

 

 学院の中はがらんどうだ。彼の第七階梯の教授から保健室の先生まで、教員全員が魔術学会で不在。それによって学院も本来は休校日……なのだが、前任者(ヒューイ先生)が大事な時期に失踪した我らが二組は、本日を補講日として登校を続けていた。

 僕は遅刻したけど。

 

 いつもと違う廊下を歩いていると、なんかいろいろと場違いな気分に襲われる。遅刻故の不安とか、今日が休日であることへの淡い期待とか、そういうので胸の中がごちゃごちゃになる。

 

「あ、マスター。私先トイレ行くので待っててください」

「分かった。……いや僕待つ必要ないよね? って、もう行ってる」

 

 流石に、女子トイレの中には行けない。預かったシャルロットの分の鞄の事もあって、仕方なく僕は廊下で待つことにした。

 壁に埋め込まれるようにして立つ柱に背を預け、窓から外を眺める。特殊な製法で精錬されたガラスは気泡一つ、不純物一つ混ざらず、とても透明度が高い。

 どうやって作ったんだろう。魔術かなー、やっぱ。などと、外の風景とは一切関係ない思いを巡らせていると、足音が聞こえた。

 

 振り向くと、見覚えのないバンダナの青年が、良く見知った銀髪の少女を拘束して引き連れている姿を見た。

 

 ……。

 

 どう見ても事案です本当にありがとうございました(白目)

 

 

 

「あん? 生徒か。んでこんなとこに……」

「システィーナ……さん、学内でそういうプレイは、流石にどうかと思う……」

「違うわよ襲われてんのよ惚けてる暇あるなら助けなさいよ――っ!」

「あ、こら暴れんなって」

 

 動揺収まらない思考。つい口から飛び出た軽口は、その必死な突込みによって爆笑ギャグになった。やっぱシスティーナは突っ込みキャラなんだなって。

 けらけらと聞こえたせせら笑いも耳を通らず、ただ上滑りする。混乱の最中にある僕は、頭が空白に染まっていた。

 

 え、いや待って、なんで?

 何この状況。知らな……いや知ってるわ。

 知ってるわ僕。これ原作一巻のテロリスト襲撃イベントやんけ。わー、お初にお目にかかりますぅ。

 

「え? え、警備員……は?」

「ま、いいか」

 

 そうだ、警備員は殺されたんだった。てかどんだけ早く捕縛と誘拐済ませたんだ。僕が校門くぐった時ってまだ警備員さん生きてたよね? 僕どんだけ呆けてたのかな。

 自分自身に呆れながら、自分自身に向けられた指の先から逃れることも出来ない。既にそれがどれだけの脅威なのか、知るはずがないのに知ってしまったから動けない。体が竦んでいる。

 恐怖に応じて、顔が勝手に引き攣る。強がりのように浮かんだ笑みは、果たして笑みに見えただろうか。

 

「そこ動くなよ? ――《ズドン》ってなるからなぁ」

 

 指先から駆け抜けたのは、【ショック・ボルト】の様な細い閃光。しかし、その殺傷力は尋常ではなく、背後ではガラスが割れる音がした。

 

 あれは【ライトニング・ピアス】、軍用魔術であり、脅威は拳銃ほど……射程を考えれば、それ以上だろうか。

 切り詰められた詠唱は、それこそ引き金を引く程容易に連射を可能にし、連射数も十だの二十だのではきかないだろう。

 頬の真横を駆け抜けたそれ。凪いだ僅かな風が、妙に冷たい。

 

 そのまま動けずにいると、呆気無く捕縛された。後ろ手で拘束する縄は頑丈で、(よじ)った程度では抜け出せなさそうだ。無抵抗に捕まった自分が、そんなことを冷静そうに考えている。

 

「ん、鞄が二つ……もう一人いるのか。めんどくせぇなぁ」

 

 そう言ってガリガリと頭を掻いて、男子トイレへと入っていく。

 置いて行かれたのは、きっと何もできないだろうという確信から来るものだ。一つも閉じていない扉を見れば、直ぐに出てくる。だけれど、その僅かな隙でも何かを伝えたいのか、肩に顎を乗っけるように、後ろからシスティーナが耳元で囁く。

 

「ちょっと、アナタ何してるのよ。なんで逃げなかったの? ……って、ああ、そう。シャルロットも一緒だから……」

 

 こんな時にも他人の心配か。余裕があるようで、と思いながら横目で見れば、その顔は僕でも分かるほどに青くなっていた。こういうのを、顔色が悪いというのか、それとも単なる見間違えか。

 当然だ。ただの女学生が命の危険を感じて冷静でいられるわけがなく、更には自身の貞操が奪われるかもしれないのだ。

 そして、それが僕も例外でないことを、ガラスに映った自分を見て知る。そこに映っていたのは、本当に酷い、引き攣った笑みを浮かべていた僕だった。

 これが僕なのか、と一瞬ドン引きするほど歪だった。

 

 ――ああ、怖がってるんだな。

 

 すとんと、腑に落ちた。

 そうだ、怖がっているのだ、と。今更ながら理解したように、今更ながら気づいたように。

 いっそ逃げ出してしまいたいが、すんでのところでシャルロットの存在が僕を踏みとどまらせる。冷静に考えれば、受肉したとはいえサーヴァントだ。たかが人間ごときには負けないだろう。

 

 でも、見捨てて逃げるという選択肢はなかった。あれだ、壊れないと分かっていても、地震の時はお気に入りのグッズを持って逃げだすオタクの思考と同じだ。此処で逃げ出したくないのだ。

 此処で逃げ出したら、きっとそれは愛が無いから。

 

 ふぅ、息を吐く。思えば、これは深呼吸とはまた別に、自分を冷静にさせるルーチンになっている気がする。

 最近は動揺すること多い。

 

 というか、さっき突っ込みながら暴れてたのって、まさか僕を逃がす為だったんだろうか。とんだ自己犠牲精神だ。いや、どうせ襲われるんだから、それまで手荒いことはされないだろうという打算を含んでいたのだろうか。

 じゃあ自分が彼女の立場であったら、同じことはできただろうか。捕らわれの身で、さほど知らない級友を助けるために自分のみを危険に晒せるだろうか。

 

「凄いなぁ」

 

 そう呟いた声は、果たして聞こえなかったようで、聞き返された。

 

「何? なんか言った?」

 

 彼女の、そういうところが苦手なんだ。まるで主人公みたいな蛮勇を働かせるところが。どうせ主人公補正もないヒロイン何だから、大人しく誘拐されていればいいのに。

 

 そんなことを考えて、吐き気が込み上げた。人様を人形(キャラクター)扱いか。反吐が出るなぁ。

 ああ、こんな奴、死んでしまえばいいのに。何時もの様に、そう卑下する。

 

「テメェの連れ、どうやら女のようだなぁ。良いねぇ。どうせなら二人纏めて遊んでやるよ」

 

 トイレから出てきたバンダナの男は、下卑た笑みを浮かべて言ってきた。明らかに僕に向けられた顔で、期待されているだろう反応も、察した。

 

 悔しげな顔をして睨む。

 サービスで軽く突っかかってやると、腹を蹴り飛ばされる。背後に居たシスティーナを巻き込み、廊下に横倒れになった。

 まるでアダルト漫画みたいな展開だな。NTRれ展開は好きじゃないんだけど。

 

 ……いや、そうふざけてられる状況でもないよな。

 

 女子トイレに入ったバンダナの男の背中を見ると、不思議と恐怖以外の想いが沸き上がる。僕でもこんな感情が湧くのか、と思いつつ、その感情で恐怖を麻痺させながら鞄の下まで這いずった。

 閉じた個室を見つけ、バンダナの男が戸を叩いたようだ。ふざけた声と軽いノックの音を聞きながら、鞄の中から素焼きの試験管を探り当てた。自己防衛用にしては過剰防衛な作品だが、今この状況ではまだ心もとない。

 口でそれを持ち、立ち上がる。真正面には視界を遮る壁。首を振って、中身の見えない試験管をトイレの中に頬り投げた。

 

 ああ、重かった。そう心中で呟きながら、同時に口は別の文言を紡ぐ。

 

「《Fervor , mei Sanguis(沸き立て、我が血潮)》」

 

 思い返すのは、これを作るのにかかった月日。本日初公開ですよっとおどけて見せれば、自分の胸が躍っているようにも思える。実際は恐怖だけど。

 

 ()()()()()()()()()()()()()使()()()()。それが判明したのは、何時の事だったか。

 正確に言えば、この世界で定型化された――例えば【ショック・ボルト】や、【グラビティ・コントロール】をはじめとした魔術が使えない。何故なのかは断言できないが、恐らく、僕らの出自が原因なのだろう。

 此処とは異なる法則の世界の記憶を持って生れて、育って。だからルーン言語での自己暗示が、この世界の原住民と同じように働かないのではないのだろうか。

 

 大陸一つ違うだけで、言語ですら変化するのだ。世界が違うなら、深層心理が別物になっていてもおかしくない。だから、深層心理に働きかけるルーン語が正常に機能しない。

 そこでどうすればいいのか、僕は考えた。転生直後ではこの世界が型月だと思ってたし、この世界が『ロクでなし』の世界だと気付いてからも、型月より少しマシ程度の危険さだという意識は持っていた。

 護衛用に、魔術を使いたいと思った。だが、先人が積み上げた技術の結晶は、僕らに適合しない。

 

 そこで、こうした。自分にできないのなら、他にやらせればいいと。発想の大本となったのは、『宝石魔術』だ。

 型月には、自身の代わりに魔術を行使する礼装が山ほどある。彼のスマホゲーでは、ど素人でも扱える様な魔術礼装がゴロゴロと出てきたものだ。

 

 何もこの世界固有の魔術に固執する必要はない。自分らで自分らに合う魔術を使えばいい。

 【ショック・ボルト】などの起動も、礼装に代行させればいい。理論が分かれば、後はコンパイルする(こっちの理論に落とし込む)だけだ。

 

 これは、その思想の集大成。

 

「あ――?」

「――《Dilectus incrisio / Scalp(指定攻撃;斬撃)》ッ!!」

 

 今世で自衛用に作り上げた魔術礼装。ロード・エルメロイの至高の魔術礼装。月霊髄液(ヴォールメンハイドラグラム)……の、模造品。

 『模造:月霊髄液(ヴォールメンハイドラグラム・フェイク)』だ。

 

 うん、劣化版である。やっぱケイネス先生スゲーや。

 

 

 

 音声に反応する機能や、一定の形状を維持する機能、ある程度の自立思考に、防御能力。これを作り上げた本家の脳はスパコンなんじゃないかと疑うぐらい、面倒な代物だった。数年かけて未だに完成していないのだといえば、少しは大変さも理解してくれるだろうか。

 体積は試験管二本分。防御に回すには少なすぎるために、攻撃ぐらいしか使い道がない、自衛グッズとして終わってる性能。専守防衛ってレベルじゃねーぞ。

 大体、試験管の容量を広げるだけで一年かかったのだ。材料となる水銀も高いのだし、此処まで着くれただけでも十分に過ぎる。

 

 そんなちょっとした自慢は、これで勝負が決まった、という油断から生じたものだ。

 

「いってぇ! おいおい……なんだぁ? この玩具はっ!」

「っ、効かなかった……避けられたのか!」

 

 体積が少ないだけに、どう攻撃しようとも自然と攻撃力は足りなくなる。細かな制御が必要となる刺突は自動制御では難しい。その為に斬撃を選んだが、間一髪のところで避けられたようだ。 試験管の割れる音で攻撃に気付かれたのだろうか。

 

 トイレの中から足音が聞こえて直ぐ、眼前にバンダナの男の姿が現れた。

 その顔は怒りの色が見えるほどには歪み、だが鹿撃ちをする貴族の様な残虐な笑みも見えていた。

 

「やってくれたじゃねぇか、坊主。あぁ?」

 

 右腕に切り傷。さほど深くなさそうだ。やはり、振り返ったところで避けられたのだろう。命令しなかったために礼装は待機状態で、恐らくはトイレのタイルに転がっていることだろう。使い捨ての護身用具とでも思われたのか、どうやら何の対処もしてないようだ。

 

 せめて自律機能を先に組み込んでいたら――いや、それでも足止めには――今なら不意打ち行けるか?

 

 『模造:月霊髄液』に搭載した機能なんて、形態維持と音声認識、自律防御、斬撃、刺突、殴打くらいだ。

 自律索敵とか、ほんとどうやって搭載していたんだろう。せいぜい数メートルの動体しか検知できないんだぞ、うちの子は。魔力の供給源から離れると只の水銀に戻るし。

 

 あー、ほんと。どう改善すればいいのやらねぇ――っ。

 

「かはっ!」

「アダムッ!?」

 

 思考は、呼び動作の分かり辛い蹴りによって中断させられる。

 

「おーおー、良く吹き飛ぶじゃねーの」

 

 肺に残っていた空気を吐き出し、強かに背を打ち付ける。よろめきながら壁に着いた背。倒れはしないものの、横隔膜が痙攣でも起こしているのか、呼吸ができない。

 嗜虐癖でもあるのか。バンダナの男は人差し指をぴんと立てると、こっちに向けてくる前にこういった。

 

「痛かったじゃねーか、今の。カノジョ救ってヒーロー気取りかい?」

 

 面白いオモチャを手に入れた様な、無邪気で悪意の籠った笑み。ああ、いやな予感しかしない。

 

「だが素晴らしいっ! いやー、やっぱ青春っていいよなぁ? そう思うよなぁ?」

 

 突然の大声に、視界の隅でシスティーナがビクッとするのが見えた。

 

「だからさ、カノジョさんを救うチャンスをやるよ。

 今から十発、てめーを撃つ。全部耐え切れたら、三人とも見逃してやっていいぜ?」

 

 ああ、テンプレだなぁ。

 これ絶対後で反故にされる奴じゃん。

 

 

 

「《ズドン》《ズドン》《ズドォーン》……ほらほら、後四発だぜ? 男を見せろよ、カレシくん?」

 

 彼氏って誰の事だ、と考えて、それが自分の事だと踏みとどまる。意識が途切れそうになって、前後の記憶が繋がらなかったのだ。飛びかけた思考を繋ぎ止め、痛みに喘ぐ口を開く。

 

「《S ca――」

「《ズドン》。おおっと、どうしたんだ?」

 

 さっきから、『模造:月霊髄液』への音声指示が妨害されている。まさか、あれが繰り返し使えることを察しているのか? そうでなくとも、他の予備を隠し持っていると疑われてもおかしくないか。そも、なんでさっきから妨害されている? 同時に詠唱を始めれば、確実にこっちの方が早く詠唱し終えられるのに。こっちが口を開く前に唱え始めてる? どうやって――口元か。口元を見て、こっちが口を開くより早く、こっちが唱え始めるより先に、【ライトニング・ピアス】を撃っているのか。あ、光って――

 

「《ズドン》《ズドン》。おおっ、後一発だぜぇ? 根性みせんじゃーん」

「――ヵ、ァッ」

 

 ――脳が焦げるように、体が痛む。

 

 最後の二発によって、全身に痺れが回った。これまで腕や足をギリギリ掠る程度にしか撃っていなかったそれの威力調整を引き上げたのだろう。そんな分析をしているが、体の方は死に体である。もう壁に寄り掛かることしかできていない。意識も途切れかけ、礼装への指示も、行えそうにない。

 学院の実力テスト用の礼装では役に立たない。護身用の『模造:月霊髄液』は命令を入力する前に妨害される。

 

 霞む視界。狭まる視界。廊下で向かい合わせになっている僕とバンダナの男以外の景色が、白く霧かかって見えない。

 

「いやぁ、中々すごかったぜぇ? うんうん――てなわけで、死にな。《ズドン》」

 

 嘘くさい笑みから一転して此方を嘲笑ったその男は、最後の一撃として放つ【ライトニング・ピアス】を発動させ――

 

「ん、あぁ?」

 

 ――られ、なかった。

 

「人様の生徒で、なぁに勝手に遊んでんだぁ?」

 

 聞き覚えのある声だ。

 ああ、そうか。

 

 主人公(グレン=レーラス)が、到着したのか。

 

 目の前が黒くなる。気絶したわけではなく、光が遮られたためだ。

 声は遠くなり、恐らくは先生の背中であろうそれを見つめながら、廊下の床に膝を突いた。目を細めてその背中を見ると、まるでアニメでも見ているかのように現実味を感じられなくなっていた。そろそろ、やばいのかもしれないな。

 ふわふわする体で、物を想う。目の前でグレン先生の体が跳ねる。バンダナの男に拳を打ち込んだのだろう。

 

 ――あ、確かシャルロットがまだ。

 

「くそっ、こうなりゃ――」

 

 ああ、やっぱり。追い詰められた敵役って、なんでかいつも人質取ろうとするよね。

 それが何だか可笑しくて、だから僕は何故か微笑む。

 

「《Scalp(斬り殺せ)》」

 

 自分の声の筈なのに、何故かその一言は綿に包まれたように遠かった。

 同時に聞こえた誰かが転ぶ音も、それを取り押さえる先生の物音も、体を揺さぶってくる誰かの声も。

 全ては霧のように霞んで。

 

 そして僕は、気絶したようだ。

 

 

 

「う、ぅんん……」

「起きたか」

「あれ、グレンせんせ――いった……っ」

 

 次に目を開けると、眼前にはバンダナの男を卑猥な感じで縛り上げてるグレン先生と、心配そうにのぞき込んでくるシャルロットの顔があった。後頭部の感触は、膝枕だろう。後ろ手に回っていないところを見るに、拘束は解かれたようだ。

 

「ああ、シャルロット。大じょ……」

「もう少し寝ていてもいいですよ、マスター。ええ、はい。私はこの通り。マスターが足止めしてくれていましたから」

 

 とてもいい笑顔でそう言ったシャルロットに、僕は自分の心が満たされるのを感じた。

 

「そうか……それは、良かった」

 

 僕の愛は――

 

「――って、そうそう。シャルロットよぉ。あんたなら一人でこいつぐらいのせてたはずだろ? なんでやらなかった」

「いやですねぇ、グレンくん。私、トイレに居たんですよ?」

「それがどう――」

「――先生ッ、セクハラですよ!」

 

 ああ。

 セクハラって、もうこの時代でも存在するんだな、って。

 

「っ、おはようございます、グレン先生」

 

 この状況下で甘えてられるわけもなく、僕は身を起すことを選んだ。

 硬い廊下に寝そべり、背中が痛くなったのも理由の一つだ。どうせなら、ああいうのは家のソファーとかでやってもらいたい。

 名残惜しみ、後ろ髪を引かれる思いで立ち上がると、後頭部に少し痛みが迸った。きっと、倒れた際に床に打ち付けたのだろう。痛みの響く処を抑えると、先生はらしくもなく心配げな瞳を向けてきた。

 

「大丈夫なのか? こいつにさんざっぱらやられたばかりなんだし、もう少し休んでたらどうだ?」

「いえ、硬い床で休むも何もありませんよ。それに、この状況なら休んでいるより動き回っていないといけないでしょう?」

 

 そう言うと、グレン先生は凄く微妙そうな顔をした。なんでだろうか。

 

「グレン先生の言う通りよ、アダム。さっきあれだけ【ライトニング・ピアス】打ち込まれてたんだし、休んだ方が良いわ」

「いやいや、いっても手加減されてたものだ。軍用魔術ってところが【ショック・ボルト】とはかけ離れているけど、この程度なら被害の程度はさほど変わんない。せいぜい何十発も【ショック・ボルト】をぶち込まれた程度の負傷だよ」

 

 そう言いつつ、グレン先生を見ろというように目をやった。システィーナはそれにつられて顔を向けると、ああ、なるほど、と言った風に頷いた。いや、呆れた。

 僕でも分かるげんなりとした顔に、グレン先生は何か文句あるのかよ、という風に口を開く。いいえ、何も。その短い言葉が、システィーナの返答だった。

 

「さてと、そっちの彼は、どうするんですか?」

 

 シャルロットがそう言って、話題は直面した事態のそれに立ち戻る。

 グレン先生が捕縛したテロリストの片割れ、バンダナ男。名前は分からないが、なんかヤンキーっぽい。シャルロットに近づかせないようにしよう。

 と、その時。シャルロットはバンダナ男を見て何か思い出したのか、胸の前で手を打ち合わせた。

 

「あ、ちょっと失礼しますね」

 

 シャルロットが女子トイレの中に戻っていく。忘れものでも取りに戻ったのだろう。バンダナの男はグレン先生に引き摺られ、女子トイレの入り口から遠ざけられる。おいそこ、首傾げてスカート覗き込もうとしてんじゃねー。あ、グレン先生に殴られた。

 そんなことを考えていると、ふと忘れ物を思い出す。

 

 あ。

 トイレと言えば、僕の礼装はちゃんと回収したっけか。

 

「マスター、此方をどうぞ」

「ああ、ありがとう、シャルロット」

 

 忘れ物をしたのは、僕の方だったか。

 

 シャルロットは小さいメロンぐらいのサイズの、銀色の球体を差し出す。

 ミニチュアサイズの月霊髄液とでもいうべきそれは、正しく僕の作った模造品の礼装だ。空間拡張の魔術を刻んだ試験管はもうないので、これからはこれを抱えて移動することになる。

 

 ……いっそ、置いて行こうか?

 ズシリと手に圧し掛かる重みを前に、そんなことを思案する。だってこれ持って移動するの疲れそうだし。

 でも、これを作り上げるのにかかった労力と資金と資金(大事な事なので二回言った)を考えると、それも躊躇われる。いや、一度作り上げられれば複製なんて容易い事なんだけど。むしろ『量産性』がこいつの売りですらあるんだけど。

 

「けっ、誰が話すかよ」

「ほぉーぅ? そうかそうか、このグレン様に楯突こうというのかね? ――亀甲と薔薇、好きな方を選べ」

 

 向こうではいやな予感しかしない二択が提示されてる。どう抗おうと地獄の二択って奴だろうか。僕の想像通りなら、周りへの被害が大きいし、むしろ本人が新しい扉開きかねない。

 ていうか何やってんだろうあの二人。どういう話の流れで亀甲と薔薇の二択が出てくるんだ。

 尋問なんだろうけど。尋問ではあるんだけど……牛と梨とかじゃあないのかな、そういうのって。

 

 

 

 

 

 

 

「お前等なんぞ、レイクのやつが――」

 

 途切れた言葉、震える瞳。その先を辿る様に僕らが廊下の奥を向くと、そこには笑うしかない光景が広がっていた。

 成程、此れが『話の途中だがワイバーンだ!』と言うやつか。

 

「……はな」

「言わせませんよ、マスター」

 

 遮られた。

 流石に真面目にしないと怒られるようだ。

 

 見れば、廊下を埋め尽くすほどの骸骨がそこに立ち並んでいた。

 ははっ、此処は炎上していなければ聖杯戦争も起こってないんだぜ? 人理が滅んでもいないし、そもそもシャルロットに凶骨とか要らないから。強いて言うなら塵。でもお前等落とさないじゃん。

 ね? 君たちの来る場所じゃないの、分かったかい竜牙兵君たち。

 

 心中で、()()()()()()()()()その召喚獣に文句を言いながら、だらだらと冷や汗を流す。

 一時期、型月世界の魔術を再現しようとして只管流出させまくった術式の一部に、あんなのがあった気もする。当時『これで骨採り放題だぜやったね!』って興奮してたのを覚えてる。

 でもあれ、割と特殊な素材と無茶な鮮度を要求してるはずなんだけどなぁ。見た目が似てるだけの別術式って線は……ないみたいですね(諦め)

 

 駄目だ。使われている魔術式に見覚えがありすぎる。

 

 うん。

 

 これが終わったら、全部の礼装に魔力パスを繋いでおこう。

 無詠唱でも起動できるように。過剰防衛でもいいから、自衛できるように。

 『模造:月霊髄液』の改造を最優先におきながら。

 

 そう誓った。だって、コレ後でお偉いさんに恨まれるパターンじゃん。

 危険視されて排除されるパターンじゃん。

 

 謝って済む問題じゃ……ないっすよねぇ。

 レイシフト用のコフィンが出来たら真っ先に修正しよう、この黒歴史。

 

「――逃げるぞっ!」

 

 人間、流石に波には勝てません。

 それが殺意を持っていたなら、猶更。

 

 




聖晶片×1 獲得!

※主人公は完全にこのイベントの事を忘れていました。

Q.主人公ってどれだけ凄いの?
A.エルメロイ教室に通ってたら冠位(ロード)の称号も夢ではない程度には才能に溢れてます。
 Fate知らない人向けに説明すると、「肉体年齢が学生、かつ倫理観搭載のオーウェル=シュウザー」みたいな人物です、主人公は。
 ただ変に良識があるので、発明品比べでもしたら負けます。「これ造ったら世界滅びるかもな」と思うようなものも平気で作りそうな人物なので、あの教授。

Q.冠位(ロード)って?
A.ああ!
 ……冗談はさておき、要は型月世界における『第七階梯(セプテンデ)』みたいなもの。

Q.なんでシャルロットはトイレから出てアダム君を助けなかったんですか? ていうか、サーヴァントってマスターの記憶を読み取れるんですよね。原作知識は共有されてなかったんですか? なんでマスターが傷ついているのにいい笑顔何ですか?
A.シャルロットは完全に善意のみで行動しています(答えになってない)
 シャルロットの行動は、マスターを愛する故の善意です。

Q.レイクさんの召還術強化され過ぎでは?
A.主人公の(大分)過去のやらかし&遠くから戦闘を見守っていると明らかに独り場に似つかわしくない人物(シャルロット)が居たので少し本気出してます。

 因みにアダム君がこの術式を開発した時の事を思い出そうとすると眠くなります。記憶に靄がかかってるんすね。



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