シャルロット・コルデーに聖杯を貢ぎたい……お淑やかな服の下でははちきれんばかりになってる才能を丸出しにしたい……そう思ったとき、既に行動は完了していた(理性蒸発)   作:夢見る人・夢描く人

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皆さま、ガチャは悪い文明です(挨拶)
評価、誤字報告、感想、ありがとうございます!

明けましておめでとうございます。
今年もご愛顧のほどよろしくお願いします。


第二幕 木漏れ日に揺蕩うように優しく
ロクでなし魔術講師と恋愛妄想(エロトマニア) 七話 浮足立つ


 フェジテの街は活気に満ちていた。起きたばかりの体に血が巡り始めるように、人々は賑やかに街を満たす。普段よりも騒がしい彼らは、来たる祭り――魔術競技祭に胸を高鳴らせていた。

 学生は 自らの活躍に思いを馳せ、或いは級友の雄姿に期待を寄せて。講師は会場の準備に、特別な客人を出迎えるのに失礼のない備えを。そして全く魔術とかかわりのない人々も、例年には現れないあのお方の来訪にざわついていた。

 

 気の早い露店は既に魔術競技祭で出す食品やらを売り始め、飯時には揚げ物や肉を始めとする香ばしい匂いが石畳に染み付いていく。

 高揚する彼らに感化されてか、巡回する衛兵らの足取りもどこか高らかで、その顔は期待が滲んでいた。

 

 祭りだ。

 もうすぐ、楽しいお祭りが始まる。

 

「――ふ、ふふ、ふふふ」

 

 だが、それと相反するように薄暗い部屋の中、アダムは俯きながら肩を震わせていた。

 自然と漏れ出る笑いに体が揺れている。何がそこまで嬉しいのか。楽し気なその声は、けれど部屋の様相のせいで不吉さすら醸し出している。

 

 さながら、爆弾を仕掛けたテロリスト、毒ガスを撒く前の殺人鬼にも似ている。

 

 その手に持つのは小さな桐箱。掌大の遺骨か、或いは臍の緒のミイラでも入っていそうな、見ているだけで息の詰まる様な箱。

 そんなことは無いのに、まるで自分がその小さな箱の中に押し込められているような圧迫感と、そんな異常性を帯びた箱に対する恐怖を与えてくる。

 

 彼は愛し子にそうするように、そっと蓋を一撫でした。きっとそれはとても大切な物なのだろう。

 或いは、思い入れか。

 

 育て親が死んで復讐者に成り果てたある男は、育て親から受け継いだ体術のみでそれらを殺したという。

 遺品遺産は死を想わせる楔で、ある意味では死者の代弁を為す象徴なのだろう。

 

 全ての行動に意味があり、全てのものに価値があるのならば。

 きっと石にも遺志が染み渡るはずだ。

 そうしてできた遺品はきっと、無二の物となる。

 

 ……けどまぁ、そんな話はきっと関係ない。

 

 ゆっくりと開けられる桐箱の隙間から虹色の燐光が微かに漏れ出る。

 雨上がりの虹にも似て、美しい。特にこの薄暗い部屋の中ではそれが良く映える。

 

「ふふふ、ふふふふふ、ふふふふふふふふふふ――」

 

 やがて開け切った箱の中には、星型八面体の結晶と、その欠片である正四角錐の結晶がぎしりと詰まっていた。

 緩衝材の綿も薄く潰れるほどに溜まったそれらは世界の資源――数多の可能性が結晶化した超常の物体。

 

「溜まったなぁ……ふふ、ふふふ!」

 

 そう。

 

 虹色のアレ(聖晶石とか聖小片とか)であるッッ!!!

 

 

 

 聖晶石とはぶっちゃけ課金アイテムだ。課金してないから無償石か。

 聖晶片はそれと交換するアイテムと言ったところだろう。ゲームでは七つもあれば石一つになったけれど、アダムが変換しようとすると八つは必要になる。つくづくダヴィンチちゃんは天才なんだなって。

 

「ふふ……ふぅ」

 

 ストーリーをクリアすれば山ほど手に入るそれを、何故アダムがご神体を拝むオタクの様な顔で見ているのか。それは、その素材の貴重性と異常性と、何より調教されたプレイヤー魂に端を発している。

 

 召喚陣も召喚システムもないどころか、聖杯も伝承結晶もないこの世界において、一見すればそれは無価値な資源に見える。

 いや、召喚も糞もねーよ、と。聖杯戦争も人理修復もしてないんだから、意味ないじゃんと。

 

 それは、大きな間違いだ。

 忘れてはいないだろうか? 聖晶石は六騎のサーヴァントを纏めて復活させたり、或いはアタランテが飛びついたあの黄金のリンゴの代用になるという事を。

 

 結論を言おう。

 アダムは、疑似的な蘇生礼装の()()を可能としていた。

 

 ああ、実は前世で獅子頭だったりするのだろうか。米国、量産技術の申し子なのか。正直な話をすれば、単なる蘇生というだけなら前例は山ほどある。

 流石に死体や魂が損傷していたり、死後数時間も経っていると無理だが、そうでなければ蘇生自体は可能だ。これも白魔術の発達故の功績である。

 やっていることは基本的にAEDと変わらない。心臓が止まっているならばそれを動かし、脳が傷を受けているなら修復し、魂が抜けていたら冥府までも潜って引き戻す。

 

 軽く漁れば、数件は見つかる前例だ。

 

 ではアダムの礼装の何が異常か。いや、何が戦争にとって有用だったのか。

 持ち運びの便利さ。保険としての性能。確保できる数。即効性。適用できる遺体の損傷の範囲。

 

 その何もかもが、既存の白魔術を凌駕するためである。

 

 例によって消耗品だ。既製の絶対数は百にも届かない。

 だが、それを一騎当千の強者に渡せばどうなるだろうか。もしかすれば、単騎で国一つを攻め落とせるのではないか。

 それほどまでの品なのである。

 

 

 

 ……あ、でも別に今回作る奴とは関係ないですよ。

 

 

 

「さて、始めるか」

 

 アダムはそう言って、机上に並べた薬研を引き寄せた。

 

 まずはメルキュールの生体研磨用銀砂を、精霊根の汁液と共に塗布した薬研で聖晶片を磨り潰す。その結晶がへき開しないような軌道を心掛ける。エンキ産霊水を旧書派のやり方で浄化したものを少量ずつ加え、土塊の様な手応えになるまで混ぜ合わせる。

 

 ゴリゴリ、ゴリゴリと手を動かすアダムの背中を、シャルロットは部屋の奥にある一人用ベットに腰かけて眺めていた。

 

 薄暗いからこそ良く分かる僅かな光量の変化に目を光らせながら、アダムは針に糸を手を通すように繊細に器具を操作し続ける。

 絶えず机の上で舞う手は洗練されていて、きっと職人芸と呼ばれるそれなのだろう。

 片手で使用した容器の共洗いをし、もう片方の手で次に使う溶液の調合をする。その間、目は抽出器具からそらさずその具合を見続けている。

 

 たった二本の腕でも絡まりそうな、端から見ていても意味の分からない器用さ。一体幾つのタスクを並列して行っているのだろう。

 本人は慣れというが、慣れただけで果たしてこんな動きができるのか。

 シャルロットの目からは、それもまた確かな『達人技』というものに見えた。

 

 錬金術師が弟子を取るとき、その大抵の第一声は“敬意をもって、道具を扱え”だという。

 別に道具を敬えという事ではない。敬意を払う様に丁重に扱わなければ、その大抵の調合が失敗するためである。

 故に、“敬意を払え”と。

 神に祈るように道具を扱えと教えるのだという。

 なら、きっとアダムは神が見えているに違いない。

 

 ああそうだ。

 

 たしか五年ほど前に彼が『アトラスの思考法を身に着けた』と喜んでいた。その時は素直に祝ったが、心の中ではまだ身に着けていなかったのかと驚愕したものである。

 

 素であんな訳の分からない並列作業をしていたと?

 

 ……劣等感に悩みますよ、まったく。

 

 シャルロットは静かに苦笑する。

 

 だが、劣等感という割にはその笑みは大層自慢げで。

 目には憧憬に似た慈しみが宿っていた。

 

 

***

 

 

 時刻は既に日の出を過ぎ、街に血が通い始めるようになった。

 朝靄の残る窓の外を眺めながら、ぼんやりとマスターの傍に佇む。心地良い、穏やかな静寂だ。

 

「んー、終わりっ」

 

 上に延ばした二本の手は、しかし何か作業の続行とする動作ではなかった。

 ゴキゴキと首の凝りを解しながら背伸びをしている。欠伸の音が耳に届いた。作業は終わったみたいだ。

 

「お疲れ様です、マスター。もう朝ですよ」

「ありがと、シャルロット。……まぁ、日本人は大半社畜気質だし、これくらいはね?」

「私は何も言ってませんよ?」

「後ろに居るから顔も見えないね……うん、うん。ごめん、威圧感が凄い」

「なんのことでしょうか」

 

 薬包紙に小分けにされて包まれた弾薬が散乱する机上を見て、熱が入り過ぎたことを自覚した。流石に作りすぎたようだ。これなら少なくともニ十発分は銃弾を作れる。それだけあったところで何ができるわけでもないのに……何か、別の用途でも探ろうか。

 

「さて、朝ご飯はどうしよっか」

「もう私が作っておきますから、マスターは寝ててください。一時間くらいしか寝れなくても、寝ないよりましでしょう?」

「んー、わかった」

 

 ふわぁう、と堪えられない欠伸が漏れた。

 ああ、これは大分疲れているな。栄養ドリンクで誤魔化している分の疲れを実感し、椅子に深く腰掛ける。

 一時間となると仮眠だ。だが、今の疲れでベットに横になったら起きれるものか分からない。寝坊しないよう、完全に寝込まないような体勢で寝る。

 

「じゃあ、少し寝るよ。おやすみ」

「はい。おやすみなさい、マスター」

 

 解されていくような安らぎの中で、パンの焼ける香ばしい匂いが漂っていた。

 

 

 

 学院生の朝は早い。伊達に2桁の乗算の暗算を必須とされていない。

 学費自体は奨学金やら支援やらで何とかできるが、その分下層階級――平民身分の学生には、素の能力の優秀さが要求される。

 周り以上の努力や天性の素質、或いは遠国の知識、特殊な魔術、研究成果や論文なんかもありだ。

 

 総じていうと、学院生は最低限でも優秀でなければその地位を維持することが叶わない――魔術師の素質だけで居続けることのできる身分ではないのだ。

 

 それがどういうことかというと、つまりこう言いたいわけだ。

 

 

 ――学院生の朝は早い。

 起床は日の出と共に、街の人が水を汲む音を聞きながら朝食を終え、日の出たばかりの朝日を浴びて学院へ足を運ぶ。

 

 教室に着いた時には、もうだいぶ席は埋まっていた。

 

「いや、遅刻したかと思って焦ったよ。みんな、何時もは此処まで早くないのに」

「グレンくんが原因みたいですね。『あの同類と思われたくない』とか、『あいつの前で遅刻したら死ぬほど煽られそう』だとか、そんな理由が多いみたいですけど」

「反面教師か」

「ですね」

 

 あー、焦ったー。

 未だにバクバクと余韻を残す胸に手を当てて、机に臥せる。

 

 いつも通りの社交性で女生徒らと談笑してきたシャルロットは、この事態の原因と思われる人物について語り始めた。

 

「にしても、やめませんでしたねー、グレンくん。あれだけ止めたがってたのに」

「まぁ、そりゃ色々あったんだろうさ」

 

 確かヒロインらとの絡みで色々思い直して……っていう感じで主人公は講師を続けていたはずだ。いや、原作で心が折れた原因を取り除いたのだから、単純に『そろそろ働かねーと本当に飢え死ぬっ!』という危機感を抱いただけかもしれないが。

 

 ……というか、特務分室から『お守り』の受注、未だに来ないんだよな。

 まぁ、出されても困るんだけども。聖晶片の数もそれほど多いわけじゃないし。量産ができない。

 

 でも『死を覆す』なんて馬鹿げた礼装、例え消耗品でも買い占めようとすると思うんだけどなぁ。やっぱりセラさんが約束守ってくれたのかね。

 

 約束を守るのはいい事だ。

 でも少し『お守り』の情報が漏洩してあちらこちらから狙われるのも悪くないなぁ、なんて思ったりもしたんだよね。

 備えもいろいろしたのに、これじゃまるで僕がテロリストの襲撃を妄想する中二男子みたいじゃないか。

 

 いつまでたっても心は子供、成長なしの社会生活不適合者! ……ってか?

 

 うん。大人になっても心が子供な奴は、普通にウザいだけだよね。となると僕は社会生活不適合者だったのか。

 まいったなぁ。反省しないと。

 

「ああ、それともう一つ」

「ん?」

「今日こそ競技祭の振り分けを決めるって、システィーナさんが言ってましたから」

 

 一瞬、時が止まる。聞き覚えのない話題、知らぬ間に平行世界にでも迷い込んだか、と――

 

 あ。

 

「……ああー、僕が寝てる間にか」

「そうですねぇ。最近まともに寝てませんですもんねぇ……お話の最中に寝るぐらいに」

 

 ハイ、ごめんなさい。

 

「よろしい。……ふふ、マスター。マスターはどの種目に出るんですか?」

「いや、僕が出るなら錬金術系列以外は有り得ないだろ」

 

 僕は転生者であり、その為この世界の原住民とは深層心理の構造が異なる為だろう。僕はみんなが使う呪文を唱えても、皆の様な魔術を発動させることができない。

 いやはや、【ショック・ボルト】呪文唱えて地面が割れたのには驚いたな。何処がどうなってそうなったんだ。

 

 そんな僕は、実技の時は調律用の礼装や発動代行の礼装を付けて挑んでる。ズルしている感が否めず、一年次は学院内で2番目に胃薬を服用していた。

 今ではもう慣れたけれども。

 

 実技では何とか誤魔化せても、流石に大勢の目線が集まる場所でも同じように誤魔化しきれるとは思えない。その為の礼装があるならまだしも、起動した時点でセリカ=アルフォネアに見抜かれるだろう。

 

 一応、自分用に改変した呪文なら普通の魔術で起こす結果と同じことをすることもできる。だがそれは少しでも魔術に詳しければ、即座に気付けてしまうような改変――魔改造というやつだ。

 そんなものを大人数の前で使用して、尚且つ何の間違いかで異能者扱いされた日には悲惨なことになるだろう。ヒトラーの前で黒人が白粉落とすような物だ。

 

 死ぬ。確実に死ぬ。

 だから僕は競技際に出たがらない。でても錬金術系統のみなのだ。

 錬金術なら、呪文の腕とかには注目されないから。

 

 ……別に錬金術系統の種目は人気が少なくて落ち着くからとか、そういう理由ではない。

 

 ほんとだ。

 

 

 

 システィーナ()()が教卓を前にして声を張り上げていた。

 どうせならば全員で参加しよう、とかいうお題目で声を張り上げている。

 

 ああ、本当に、良くやるねぇ。

 そんな皮肉主体の心の声は、しかし確かに感心から湧き出たものだ。そこに嫉妬だとか煩わしさだとか、そんなものが混ざって皮肉染みたものになったのだろう。

 

 そんな自分の心に対して、子供の頃に作って遊んだスライムを思い出した。

 洗剤とか水とか着色料を混ぜて、異なる色同士を混ぜて、最終的に『混沌』と呼びたくなるような『黒にもなり切れない混色』が出来上がった。

 

 ……なんで子供の頃ってあんなに色を混ぜて黒を作りたがるんだろうなぁ。

 何だ?

 綺麗×綺麗=サイキョー! ってことか?

 

 馬鹿じゃねぇの?

 馬鹿だったわ。

 

「はぁぁ……死にたい」

「はいはい。あ、お話長くなりそうですし、お茶飲みます?」

「飲む。アイスティー?」

「そうですよ」

 

 シャルロットがポットから淹れたそれを受け取る。ひんやりと掌に伝わる冷たさは、紛れも無くアイスティーの証。

 香りがなんだのと言われるが、自分は冷たい飲み物じゃないと落ち着かない性質なのだ。仕方ないだろ。

 

 今は授業時間でないので、別にこうしてお茶を嗜むことに気後れすることは無い。というか、自由時間なので咎められる人がいない。

 システィーナさんもそれが分かっているからだろう。本来自習だの友達との会話だのに充てる時間を割いてもらっているという自覚が、僕らの行為を責めさせるのに躊躇させている。

 

 うーん、美味しいっ!

 

「……あ、あの、アダムくん?」

「はい?」

「そのー、システィが凄い目で見てるんだけど……」

 

 ええ、気味の良い目つきですね。

 愉☆悦……って奴カナ。

 

「まぁ、あこの一杯だけですので。喉渇いてるんですよ」

 

 とは言え、そんなことを口に出せるほど度胸があるわけではない。

 普通に考えてそんな奴、村八分にされても仕方ないから。

 

「うーん。その、早く飲み切ってね?」

「分かりました。……これで?」

 

 ぐびっと残りのお茶を飲み干して、手早く片付ける。

 軽い挑発も楽しんだことだし、そろそろ真面目に話を聞くふりに戻ろう。

 いつもの眠気も、この一杯で完全に覚めたし。ハーブティーってスゲー。

 

 そうしてコップをシャルロットに返し、頬杖をついて講壇を見下ろす。荒い溜息と共にシスティーナさんは肩を下ろし、ルミアさんは自席に戻った気配がした。

 

 ……真面目に話すとすると、一年次の頃の『競技祭に出たい!』なんて思いはこのクラスから消え去っている。その原因は明確、今回の競技祭には女王陛下が来られるからだ。

 ああ、誰が好き好んで天皇に無様を見せたい? しかも、当の天皇が権力を握っている時代に。僕の生まれた日本のように、置物になっている象徴ではないのだ。

 

 元より成績の振るわない生徒は当然の事、成績の優秀な生徒だって臆してる。例外はギイブルやシスティーナさんぐらいだ。

 

「話は聞かせてもらったぞ! このグレン大先生に任せるんだなぁ!」

 

 わ、システィーナさんすっげぇ顔してる。

 いやみんなすげぇ顔してるな。「面倒なのが来たか……」って顔だ。

 

 しかしここからは早かった。それこそ、アニメ第一話の導入の如くするする話が進んでいった。

 

 

 

「んでー、あー、シャルロットは――『代理決闘』だな。うん」

 

 代理決闘。自身の代わりを立てて行う決闘。

 魔術師の場合は、即ち『自身の使い魔による決闘』を指す。

 

 ……使い魔(サーヴァント)が使い魔使役して戦うのかぁ。

 天使さんに頑張ってもらうのかな? まぁ、一見しても深く調べても謎存在だけど、それでも英霊(サーヴァント)の一部だし。

 何も使い魔とは比べ物にならないスペックだろうな。

 

「今年のルール次第では、全戦全勝も夢じゃなさそうだね」

 

 そう呟いて横を向くと、シャルロットは意外にも乗り気で、笑っていた。

 珍しい。去年はずっとなぁなぁで済ませていたのに。

 

「なるほど、最近天使さんとあまり一緒じゃなかったので、丁度いいですね。

 やって見せましょう、全戦全勝……!」

 

 理由は分からないが、どうやらシャルロットは凄くやる気のようだった。

 むんっ、って意気が可愛い。うん。理由なんてどうでもいっか。

 

 僕に割り振られたのは『品評会』。要するに材料を持ち寄り、魔術を使って自由に制作して、その出来を競う種目。

 審査員によって得点が定まらない種目で、基準も不明瞭。密かに情報収集と買収の手腕を競う種目なのではないかと囁かれてる。

 因みに審査員は当日まで公開されない。というか教員から抽選で決めるみたいだ。昨年いろいろと調べて知った。なので教員方に聞いて回ったり、或いは探りを入れるのは全くの無意味だったりする。

 抽選を偏らせるために賄賂をするならともかく、まず選定方法が抽選だと気付くのが三年次だというのだから、二年次にこのような手を使うものもいないだろう。

 

 ……今年度の四年生の代は事前買収とか盤外戦術とか闇討ちとかで酷く盛り上がったらしいけれど。

 それは例外だとしよう。実際希少な例だと聞いた。

 

 この種目は割り振られた瞬間から既に始まっているようなもので、制作物を決め、予めそれに必要な『部品』を作ったり集めて置き、それを当日持ち寄る……というのが基本。

 まぁ、素材持ち込みと言っても部品がダメとは書いてないからね。その場でぶっつけで作るような場合は、手順で魅せたり、捻りを加えたり、色々な工夫を凝らさないといけなくなる。

 ただ、事前準備なしでも勝てなくはない、というのがこの種目の面白い所なのだ。その年の審査員に技術屋気質の教員が居れば、部品の持ち込み、調合済みの薬品の持ち込みは逆に不評になることもある。

 その時その時で柔軟に対応できるよう、組み立て用部品の他にも技術の披露用の製作品とそのレシピが必要だ。

 

 あ、これは全部教員の気質を理解していることが前提の話だ。

 滅多に交流を取らなかったり、或いは一部の関心をかうことが軽犯罪に入る様な人物であった場合、その年は阿鼻叫喚となる。

 是非もないよね。抽選なんだから、結局は運だ。

 

 

 

「なぁ、アダム。今年は何作るんだ?」

「んー、今年は、そうだなー。

 ……半永久的に飛び続ける竜の模型でも作ろうかな」

「お? なんか恰好良さそうだな!」

「だがそれで審査員の心象は掴めるのか? 言うまでもないだろうが、技術が伴わなければ幾ら出来が良くても――」

「第三種永久機関のエンジンを組み込もうかなって」

「――まて、待ってくれ。色々と待て。一言の内に突っ込みどころを複数入れるのは止せ。永久機関ってなんだ、完成してるのか? というか第三種ってなんだ。また新しい分類でも作ったのか」

「いや、さっきまで徹夜してたんだけどさ、その際にふと思いついちゃって。やってみたらできたのよ。他時間軸の自己存在を燃料にする機関。

 思ったけど、永久機関か? これ」

「時間軸への干渉……だと? おまえ、おま、おまえ……」

「そっ、それよりカッシュは競技祭どうするの!? 確か『決闘戦』に選ばれたんだよねっ!」

「お、おう、そうだな! グレン先生は『【トライ・レジスト】と回避で耐えて殴り飛ばせ』ってさ! 相変わらず型破りな人だヨナー!」

「……だが、効果的でもある。確かに魔術師の主な戦法は魔術の打ち合いだが、至近距離まで縺れ込めば一発の拳の方が呪文を使うよりも早いからな」

 

 あ、帰ってきた。

 

「ギイブルおかえりー」

「お前はもうしゃべるな」

「酷いなぁ」

「妥当だと思うよ」

「あれ、セシル? セシルさん?」

「まぁ、アダムはシュウザー教授と同レベルだって言われるぐらいだしなー。いろんな意味で」

「カッシュカッシュ。友達を売らせるようで悪いんだけど、それ誰が言ったんだ? 大丈夫、ちょっとO★HA★NA★SHIするだけだから」

「ん? 確かギイブルだな」

「ちょっ!」

「ギイブル……お前に教科書では教わらないことを教えてやるよ……!」

「止めろ! にじり寄るな! また変な噂が流れるだろうがッ!!」

 

 ぎゃーぎゃわいわい、やいのやいの。

 基本的にシャルロットが居ない昼食は、これぐらい騒がしい。けど周りはもっと騒がしいから目立たない。

 

「知ってるか? 最近人工金鉱石の錬成実験で精錬された魔力結合性メリストス鉱が酸化すると計六波長の瘴気エネルギーを放出するんだけどな、実はこの中の第二瘴気エネルギーがな――」

「やめろ! 本気で気になる分続きが聞きたくなるからやめてくれっ! 我に返った後に肝を冷やす思いはうんざりだ!」

「あっはは、何そんな慌てんだよ、ギイブル」

 

 いやー、他人を揶揄うのは楽しいなぁ。

 いけないと分かっててもついついやっちゃいたくなる。

 

 

 

 そして放課後。

 近い休日に四人で街に繰り出そうかという約束をして、校門で別れた。

 但し僕が向かうのは自宅ではない。図書館だ。シャルロットが中庭で練習しているらしいから、彼女を待つために。

 

「んじゃ、また明日」

「ああ、またな!」

「また」

「みんな、またね」

 

 そう言って手を振り、ばらばらに分かれていく。僕が向かう図書館は学院の敷地内にあるので、踵を返す。

 校門から去っていく人影の中にシャルロットの姿は、当然ながらない。シャルロットは、少し中庭で競技祭の練習をするらしかった。一人で帰るのも、一人で家に居るのも寂しいので、僕は図書館でネタ探ししようとしているわけだ。

 

 だが……。

 

「さて、本当に何を作ったものか。

 『半永久的に飛び続ける竜の模型(仮名)』がダメなら、思い切って人工太陽でも作ろっかな」

 

 何もセシルらが言う程に突飛な発想ではない。

 こんなもの、前世では普通に思い描かれて居た空想で、今の自分には空想を現実にできる技術があるだけ。魔術が人の深層心理を突き詰めるというのなら、魔術による発明という分野では僕は現代の魔術師の数百年分先を行くアドバンテージがある。それ故に天才に見えるというだけの話だ。

 

 学院の図書館の蔵書量は、常人が想像できるものよりもはるかに多い。生前通っていた大学に付属していた図書館でも此処の数分の一の蔵書量もなかったと断言できる。敷地面積からして違うのだ。

 まるで迷宮のように奥深くまで広いこの図書館は、地上三階建て、地下は存在しないと言われているが……果たして嘘か真か、学園地下の迷宮と同じぐらい深くまで続く地下施設があるらしい。

 後、実は時空間を弄る魔術で外の見た目よりも空間が拡張されているだとか、一部の本棚の間は異界を接続することによって人が通れるぐらいに広くなってるだとか。

 眉唾でしかないのに、不思議と信じてしまえるような神秘を僕ら学生はこの図書館に感じている。

 

 

 

 行き詰まった。

 この図書館で確たる目的もなく、刺激を求めて文献を探し求めて、それで都合よく刺激が得られるなど……そんな夢物語は無かった。刺激を得る前に圧倒的な蔵書量に押し潰されそうになる。

 だから息抜きとして、適当な人の論文でも読もうと思って、それを借りの捜索目的とした。何度でも読み返したい、と思える論文んは、一つだけあった。

 いや……あれは論文なのだろうか? ……きっと論文だ。うん。

 

 さぁて論文、論文……この区画、でこの棚の筈、って。

 

 あ。

 

「……うん? あっ」

 

 先客がいた。ラブコメの様な接触事故を起こしながら、僕の目線の高さにあるそれを手を伸ばして先に取った少女がいた。

 学院で最も小さいだろうサイズの制服に身を包む、その友人の名前を僕は知っている。

 

「やっぱり、リンか」

「あ、アダムくん」

 

 目的の本は、何の理由かは知らないが彼女が手に取っていた。あまりに特徴的な表紙だからわかる。あれは、セリカ=アルフォネア直筆の学院生徒向けの論文だ。学生が読む難易度ではないことを除けば。

 なんで学生向けの文章にバンバン専門用語出してんだよ……しかも何の補足説明もないし。何なら専門用語と専門用語組み合わせて専門家でも頭を捻る様な造語つくるし。

 

「えっと、本気でそれ読むの? また?」

「う、うん。今日は今まで読んだところを読み返そうかなって思ってたけど……翻訳、お願いしてもいいかな?」

「別にいいけど……え、何処まで読めた?」

「126頁までは何とか……」

 

 絶句。

 

「……それは、頑張ったね」

「えっへへ」

 

 確か前に『翻訳』したのは80何頁かそこらだったはずだ。単語のメモを取っていたとはいえ、バンバン色んな専門用語使って、しかも分野外のものまで半々の割合で紛れ込ませてくるアレを自力で読み進めたのか……そっかぁ。

 

 彼女のはにかみに少し畏敬を抱いた。

 

 努力家ってレベルじゃねーぞ。もはや勉強中毒なんじゃないだろうか。

 いや、ないか。普通に可愛らしいし、中毒なんてないない。

 

 というかリンの種目は『変身』だったはずだが……まぁ、大方息抜きに別分野の勉強をしようとか、そういった理由だろう。何時もの事だ。そこでなぜ、よりにもよってこれを手に取ったのかは分からないが。

 それほど多いわけではないが、僕もこの図書館にはわりと来る。論文を漁ったり、娯楽本を読みに来たり。

 そして僕は毎回、図書館の何処かしらでリンの姿を見かける。

 

 多分、毎日ここで勉強してるんじゃないだろうか。気のせいならよいが、もう此処に住み着いていると言っていいくらい良く見かけるのだ。

 

「あ、それでね。この前この本で『第五真説要素』って単語があって、それを再現するのが術式の肝だ―っていう風なことが書いてあったんだけど……」

「第五真説……ああ、『真エーテル』かな? いや、それは架空の方だっけか……」

「えっと、アダム君でも分からなかったかな?」

「……まぁ、意地を張らずに言えばね。

 

 『第五真説要素』っていうのは『第五架空要素』に対する反物質……概念的な猛毒みたいな無質量物質を指してるんだ。で、確か『第五架空要素』っていうのが『エーテル』で、『第五真説要素』が『真エーテル』って呼ばれてるはず。

 説明しにくい概念だから分かりにくいけど、要するに『魔力』と『魔力に対する猛毒』って感じで覚えると良いよ。実際、それで大体あってる」

 

 僕自身、これらの概念への理解が曖昧だから詳しく説明ができない。

 その点を申し訳なく思うも、リンは気にする様子はない。

 

「そうなんだ。じゃあ、此処の頁で言ってることって……」

「要は『神様殺すために原動力の魔力枯渇させよう!』って理念から初めて、紆余曲折通って『魔力の汚染とか根絶とかはできなかったけど、何とか神様殺せる様な魔術作れました』ってことだよ。

 ……なんでその結論(虚数エネルギー)に行き付いたかなぁ……いや、確かに理論的にも思想的にも間違ってはいないけどさぁ……」

 

 因みに詳しい術式、呪文の構造が書いてある246ページ以降は、虚量石(ホローツ)の持つ虚数質量をエネルギーに変換し、噴出のベクトルを制御してー、って感じの理論や方法が500頁ぐらい細かい字でずらずら書かれてる。非常に目が痛くなる。

 この技術の本質は、既存の鉱石を用いた疑似的な反物質を生成することにある。その為、神殺しの魔術が吹き荒れた後には塵一つ残らないのだ。対消滅とかで起きたエネルギーの打ち消しとか、そこらへんも大層頑張ってる。

 巻末には変換効率の試行錯誤の記録とかが付けられてたなぁ……面白かったけど。

 

「それより、『変身』ってどの術式使うのかは決めたの?」

「うん。先生がアドバイスしてくれた魔術でね――」

「そうか。じゃあ神話とかも呼んでみると良いぞ。知ってるか? 女神の翼って実は――」

 

 防音の魔術を展開し、僅かに居る他の生徒等に声が届かないように細工する。

 迷惑だろうと思っての配慮ではなく、事前情報を抜き取られないための警戒だ。手首に着けた調律礼装を通して流れる魔力が形を成し、自分たちが発する音と逆位相の音を球状に広がる定点から発する振動で打ち消し(キャンセル)する。

 振動の減衰は痕跡を残しやすいし、何より理論が分かりやすい魔術の方が使っていてストレスが少ない。魔力消費は、まぁ……誤差だ。

 

 そうして日暮れまで話し合い、そろそろ帰宅する頃合いだと席を立つ。

 

「あ、この本……論文は僕が返してくるよ」

「ほんと? ありがとう。じゃあ、私はこっち返してくるね」

 

 そう言ってリンが持つのは、話の途中に僕が参考資料として持ってきた宗教や神話の歴史に関する本。

 そっちの方が重いぞ、と思って手を伸ばすと、こっちの棚の方が近いから、と取り上げられた。

 じゃ、入口で待ってるね。そう言ってリンはさっさと本棚の奥へ消えていった。

 

 ……うん。

 少しの罪悪感と共に、僕は論文が集まる区画の、最初の目的地だった本棚へ向かう。

 そして手にあるそれを隙間に戻し、最後にもう一度見直す。

 

 周りが論文の束で占められる本棚の中、革の背表紙のそれは特に異彩を放っていた。

 

 『セリカちゃんと学ぶ良く分かる神殺しの覚え方っ!』

 

 全体的にとても丸っこく読みにくいそれを必死に無意味な記号と認識し、げんなりしながら後にした。

 なんで僕はアイデアに行き詰まったからと言ってこんなのを読もうとしたのか。

 というか装丁までされてるのになぜ論文扱い何だろう。内容的にはそうなんだろうけど。

 

 

 

 

 

 

 この後、練習終わりのシャルロットの紅潮した頬に人知れず興奮したり、リンとシャルロットの会話が盛り上がりすぎて寂しくなったのはまたの話しとしよう。




リンがどうしても凛に変換される……



蘇生礼装
もしかして:霊脈石
無いのならば(配られないのなら)作ればいい。リンゴ農家(クリプター)もこれにはにっこり。
令呪が無いなら作ればよいのです。


Q.アダム君はホモですか?
A.女顔(セシル・ギイブル)が性欲の対象に入るってだけのノンケです(迫真)

>>(迫真)
 やっぱホモじゃねぇかぁ!?

>>やっぱホモじゃねぇかぁ!?
 違います。違います。大事な事なのでもう一度言います。
 違います!



※言い忘れましたが、この小説は基本的に主人公よりヒロインの方が強いです。
 月霊髄液があろうが攻撃を『回避』して無敵を『鋼鉄の決意』でブスリとさせば終わりだし、強力な呪いと病を扱えても死霊には効きませんし、冠位級の魔術師だろうと聖槍の前では簡単に消し飛びます。
 何なら自身を戦闘用兵器に改造しようが兵器の神様には勝てませんし、ただの学徒が楽園の妖精に対する勝ち筋など有するわけもなく……。

 ……基本的に後方支援で輝く主人公なのです。




次回 の 更新は 未定 です。
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